投獄の裏で
永戸達が捕まっていた裏で何があったか、それは数十分前に遡る
第二支部から出て、トラックに乗ったランジーが、一番街へと向かっていた。
「なんで⁉︎ なんで俺がこんな事をしてるんだ⁉︎ 正義とかどうとか、とっくに捨てたはずなのに!」
だが彼はクレスに託された、四課を守れるのはあんたしかいないと。彼は、その想いに応えねばならないと車を走らせる。だが本部へ繋がる一番街への幹線道路は全て封鎖されていた。Eフォンの連絡も、帯域で封鎖されている。恐らく、裏切り者が出た時の対策だろう。通るとしたら、裏路地しかない。
「くそっ! くそっ!」
封鎖された一番街へのルートを避け、裏路地を通って一番街へと向かう。道行く人が怯えて避けたり銃を撃ってきたりされるわ、途中ぶつけて車を凹ませるわ、それで裏路地の掟で襲われるわで大変な目にこそあうが、彼はなんとか一番街にまで辿り着いた。
「本部は……本部は……っ!」
イストリア本部まで来て、彼は車を止めた。一番街まで来て、本部に入ることができなかった。何故ならば本部の方にも第二支部の車が来ていて、入ろうにも入れなかったからだ。
「ど、どうすれば……」
Eフォンを使えば確実に電波ジャックされる。本部の四課になんとしてでも助けを求めたかったが手詰まりだった。
そんな時だった。ゴンゴンとトラックの扉が叩かれる。窓を開けるとまだ高校の学生くらいの少女がいた。
「おじさん、これ、四課のトラックでしょ」
「そうだけど、お、お前はなんなんだ」
「ボクは頼まれればなんでもする傭兵だよ」
服装からして怪しい、真っ黒のポンチョに包まれて、背中と腰に長銃をぶら下げ、ヘッドフォンをつけた黒髪の少女はランジーに聞く。
「ねぇ、困ってるんでしょ、いい値で仕事をしてあげるよ」
「お前みたいなガキがやれるような仕事じゃねぇ! すっこんでろ!」
「えーっせっかくたくさんの仲間を連れて助けてあげようと思ったのに」
「わ、わかった! いくら払えばいい⁉︎」
「そうだなぁ、なんだか大事そうだし、相場の5倍かな」
「5倍⁉︎ ふざけた額を!」
ランジーは怒ろうとしたが、今はこの少女が頼りだ、藁にもすがる思いで頼んだ。
「仕方ない! 払ってやる! その代わり仕事はしっかりしてくれよ!」
「はーい、一名様ご案内〜♪」
そうした少女はトラックに乗ると言った。
「そうそう、ボクの名前言ってなかったね、ボクの名前は陽宮 渚、あんたのところの隊長、陽宮 永戸の妹だよ」
「えーゆーの、妹⁉︎」
「あっははは、信じるかは別として、話はギルドでしよう、仕事はその後♪」
そうしてランジーは渚に連れられ、彼女のギルド、『ナハトヴォルフ』へと連れられ、永戸達救出の計画を立てたのだった。
ーーー
「お前、どうしてここがわかったんだ⁉︎」
「んーなんかねー、おじさんが助けてくれーってボク達に泣きついてきたの」
「お前…いくら払わせた」
「相場の5倍」
「あとでせめて2倍は返すぞ」
えぇー! と文句を言う渚を横目に永戸はキーピックで解錠する、自分のを解錠すると素早く神癒奈に投げつけた。神癒奈も解錠すると、続々とメンバーの解錠をしていく。そして解錠を終えると永戸達は牢屋をぶち破った。
「武器がないな」
「そう言うだろうと思って、これ、持ってきたよ」
そう言うと彼女はごそっと全員分の武器を取り出す。
「いったいなんなんだこの子は、隊長の妹って言うけどハイスペックすぎないか?」
「それもそのはず、だってこいつ…」
「次代のサキュバスクイーンだからね〜」
