密航者
いつものように朝を迎え、テレビの映像を見ながら永戸達は朝ごはんを食べる。すると、二階から一緒に暮らす玉藻前が降りてきた。
「孫〜…頭が痛いのじゃあ…」
「だからあれほど昨晩は飲むなと言ったじゃないですか」
頭を抱えて寝巻き姿で降りてくる玉藻前を神癒奈が介抱する中、同じく一緒に暮らす渚もとてとてと朝ごはんを食べにくる。だがその足は妙に早足だった。
「これもらってくね!」
「渚さん! 朝ごはんはちゃんと食べないと!」
「ごめん! 今日は無理!」
着替えもサキュバスクイーンの力でさっさと済ませて渚は出ていくが、その姿に永戸達は多少違和感を感じつつも朝ごはんを食べ、出勤することになった。
「なんか渚急いでたよな、今日何かあったっけ」
「さぁ? 裏路地は今日も普通だと思いますけど」
そんな会話をしつつ、四課のオフィスに到着する。
「おはようございます」
「はい、おはよう、私達宛に依頼が一件来ているよ」
「なんでも…裏路地の方で、都市への密航者が見つかったそうです」
メルトから密航者と聞いて永戸達は警戒する。
基本的に都市ミズガルズは異世界からの来訪者は受け入れている。だがしかし受け入れるにはそれなりの検査や検問を通らなければならない。それなしで入ってきた場合、当然ながら、それらは密航者となる。
しかし、その法は表通りにしか適用されない、なぜならば…。
「裏路地なら別に少なくない事象でしょう、そこの地域の管轄であって俺たちがわざわざ出向く必要はない筈」
裏路地の場合は都市の法は適用されない、よって本来ならば別に気にすることのない話のはずだ、だが、ユリウスの補佐をするランジーから次の言葉が言われた。
「その裏路地は…ナハトヴォルフが管轄する地域、つまり四課の間接的な活動地域なんだ、全く、何故そんな所に密航者が来たのか…」
ランジーは頭を抱える。それに続いてユリウスが言った。
「密航者は、現在ナハトヴォルフに匿われている。そして…その密航者の事だが、なり損ないになる兆候が見受けられた」
その話を聞くと、永戸達は息を呑んだ。渚が今朝忙しそうにしてたのはそういう理由だったのかと、同時に彼女に向けての危険を察知した。確かに渚は強い、だがもしものことがあると、永戸はすぐさま装備を整える。
「躊躇いはないのかね?」
「躊躇ってる時じゃないでしょう、ナハトヴォルフを敵に回したとしても、密航者を止めなければ」
大型リボルバー拳銃「ブレイズエッジⅡ」にゴム弾を装填し、予備の弾をポーチにいれて、永戸はそういう。
「渚なら絶対に庇う、多分もし仮に俺が同じ立場だったとしてもそうする。だから俺があいつを説得しないと」
「隊長さん、妹ちゃんの事を考えるのはいいけどさ、熱くなりすぎてるぞ」
「分かってる。だがやらなければ」
クレスの忠告を聞いても永戸は止まらない。すると彼の目の前に神癒奈が立ち塞がった。
「妹を、殺しはしませんよね?」
神癒奈がまっすぐ永戸の目を見ていう。それに対して永戸は笑って優しく頷いた。
「ゴム弾を装填している時点で察しろ、アイツらは本気で来るだろうが、俺は殺しはしない」
ぽんぽんと神癒奈の頭を撫でると、永戸は笑って出ていった。それを見た神癒奈は微笑んだ。
「おい、止めなくていいのか?」
「あの顔は、嘘をつくときの顔じゃないですよ、大丈夫です。私も、あの人についていきます」
神癒奈とフィアネリスも永戸についていくと、ユリウスは笑った
「彼らなら大丈夫だろう、諸君、諸々の仕事に戻るように」
そうして四課のオフィスでは、いつも通りの仕事が行われていくのだった。
ーーー
一方、こちらはナハトヴォルフギルド内、半身が既に変質している男を、渚が介抱していた。
「ほら、なり損ない化を止める薬だよ、大丈夫、毒とかじゃないから飲んで」
「嫌だ…俺は、俺はまた、仲間に裏切られる!」
「ダメだよ飲まなきゃ! 飲まないとキミはキミじゃなくなっちゃうんだよ!」
「うるさい! どうせお前も! 俺を裏切るんだろう!」
渚が出した薬を手で払いのけるが、その途端男は血を吐きだした。
「ダメです姐さん! そいつを匿ってると、四課の連中が来ますぜ!」
「だからって目の前の命を放っておくっていうの⁉︎ ボクにはそんなことはできない!」
「でもそいつはもうなり損なう寸前じゃないですか! もう救えない!」
「嫌だ! ボクはそれでも助ける!」
渚は首を振っては男を助けようとする。しかしそのときだった。
「不味い! 四課が来た!」
それを聞いた渚はハッとなり、男をカウンター裏に隠そうとする。
「おい渚、まさか実の兄とやり合う気じゃないだろうな!」
ジェフリーが静止するも、渚は頷いては男を安全なカウンター裏へ下ろす。そして銃を取ると、魔力で実弾を込めた。
「おにぃちゃんなら確実にこの人を殺しに来る、だからボクが…止めないと!」
渚は銃を持つと、入り口の方に向ける。ギルドの中がしん…と静かになった。
ドアが開けられるが、その瞬間、6発の発砲音が聞こえ、ドアの前に立っていた男が貫かれた。
「渚! テメェ本気でやりやがったな!」
