定期査察
畑だらけの大地を、四課のトライクとトラックが走り抜ける。
「久々にこのトライクに乗るな」
「そうですね、こうして二人で乗るのも久々です」
トライクを運転する永戸の体に神癒奈の体が押し付けられる。永戸はちょっといい思いをしながら運転をする。
「あーあー、いちゃついちゃってまぁ」
「熱い二人でありますなぁ」
トラックの運転席と助手席でクレスとフローレアはそう言う。後部座席の方ではメルトが医学の勉強をしていた。
「すごい…本部の医学、第二支部のよりはるかに進んでる」
「……」
南雲はいつでも動けるようにか、横になって休んでいた。その空の上では、フィアネリスが周りを見渡しながら飛んでいた。
「今回の任務ってなんだったっけ、隊長さん」
「定期査察だよ、以前問題があった世界だから何か問題が再発生してないか確認しに行くんだ、安心しろ、今回は楽な仕事だ」
「そう言って、何度も危険な仕事に付き合わされたのは忘れてませんからね、隊長さん」
そうだったか? と永戸は笑う。のどかな農道の中を走らせ、走った先に町があった。
「ついたぞ、降車準備」
町の端に車両を停めると、資料を持っては永戸達は町の様子を観察しだす。
「これはこれは、イストリアの方々、またよくぞ町に来てくださりました、貴方達のおかげで町は今日も平和に暮らせてます」
「ならよかった、さっそくだけど、町の観察をさせてくれ」
「分かりました! ではこちらに!」
そうして町の中に入ると、牧歌的な雰囲気が漂っており、町人全員が明るかった。
「雰囲気は悪くないな、何か困ってることとかないか?」
「別に問題はございません!」
「よし、所で、お前の名前は? 役職とかは?」
「あぁ、私はポマード・アマンスです、役場の役員を務めてます」
永戸は名前のリストを確認する。しかしそこで、妙なことを発見した。
「変だな、ポマードなんて名前、このリストには載ってないぞ、アマンス家は代々町の町長を務めてる、何か食い違ってるぞ」
「時代も流れてますからなぁ、代替わりしたのでしょう!」
「でも、普通に生きている人もいる、代替わりなら老けてる人もいるだろうが、そう言った様子もない。一部の人間が微妙に入れ替わっている」
「そ、そんなことは…!」
ポマードは焦る様子を見せる、永戸はその様子を見て、何かおかしいと察した。
「……何か、隠していることとかないか?」
思えば町の様子も何か少し変だ、平和な町でこそあるが、人々の表情が作られたような笑顔でできている。するとここでフィアネリスから耳打ちがされた。
「マスター、この街を観測したのですが、資料と実測のデータに誤差があります、何か変です」
「……本当に何か隠してないんだろうな?」
「なにも隠しておりません! はい!」
「はぁ、まぁこう言うなら仕方ない」
永戸は仕方ないと言うと、ポマードに聞いた。
「町の宿屋に泊まらせてもらえないか? 明日から本格的な調査に入りたい」
「ええ! いいですとも! イストリアの方々ですし」
そうして永戸達は宿屋に案内される、どうやら無償で泊まらせてくれるらしく、好都合だと永戸達は思ったが、同時に、何かうまくいきすぎてると嫌な予感も察知していた…。
ーーー
その夜だった、永戸達は宿屋でそれぞれ部屋を借りて寝静まった頃だった。永戸と神癒奈は一日の疲れかぐっすり寝ている。
しかし、そこに迫る影があった。影は短剣を掲げると、永戸に突き刺そうとする、だがそこを、何者かに掴まれた。
「はて? 睡眠時思考処理の時間に何者かが来ていると感知したので接触してみれば、これはこれはポマード様、夜分遅くにご機嫌麗しゅう、これは一体どう言ったご用件で?」
眼光の鋭いフィアネリスの刺すような目線が忍び寄っていた影、ポマードに突き刺さる。するとポマードは言った。
「悪名高きイストリアの役人め! ここから去れ!」
今の罵声で永戸達も起き、手元の武器を持ってポマードに振り向く。
「やっぱり何かかくしてたな、それで、話を聞こうじゃないか」
永戸は首筋に剣を突き立て、ポマードを脅す。するとポマードは怯えながら話し始めた。
「もうあんた達にはうんざりだ! 毎度毎度査察にくるくせに碌に問題も解決しない、なんの解決もせず、俺たちを放っておいてはさっさと帰ってく、あんたたちが解決しないせいで俺たちの生活はどんどん困窮していくばかりだ!」
「……昼間それを陰で訴えてくれれば俺たちは喜んで手伝ったものを、まどろっこしい、ポマードという名前、偽名なんだろ、実名を言え」
「俺はハレマルド・アマンス! あんたの資料に書いてあった人の弟だ! 兄はこの町の統制に反対して逆賊として殺された!」
「…そうか」
永戸はその想いを噛み締めると、ハレマルドに言った。
「教えてくれ、今この町では何が起きてる」
「今この町では、過去にイストリアに検挙された者達が反イストリアを掲げて闊歩してる。それで町はめちゃくちゃだ」
「そもそもなんで検挙なんか…」
「禁止された薬品が出回ってたんだ、この町はその薬品のカルテルだった」
