英雄に憧れた2人
「うひょー! 豪傑が勢揃いでありますな!」
フローレアがあちこちを見ながらはしゃぐ、知ってる顔もいるのか、なんとか話せないか見ていた。
「こらこら、旅行に来たんじゃないぞ、僕達は世界を救いに来たんだから」
「ま、英雄物語に憧れる気持ちはわかるっすけどねぇ」
「そうでありました!」
フローレアはハッとなり、頬をバンバン叩く。気合の入りようが違うなとケイは微笑み、桐枝は羽目を外さない程度に楽しむのか、近くの屋台からジュースをもらっては飲んでいた。
「とはいえ、選定される者達と会話する事自体は禁じられてない、好きに会話してくるといいと思うよ、確か選定の候補者は、手に印がついてるはずだ」
それを聞くとフローレアはパァッと笑顔を見せながら喜んだ。
「本当でありますか⁉︎ なら…!」
そうしてフローレアは誰と話そうかと選ぶが、街角を見ると、ふと目に止まった人間がいた。
「ハッ! あれは都市でも指折りの槍術使い! 『龍槍のレナード』 行ってきまする!」
そう言ってフローレアは、槍を持った男、レナードの所に行く。初めて会話するにも関わらず、フローレアは唐突に、レナードと話し始めた。
「失礼! そちらは龍槍のレナードでありまするな⁉︎」
「そうだけど、お前は誰だ?」
「私はそちらのファンでありまして! 今回の選定には観光で来ていたのでありますが、まさか貴方のようなお方が来ているとは!」
フローレアは憧れで目をキラキラさせながらそう言うが、レナードはフローレアを足蹴にするように言った。
「悪いけど、ファンだろうと俺は今はそれに応える余裕はない」
やけにひりついた態度でレナードは対応する。だがそれに気づかずフローレアは話を続けた。
「この選定の儀式で、其方は一体どのようなことを成す気でありますか?」
「邪魔をするな、騒がしい」
「やはり英雄を夢見てここに来たのでありますか!」
「当たり前だ! なんなんだお前は! さっきから当たり前のことを聞いて!」
フローレアがずっと話しかけてくるのが鬱陶しく思ったのか、レナードは彼女を拒絶する。そんなレナードの言葉にフローレアは目を見開き驚く、話に聞くレナードはこんな人物ではないと思いながら。
「私は、ただ英雄に憧れる者として……貴方に興味を持って…」
「だったら邪魔をするな! お前も選定されに来たのならな!」
そう言われるとフローレアは一歩二歩後ろへ下がった。自分の想像していた英雄の姿と、目の前の選ばれた英雄の姿に対して、違いを感じた。
「違う、私が望んだのは…こんなの、『英雄なんかじゃ…ない』」
その時、激情のままに発してしまった言葉が、レナードに仮想の力を発動させてしまい、謎の力場が発生した。瞬間、レナードから手の印が消え、彼から選定の候補者としての証が消える。
「これは……おい! お前! 何をしたんだ! 俺から選定の印が消えてるぞ!」
「違う…フローは…ただ」
「お前! よくも!」
レナードが怒り、フローレアに槍を振るうが、すぐさまケイが間に入り、剣で槍を弾いた。
「なっ⁉︎ お前は…ケイ⁉︎ 大戦時の英雄が、なぜここに⁉︎」
「久しいね、レナード、君は既に大戦時に英雄になってるはずだ、それなのに、まだ名声を求めたいのかい?」
「名声だけでは食ってはいけない時代になったんだよ! お前こそ、大戦で死んで、機械兵大戦で蘇っておいて、組織の犬になった癖に」
「そうだね、でも、この子は僕の部下なんだ、手を出さないでもらえるかな」
ケイがそう言うとレナードはちっと舌打ちしながら去っていった。
「ケイ殿ぉ!」
「うんうん、怖かっただろうね、でももう心配はないよ」
「いいえ、これは私の責任! 私が仮想の力さえ使わなければ…!」
「それはそうなんだけど、何故……君が力を使った瞬間、候補者のレナードが候補から外れたのだろう?」
それを聞くとフローレアは「確かに!」と驚いた。
「言われてみれば変でありますな? 私の仮想の力が、候補権を外すだなんて…」
「……まさかとは思うが、この選定の形と、フローレアの仮想の能力、元を辿れば同じ力になるのか?」
ケイは一つの仮説を立ててみるが、だとしたらこの選定の候補を選ぶ者がいるはずだと思う、が、しかし、この選定にはそんな裁定者がいるとは聞いていない、なら一体誰がとケイは思った。
「フローレア、君は、この依頼でその力は使わない方がいい、なんだか、嫌な予感がするんだ…」
「承った…」
フローレアの力とかの選定の関係、一抹の不安を残しながら、彼らは選定の儀式を調べていくのだった。
ーーー
一方、永戸と神癒奈の方は多くの候補者を眺めていた。
「俺、英雄になったら絶対この世界を守る!」
「バカが、お前みたいなひよっこに英雄なんざなれるわけがねぇ、なるのは俺だ」
「いーや、俺がなるんだ!救世主は俺が似合うね!」
「やだね野蛮人達は、似合う似合わないの話じゃないでしょうに」
そんな会話を聞きながら2人は歩く。ふと、神癒奈は永戸に言った。
「英雄に選ばれるって、どんな気持ちなんでしょうね」
「どうしたんだ、物思いにふけって」
「いや、私たちは英雄になる事を望み、なれた側じゃないですか、じゃあ彼らは、英雄に選ばれるのを待つ側ってどうなのかなーって私は思いまして」
そういえば確かに、と永戸は思い、考える。2人は確かに、形こそ違えど英雄に自らなった者達だ。永戸はかつてはいきたえたケイの意志を継ぎ、英雄殺しの名を物にし、神癒奈は英雄を夢見ては永戸の背中を追い、自らの国を救っては英雄になった。
彼らからすれば、英雄になることと、選ばれることは、どこか違う世界の人間の考えるようなことに思えた。
「そうだな……なり損ないになるくらいだ、きっと選ばれなかった時の喪失感も半端じゃないだろう、けど、英雄は選ばれてなる者じゃないと俺は思ってる」
「と言うと?」
「英雄というのは、誰かに定められて、決められて名乗るものじゃない、どんな形でもいい、偉業を残して、初めて英雄と名乗る事を許されるものだと思う。それにほら、前に絶望と初めて戦った時、お前が話しただろう。どれだけ倒れそうになっても、どれだけ辛くても、立ち上がって、困難を乗り越えて、誰かの前に立つ光になる。それが、英雄の条件だって」
それを聞いた神癒奈は、一瞬目を見開いたが、クスッと笑うと言った。
「そういえば、そんなことも言いましたね」
「おいおい、忘れてたのかよ」
「いいえ、改めて、私たちがどんな存在なのか、実感しました」
神癒奈はそう言うと、永戸の前に立っては笑う。
「私にとってのただ1人の英雄が目の前にいて、貴方にとっての女神が目の前にいるのですから」
そう言って神癒奈が笑うと、永戸も笑った。
「そうだな、本当に、お前が言うとなんでも本当のように思えてくるよ」
「えへへ、だって私、神様ですから」
そうして2人は選定の儀式まで、のんびり待つことにしたのだった。