ジェフリーはかつての仲間を殺された恨みか渚に掴み掛かる。
「……違う、おにぃちゃんは、この程度じゃ死なない」
「何⁉︎」
ボロボロになったドアが開かれると、そこには銃弾を受けても黒いタールを垂らして平気で立っていた男がいた。
「兄妹喧嘩でもするつもりか」
永戸は零の力を発動させながら絶望の力も発動させ、渚に威嚇する。その姿を見て、渚は本能的な恐怖を感じた。
「それでも! ボクは守りたい物を守る!」
「見上げた根性だ!」
永戸がリボルバーを構えながら渚に近づく。渚の事だ、確実に殺しに来るだろうと永戸は思うと次弾を装填した渚に向けてリボルバーを撃った。
「うっ! ゴム弾なんて! ふざけた真似して!」
サキュバスの翼でゴム弾を受け止めた渚は次弾を放つが、やはり永戸から弾はすり抜けてしまう。
「なんで⁉︎」
「絶望と戦った事ないだろう、お前は、お前は奴の性質を知らない。だから俺にダメージを与えられない」
永戸はもう片手のリボルバーを撃つと、悠々とした態度で次弾を込める。渚はゴム弾を避けリボルバーライフルにある弾丸を込める。
「本当は使いたくなかったけど、おにぃちゃんを止めるなら、これしかない!」
渚は蒼白き稲妻を放つ弾丸を装填すると、永戸に向けた。それを見た途端、永戸は本能的に危機を察知し、聖剣を取り出す。
「魔弾よ、かの者を撃ち貫け!『ゼロキャリバー!』」
渚は自身の特殊能力、『能力模倣』によってコピーされた永戸の能力、零が使われた弾丸…ゼロキャリバーを撃つ。その弾丸は吸い込まれるように永戸に放たれるが、魔弾の射手の詠唱まで込めた弾丸を切り払った。しかし、そのうちの一発は、永戸の腰に命中してしまう。
「っ…!」
渚が持った零の力が発動し永戸の能力は急激に低下する。零も絶望も使えなくなり、永戸は地に膝をついた。
「お前…いつの間にそんな技を」
「ごめん…四課の人から、こっそりおにぃちゃんの血液を分けてもらって、それを舐めて能力をもらった、もう零は、おにぃちゃんだけのものじゃない」
渚は次弾を装填するも、零の力のこもった弾丸を撃った反動か、こちらも地に膝をつく。
「密航者を、明け渡せ…!」
脇腹を抑えながら永戸は立ち上がる。渚も、意識が遠くなりそうになる中立ち上がり、銃を向けた。
「やめろ! 零の反動はただじゃ済まないぞ!」
「それでも! ボクがおにぃちゃんを止めないと! あの人は殺されちゃう!」
そう言ったときだったカウンター裏から唸り声が聞こえた。
「ガァアアアアアアアア!」
「なっ! 大人しくしとけって言ったろ!」
「違う!そいつは…もう遅い!」
密航者が立ち上がると、体がメキメキと変化していき、なり損なった。
「そんな…助けようとしたのに! どうして!」
「……殺ス! 俺ヲ憎ム奴ハ、全部殺ス!」
なり損ないは渚をつかむとそのまま放り投げた。
「うわぁああ!」
「渚!」
永戸は渚を受け止めるが、先ほどの傷がまだ痛むのか、彼もまた吹き飛ばされる。店の壁に叩きつけられるが、渚は痛みは無かった、だが永戸は衝撃をもろにくらい、体が軋んだ。
「くそっ…!」
「おにぃちゃん! 大丈夫⁉︎」
「ついさっきまで殺そうとした相手へのセリフかそれは…!」
永戸はなり損ないの攻撃を寸前で避け、渚を抱えてはガンブレードから弾を撃つ。しかしなり損ないは止まらず、永戸と渚の二人を襲った。
「これで止まれ!」
次弾を装填し、白銀弾を装填した永戸は、渚を守りながらなり損ないに向けて撃った。白銀弾はなり損ないに深々と刺さり、奴の勢いを抑え込む
「ヨクモ…ヨクモォオオオオオ!」
「渚!」
「うぅっ!」
襲いかかってきたなり損ないに、力を封じ込まれた永戸は渚を抱き抱えて守ろうとするが、その前に、彼らの前に、一筋の太刀が振られた。その一撃で、なり損ないの首が落ちると、続いて対なり損ない用の白銀製の刀が核を貫き、なり損ないは倒れた。
「…大丈夫ですか?」
永戸達の前に、神癒奈が現れる、二人のピンチを悟って助けに来てくれたようだ。
「助かったよ、悪い、手間をとらせてしまって」
永戸は渚を抱えながらも神癒奈に手を取られて立ち上がる。腰に命中した弾丸が痛むが、なんとか立ててはいた。
「あの…おにぃちゃん…その…」
「今回の件は仕方ない、お前の選択だ、俺はそれを尊重する、けど、俺達は都市を脅かす化け物を倒さなければならない、分かるな?」
「分かってるよ…でも…」
渚は亡骸となったなり損ないの男を見る。やりきれない思いがあったのか、口を噛み締めていた。
「…分かってる、お前だって、目の前の命を助けたいと思う気持ちがあるってことは…俺だって、こんな犠牲者を出させたくはない」
「うん…」
「でもそれ以上に、お前が大切なんだ、お前がこいつにやられないか心配だからこそ、俺はこいつらを狩る。許してくれ」
永戸は渚を抱きしめると、渚は泣き出した。
「ごめん…! おにぃちゃんを撃って!」
「あぁ、すごく痛かったぞ、でも大丈夫だ」
抱きしめた渚の頭を撫でる永戸、泣き続ける渚だが、渚は、永戸が本気で自分を心配してくれていることを知り、涙を流すのだった…。