黒髪から一瞬で青みがかった白髪に変わり、角と尻尾が生えてはポンチョが翼へと変わる。この牢屋の中に忍び込めたのも、サキュバス故の能力だろう、彼女は元の姿に戻ると、ヘッドフォンを頭に掛け直し、背中から長銃を手に取った。
「見張りは?」
「ごめん、潜入するので手一杯で無力化してない」
「ここに来るまでに黒髪で長い髪の小さい女性は見なかったか?」
「うーん見てないなぁ、知り合い?」
「ならいいんだ、殺してなければ」
「?」
そう言っては永戸達は武器を手に取り地下から脱出する。そして牢屋から出ると渚は通信妨害対策の古い無線機で連絡を取った。
「こちらクイーン、キングは抑えた、ナイトとビショップは撹乱よろしく、だけど黒髪の長髪の女の子だけは殺さないで」
【こちらナイト、女王の名のままに】
【ビショップ、ひゃっはぁ! 暴れまくるぜ!】
通信が終わるとドカドカと第二支部の入り口の方で撃ち合いが始まる。
「さぁさぁみんな! ワイルドハントの始まりだ! ボク達に喧嘩をふっかける奴がいたらどうする⁉︎」
『殺す!』
「いえーい!」
渚が啖呵をきって走っていく中、永戸達も走ってその方に行くと、ナハトヴォルフのメンバーと第二支部の特査とで乱闘になっていた。
「フィーネ! メルトの位置は分かるか⁉︎」
「彼女は今、グナース支部長のそばにいます! 場所は一番街前!」
「トラックまで走るぞ! 渚、道を切り開くの頼んだ!」
「うけたまかしこまつかまつりー!」
やってくる第二支部の人間を、もとは同じ仲間であったのに対し、私設軍に加わった連中であるが故、容赦なく殺す永戸と渚。それを見た南雲は平然としてたが、クレスとフローレアは顔を真っ青にした。
「流石隊長、こんな時でもやってくれる」
「昨日までの仲間を平然と殺してやがる…」
「フロー、ちょっと隊長殿が怖く感じたでありまする」
「お忘れですか? 彼が英雄殺しと呼ばれた所以を」
顔を真っ青にする二人に対し、ニコニコの笑顔で見るフィアネリス。
四課と渚が走っていき、使われてないトラックを見つけると、それに乗り込み、運転を開始した。
「どこへ向かえばいい⁉︎」
「フィーネ! ナビ頼む」
「かしこまりました!」
「飛ばすぞ! 掴まれ!」
クレスが運転を行い、フィアネリスがナビをする中、永戸と渚が銃撃で追っ手を追い払う。
「クレス! お前のライフル借りるぞ!」
「借りるって、隊長当てれるのかよ!」
「専用のカスタムされてんだろ! 当たるに決まってる!」
永戸がクレスの対物ライフルを手に追っ手のトラックに向けて発砲する。特別製なのもあって弾丸はトラックをぶち抜き、運転席にいる人から見事にトマトケチャップ(隠喩)を噴き出させた。
だが、逆にこちらも撃たれ、永戸と渚は一旦車の中に退避する。窓ガラスも破られ、弾丸が飛び交う。
「この車防弾仕様じゃないのかよ! どこの所属の車だよ!」
「この車は一般兵士用のトラックだ! 俺らみたいに特別製じゃない!」
渚が文句を言いながらリボルバーライフルの魔力弾を装填し、永戸も対物ライフルのマガジンを交換する。
「そこを左に! 幹線道路に入ってください!」
「分かってるけど本当にメルトに会えるんだよな⁉︎」
「私を誰だとお思いで? 全知で完璧な熾天使ですよ?」
「ああそうだな聞いた俺がバカだったよ!」
全速力で走っているが故文句も飛び交う、だがそんな中で走り切り、永戸達は目的地にたどり着いた。キキーッとトラックの癖してA○IRA止めをすると、撃たれてべこべこになったドアをぶち破って外に出る、
「特査四課だ! これ以上の悪事は許さない!」
永戸達は外に出るが、外に出ると、グナース支部長とメルトがそこに立っていた。
