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ヒトとキツネの異世界黙示録Ⅱ  作者: 遊戯九尾
第八章 再び本部四課へ
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子供からの依頼

 その日の四課は、暇を持て余していた。

 書類仕事もボランティアもなく、クレスは机に足を投げ出し、フローレアと南雲は訓練場で二人槍と大剣を振っていた。メルトは備品の薬品のチェックに向かい、神癒奈は資料室でフィアネリスの手伝いをし、永戸はコーラ片手にパソコンと睨めっこをしていた。


「隊長さん、暇すぎやしねぇか」

「時にはこんな日もある、見ろ課長たちを、お茶会開いてるぞ」


 ユリウスとランジーは互いに紅茶を交わしていて、食後のおやつのケーキに手をつけていた。


「いやぁ、この課でやる事がないと言う事は平和の証だよ、実にいい事だね」

「ええ全くです、はい」


 ランジーは課長補佐になってからすっかりユリウスの下でペコペコするようになり、永戸たちの扱いも改まった。なんせこの本部において、彼らは英雄視されるほどの存在であるからだ。

 そんな彼らがのんびりしていると、コンコンとドアがノックされ、開くと一般の兵士が立っていた。


「四課へ依頼が届いてます。それとお客様も…少し変わった依頼ですが…」

「変わった依頼? どんなのだ?」


 永戸は朝から立ち上がり、客と依頼の確認に行く。一人で歩いて行き、受付まで行くとその前に立っていたのは、十歳にも満たないだろう少女だった。異世界の民族衣装らしきものを着て、震える手で古びた小さな鏡を握りしめている。


「あの……ここ、が、困った人を助けてくれる場所……ですか」


 その少女の声は掠れ、今にも泣き出しそうだった。


 ーーー


 少女を四課のオフィスに迎え入れると、今いる四課のメンバーを招集させ、少女から事情を聞くこととなる。彼女が握っていた鏡は、異世界間の簡易的な転移の術式が刻まれた遺物で、本来なら、子供が扱うような代物ではない。おそらく大人の目を盗んで持ち出してきたのだろう、と永戸は察した。

 椅子に座らせ、冷たい飲み物を出すと、少女はぽつぽつと語り始めた。


「わたしの村、最近、変なんです。大人がみんな、“あの人”の話をしちゃいけないって言うんです」

「あの人?」


 神癒奈が優しく尋ねると、少女は俯いたまま答えた。


「昔、村を守ってくれた人……のはずなんです。でも今は、誰もその人の名前を言わない。お墓もない。まるで、最初からいなかったみたいに」


 どうやら村では数年前、大きな災厄があったという。少女はまだ幼く詳細を覚えていないが、断片的に大人たちの会話を盗み聞きしたところによると、「誰か」がその災厄を止めるために犠牲になったらしい。しかし村の大人たちは、その「誰か」について一切口を噤んでいるようだ。


「わたし、その人にお礼が言いたいだけなんです。なのに、誰も教えてくれない。……もしかしたら、悪いことをした人だったのかもしれないって、そう思っちゃって、怖くて」


 その話を聞くと、永戸はふむ…と考える。存在を消された英雄、彼としても、少し興味の湧く話だった。フィアネリスは済ました顔をしているが少し涎が垂れている、彼女にとってはとても興味深い話だろう。