成る程、薬物犯罪かと永戸は思う、それで検挙された連中の残党が反イストリアをモットーに活動をしていたわけかと納得する、だが変だと思った。
「だが資料にはなんの問題もないって書いてあったぞ」
「それもそのはずだ、毎度査察が来るたびに住民を脅して異常なしを装ってたのだからな」
「だとしてもだ、こんなこと、いずれイストリアにバレるだろう……まさか前のこの村の査察を行ってたやつって」
「その薬品の中毒者だった、組織までグルって事さ」
そこまで聞いて永戸は呆れた。イストリアにもこんな腐ったところがあったのだと、これは今すぐにでも正さなければならない、そう思った永戸は服を着直した。
「何処へ?」
「今からそのカルテルの残党を潰しに行く、仲間を集めろ、派手にやるぞ」
永戸はコートを着直すと、神癒奈とフィアネリスを連れ、部屋の外へと行ったのだった。
ーーー
一方、こちらは薬品のカルテルの残党の本拠地。
「あー、効くねぇ、やっぱこの薬がないとやってられねぇわ」
「なぁ、あのイストリアの役人達にもこの薬を広めようぜ、寝てるところを吸わせればイチコロさ」
「そりゃあいい話だ、またこの町を牛耳る事ができる」
男達が薬品を吸ってると、突然ドタドタと男が入ってくる。
「大変だ! イストリアの役人にこのカルテルがバレた! 早くズラからねぇと大変なことになる!」
「何⁉︎ 一体誰が情報を漏らした!」
「知らねぇよ! けどイストリアの新しい役人は既にもう動き出してるって…」
「まそういうわけだ、死んでくれ」
男の頭部が、横から見えた大型リボルバーに撃ち抜かれて割れたスイカのように弾け飛ぶ。それに気づいて驚いた男達は驚き、動きを止める。
すると部屋の中に、血のように赤いコートの男が入り込んできた。
「なっ…お前は…イストリアの⁉︎」
「話が早くて助かる、ああそうそう、仲間を呼ぼうったって無駄だぞ、他は全員死んでる、生きてるのは幹部クラスのお前らだけだ」
コートの男は椅子に座ると黒いタールのようなものから狐の化け物を呼び出し、男達が吸っていた薬品を食べさせる。狐は不味そうに飲み込むとクルル…と男達を睨むが、コートの男に優しく撫でられると大人しく戻っていった。
「まぁそのなんだ、お前らは長い間町の人間を動かして、挙句イストリアの役人すらも身内に入れて、町を牛耳ってたそうじゃないか」
「テメェその情報をどこで!」
「おっと、下手な発言するとお前の頭はパァンと弾けるぞ」
赤いコートの男はリボルバーを向けたまま話を続ける。
「普通ならここで即処分だが、今日の俺は優しい、チャンスをくれてやろう」
「ちゃ、チャンスってなんだよ……」
男達は震えながらも話を聞き続ける。
「今すぐカルテルを捨て、この町のために奴隷として一生貢献することを誓う、それだけで許してやる」
「ど、奴隷だと⁉︎ それも一生⁉︎」
「あぁ、お前らのせいで一生を終えた連中だっているんだ、それくらい当然だと思うが…文句でもあるのか?」
「い、いえ! 文句などありません!」
コートの男が凄みを効かせると、男達は震え上がる。
「じゃあ取引成立だ、これからはこの町のためにキリキリ働けよ」
コートの男が指を鳴らすと、急に天使が現れ、男達の首に奴隷用の首輪がつけられる。つけられた途端魔法が発動し、男達は冷や汗をかいた。
「奴隷用商品の中で一番キツイやつを買ったから、万が一裏切ろうものなら死ぬほど痛い激痛が走るぞ、じゃあな」
そう言ってはコートの男は天使によって転移され消えていくが、同時に町の人達がわらわらとカルテルの中に入ってきた。
「よくも俺たちの生活を滅茶苦茶にしてくれたな! お前らなんか犬以下だ! ボロ雑巾になるまで使ってやるから覚悟しやがれ!」
「あぁ…あぁぁ!」
町の人達に詰め寄られ、絶望する薬品カルテルの男達…こうしてこの町の事件は解決したのだった。
ーーー
「おーっすお疲れー」
トラックの中の備蓄品用冷蔵庫にあったコーラを皆で分け合いながら、永戸達はひとまず祝杯をあげる
「まさかイストリアの役員までもがグルだなんて思いもよらなかったですね」
神癒奈がコーラを飲む中、南雲が言う。
「だけど納得はいく、組織の腐敗があったとしたら」
「南雲もお疲れさん、俺たち揃ってカルテルの中の制圧大変だったなぁ」
クレスと南雲はカルテルの制圧担当だった。永戸からの命令は「適当に暴れ回れ」と雑な命令を受けていた
「メルト殿の精神操作も役に立ちますなぁ、慌てる町人をなだめさせるのですから」
「そういうフローレアさんこそ、演説で人の心を動かしてた。すごいよ…」
メルトとフローレアは町人を暴徒化させない役目だった。これもこれで危ない役目だが、なんとかやり遂げたのだった。
「んで、私たちがカルテル最奥への突入班」
「まぁ神癒奈は何かあった時用に待機だったが上手くいったな」
「これでカルテルは消滅、この町も良くなるでしょう」
突入班だった永戸と神癒奈とフィアネリスは勝ち誇るように乾杯する。カルテルの消滅により、この町は良い方向へと進んでいくだろう。そう思うと三人はしてやったりと笑い、この勝利を喜ぶのだった。




