英雄の選定
それは、神癒奈が神域で仕事をしている時のことだった。
「次の転生者は…ふむふむ……与える力はこのくらいがいいですかね」
転生者の情報を見ていくが、ここで、ある違和感に気づく。
「あれ、次の転生者も、その次の転生者も、同じ世界に転生します」
転生の際の能力に違いはあれど、どの転生者も同じ世界に転生する事になっていた。基本的にこのような事態はなく、あったとしても集団で転生や転移は学校のクラス単位とかその程度だった。だが、それが何故、なんの関係もない者達が転移することになったのか、神癒奈は不思議に思った。
「……フィアネリスさん、ちょっといいですか?」
「はい♪ なんでしょう」
頼りになる唯一の自分の守護天使を呼び出し、神癒奈は聞いてみる。
「これを見て欲しいんですけど」
「これは……おや」
フィアネリスもおかしいと思ったのか、情報を一つ一つ精査した。それをした後、彼女は言う。
「神癒奈さん、これは、神癒奈さんが本来転生の担当ではないのかもしれません」
「と言うと?」
「向こう側の転生のプログラムに何かバグが生じた可能性があります」
「それが、あの大量の転生者?」
ええ、とフィアネリスは答え、リストの情報を全てEパッドに書き写す。
「兎も角、この件は明日、四課で処理しましょう、我々の想像の範疇を越えそうなので」
「そうですね、四課の人たちに任せた方がいいかもしれませんね」
神癒奈とフィアネリスはその後も転生の仕事をしながら、例のリストに乗る転生者達について考えるのだった。
ーーー
そうして翌日、四課にフィアネリスが、リストを届ける。それをふむ…とユリウスが確認して見る。
「この転生者のリスト、少し覚えがあるね、確か…」
ぴらぴらと紙の束をめくっていっては依頼のを探すユリウス。あったと言って見つけては出した。
「異世界にて大規模な英雄の選定が行われている?」
「うむ、私としても変わった依頼だと思っているが、我々は今回、その依頼で選定の様子を見ることになった」
「それはなぜです?」
「…選ばれなかった英雄達が、なり損ない化するリスクが非常に高かったからだよ」
次の資料を見たまえとユリウスは神癒奈とフィアネリスに資料を読ませる、すると、そこには英雄に選定されなかった者達が何人もなり損ない化する寸前まで追い込まれていたのだ。
「大方、なり損ないとしての形は「嫉妬」の辺りだろう、一部には「傲慢」もあったようだが、微々たる差だ、イストリアは今回の件に四課の出動を命じた」
それを聞いた神癒奈は目を光らせる。自分たちの出番ならばと、そう言うわけで神癒奈は依頼を受ける事を決定し、出撃の準備をした。それを横目に永戸はコーヒーを飲むが、どこか気乗りしない様子だった。
「永戸さん、行きますよ! 依頼の場所に!」
「あ? ……あぁ、そうだな」
永戸も立ち上がると出撃の準備をする。だが、彼の中には、英雄の選定という言葉が、胸に棘のように突き刺さっていたのだった…。
ーーー
そうして依頼の異世界にやって来た永戸達、今回のメンバーは神癒奈とフィアネリスに加え、フローレア、桐枝、ケイの三人で来た。どのメンバーも英雄に関することでの事件に関わっていて、使えるのではないかと思い誘ったのだ。
「おお! 今回の仕事は聖剣の戦士2人との仕事とは! フローは感激極まりない!」
「あっははは、よろしくっすよ、先輩として、色々教えるっす」
「僕も何か手伝えることがあれば、遠慮なく言ってくれ」
「頼りにしておりますゆえ! よろしくおねがいする!」
トラックの方ではそんな会話がされていたが、外の景色を直に見れるトライクの方では、永戸が安全運転で神癒奈と乗っていた。
「…どうしたんですか? あまりやる気に見えないようですけど」
「えっ? あぁ、ちょっとな」
神癒奈に不安を見抜かれていたのか、永戸は少し苦笑いをする。
「なぁ、英雄って、選ばれて勝手に「英雄になれ」って決められてなるもんなのかな」
「えっ?」
「……いや、気にしないでくれ」
永戸はそういうとトライクのスピードを上げたのだった。
ーーー
街に着くと、そこでは、賑やかな祭りが行われていた。街の外にトライクとトラックを停めると、永戸達は街の中へと入っていく。
「わぁ…」
賑やかな祭りの景色と、それを楽しむ住民達を見て、神癒奈は少し驚いた。英雄の選定という複雑な状況なのに、この世界はそんな危機的状況とは別に暮らしを謳歌しているのだと。そう考えていると、神癒奈のお腹がぐーっと鳴る。
「すみません…」
「まぁオフィスから出てから何も食べてないもんな、よし、ここらで一旦休憩にしよう、各自、街の探索をしつつ食事をとってくるように」
そうして休憩時間になり、永戸と神癒奈はフィアネリスらと別れて行動をする。
街の屋台で聞き込みを兼ねた食事をすることなった。
「お兄ちゃん達外の世界から来たのかい? いやぁいい時に来たねぇ、今この世界、加えてこの街では英雄の選定を行なっているのさ、外の世界や世界中からあらゆる強者をあつめてこの世界を守る英雄を決めてるところなんだ」
はむはむとチキンを食べてる神癒奈を横に、永戸は聞く。
「こんなに英雄を集めて、選定ってそんなに大袈裟なことなのか?」
「そりゃそうさ、世界を守っていく英雄を決めることだからね」
永戸もチキンを受け取って食べるが、スパイスが効きすぎたジャンキーな味がして悪くない味だと思った、だが今はそれどころじゃないと永戸は質問を続ける。
「なぁ、英雄になれなかったら、その人達はどうなるんだ?」
「ん? 噂によっちゃ、普通に働いて暮らす者もいれば盗賊まがいの事をする奴もいる。過去には、選ばれなかった者が選ばれた者を毒で殺そうとした、なんて話も聞いたな」
「その中から魔物に堕ちた者は?」
「やけに食い気味に聞くじゃないか、もちろん、いたさ。英雄になれないことに絶望して魔物化する人も中にはいたらしい」
「そうか、聞かせてくれてありがとう、これ、話を聞かせてくれた礼だ、釣りはいらない」
「あいよ、気の利くお兄ちゃんだねぇ」
そうしてチキンを貪りながら2人は街の中を散策する。そうしていると何人か腕利きの冒険者を見つけた。すると、フィアネリスから自身の視界を通じて情報が流れてくる。
【あそこの曲がり角で壁に寄りかかっている武人、あれはかつては国の衛兵だったとされている元軍人ですね。青いテントの屋台でフルーツジュースを買っている者はこの世界で暮らしている弓の名手だと言われています。あー後広場で女を口説いている剣士は、都市のギルドでもSランクの冒険者ですね。本当に色々な英雄になる素質を持つ者達が集まっています】
「なり損ないになる危険度は?」
【バラバラですね、与太話程度に聞いてやって来た人たちは問題はないでしょうが、本気で英雄を目指して来た人ほどその影響を直に受けやすいでしょう】
英雄になる素質も、なり損ないになる可能性もまちまちってことかと永戸は思う。しかしここでふと思った。英雄を決めるこの儀式、一体"誰"が英雄だと定めるのだろうと、裁定者も聞かされてないこの儀式、果たして一体誰が英雄を定め、誰が堕ちるのだと、永戸はそう思うと心の内で不安を抱いたのだった…。