 試しに彼女は全知で探ってみる。すると、すぐに答えは出た。だが彼女は口を塞いだ、今ここでそれを言うべきではないと。


「それで、どうするでありますか? この依頼を受けるのですか?」

「誰であれ四課に頼まれた依頼だ、受けるさ」


 永戸はそう言うと壁にかけてあったコートを着込み、四課のメンバーを連れて外へ出たのだった。


 ーーー


 異世界を渡り、村へ向けてトライクとトラックを走らせる永戸たち。トライクの後部座席に乗る少女は申し訳なさそうにしていた。


「いいの? 手伝ってくれて?」

「別に何か問題があるわけでもない、これは四課へと来た正式な依頼だ、断る道理はないんだよ」


 村に着くと、四課のメンバーは降車し、村を見渡す。村人からは奇異な目で見られている。よそ者と思われているようだ。


「各院、調査を開始してくれ、トラブルは起こさぬよう、穏便にな」


 その一言で四課は動き出す。村の大人達に次々と話を聞いて行くが…。


「この村に英雄? そんな奴なんかいねぇよ! よそ者め、出てけ!」

「この村に英雄なんていないさ、あるのは毎日の平穏な暮らしだけだよ、さぁ帰った帰った!」

「救った人なんかいるわけない! この村は平和だ、分かったらさっさとどっか行け!」


 どの人に聞いても、口を割らない。フィアネリスに頼もうかと思ったが、フィアネリス自身も「今はその時ではありません」と真実を言うことを閉ざした。


「こうなると、残るは村長の家だな…」


 永戸達は、困ったように村長の家へと向かう。ドアをノックすると、村長が出てきて、驚いてきたが、しかしすぐにどこか硬い表情で迎えた。少女が事情を話すと、中に入れてくれた。


「どうして、そこまでしてこのことを知ろうとする?」

「わたし! "その人"にお礼がしたくて…だから…」


 少女がそう言うと、村長の顔がわずかに強張る。


「……この子がそちらへ。申し訳ありません、この子が余計なことを」

「余計、ですか」


 永戸の一言に、村長は目を伏せた。


「教えて欲しい、この村に何があったのかを、そして、何故住民はそれを解決した人の名を語らないかを」


 永戸は村長の目をまっすぐ見てそう言う。村長はそんな彼の瞳を見ては黙っていられなくもなり、ぽつりと話し始めた。


「数年前に起きた災厄、それは魔物の暴走でも天変地異でもない、村の水源を巡る近隣集落との争いが、後に引けなくなって起きた惨事だった。そしてそれを止めたのは、この村の若者の一人。彼は争いの原因を作った側にも与さず、双方に強引に停戦を迫り、結果として、村人全員から「裏切り者」として扱われ、村を追われるようにしていなくなった。家族でさえもだ」

「なら、何故彼の名を公表しない、村の問題を望まぬ形とはいえ解決した者なんだろう?」


 永戸は村長に問い詰めるが、すると村長はこう答えた。


「彼が去った後、村には平和が戻った。しかし彼を追い出した側の人間たちが、今も村の中枢に残っている。彼の名を口にすることは、自分たちの過去の過ちを認めることに直結してしまう。だから、誰も彼の名を言わない。まるで最初からいなかったかのように」


 村長はそう言うと、ため息をついた、どうやら彼もその村を救った人を憂いているようだ。


「それは、お前らの都合だろう」


 永戸の声は静かだったが、村長は身をすくめた。


「その人がいなけりゃ、今この村はなかったんじゃないのか。なのに名前も、墓も残さない。それのどこが”平和”だ」


 村長は長い沈黙の後、絞り出すように言った。


「……分かっている。分かってはいる。だが、今さら認めれば、村は再び割れる。あの争いをもう一度、掘り返すことになる」


 すると、神癒奈が一歩前に出たのだった。


「だったら、せめて。この子にだけは、本当のことを教えてあげてください。彼女はただ、お礼を言いたいだけなんです。それすら許されないなんて、あんまりです」

「そうだな……せめて、誰か一人の記憶にでも残れば、彼も救われるだろう」


 ーーー


 尊重は真実を語り、少女は村を救ったのは誰かを知った。ここで初めて、フィアネリスが口を開く。


「彼は、誰にも傷ついて欲しくなかった、だから選んだのです。村から裏切り者と罵られようとも、村の平和を選んだことを、彼は」

「うん…その人のおかげで、私たちは、今も平和に暮らせてるんだよね」


 少女は争いの発端となった水源へと赴く。そして、小さな石を置くと、祈りを捧げた。


「あなたのお陰で、今も村は平和に暮らせてます、今どこにいるかは分からないけど、けど、ありがとう」


 それを見た永戸達は依頼を達成したと判断し、手に持っていた報酬を指で弾く。少女からは報酬は、頑張って集めた少しの金しか貰えなかった。だが、その少女の優しげな表情を見て、彼らは、それ以上の対価を感じたと、思ったのだった…。

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