「ほう、あの地下牢から脱出してくるとは、しぶとい連中だ」
「グナース! お前の野望もそこまでだ!」
「グナース支部長! 下がってください!」
グナースを下がらせ、メルトは前に立ち、永戸達に杖を向ける。
「メルト! もうやめろ! 不意打ちでは負けたが、救護兵のお前と前線に出る兵士の俺とじゃ腕に違いがありすぎる!」
「嫌だ! 引かない! 引いたら、私の……私の家族は…私は…」
「じゃあ一生そこのクズ野郎に尻尾を振るって言うのか!」
永戸の言葉に、一瞬メルトはビクッとなった。
「何があったかは知らない、けど、弱みを握られて一生そいつの言いなりになるくらいなら、戦って自分の世界を勝ち取れ!」
「っ!」
永戸のその言葉の圧に、メルトは押される。メルトの心が再び揺らぐが、その時、グナースは言った。
「いいだろう、冥土の土産に教えてやる。メルトはな、不法移民でやってきた都市の人間だ、その時点でこの都市にいる価値はないが、メルトは幼い頃から能力差別で虐められ、ある日それがきっかけで彼女の能力が暴走して精神操作が発動、多くの人が廃人と化す事件が起きた。私はその事件を担当した責任者でな、彼女の家族の安全と事件を闇に葬ることを条件に自身の駒にしたのだよ!」
そうしてグナースが言うが、辺りに奇妙な沈黙が流れる。どう言うことだとグナースは思うが、その時、渚が声を上げた。
「それで、言いたかったことはそれだけ?」
「何? 今の話を聞いて何も思わないのか?」
「いや、ボクだって元奴隷で現サキュバスクイーンの裏路地を仕切る一員だし、この都市でそんなこと少なくないと思うよ?」
「なんだと…?」
永戸もはぁっとため息をついてはグナースに言う。
「なんだ、たかがそんな事か、それなら問題ないな、簡単な話だ、テメェをぶっ潰して家族を救えばいい」
「隊長……?」
たかがそんな事と吐き捨てられ、メルトはどう言う事かと思う。すると神癒奈は答えた。
「メルトさん、ここまで言ってもまだわかりませんか? この都市は正直クソッタレの掃き溜めですよ、裏路地では常に犯罪が横行し、不法移民者は罵られ、いつでもどこでも事件は起きる、だけど、それが当たり前の都市です」
「何を…言って?」
メルトは目を丸くし、どういうことか尋ねるが、神癒奈は笑って答えた。
「貴方が過去に何をしたとしても、家族が不法移民であっても、この都市では当たり前です。多少不便はあるかもしれませんけど、いずれ受け入れてくれる、そうだ、折角四課に入ったんです。正式に移民手続きをして、住む家でも買ってやったらどうですか?」
「奴らの言うことに騙されるな! 奴らの言う事は詭弁だ…! お前の精神操作で奴らを黙らせろ!」
「っ!」
メルトは一瞬ハッとなり、そして口からぼそっと何かを呟くと、精神操作を行う。すると、精神操作に耐性のある神癒奈以外の全員がかかってしまった。
「私は…隊長殿を殺さなければなりませぬ」
「そしたら俺たちは支部長の命令に従うんだ、この都市のために」
メルトとクレスが永戸に武器を向ける。だがその時、神癒奈が叫んだ。
「皆さん! 精神操作なんかに負けないでください!」
神癒奈のその声が全員に響き渡ると、洗脳の意識がざらつき、動きが止まる。そして、先頭に立っていた永戸は、微かな意識の中で、本来の意志を取り戻した。
「ふっざけんじゃ、ねぇえええええ!」
永戸は己の頬をぶん殴り、意識をはっきりさせると言った。
「メルトォ! お前が分かんないなら何度だって言ってやる! そんな都市では当たり前のことでクヨクヨすんな! 心配しなくても、都市はお前を受け入れてくれる! だから、俺たちを信じて、俺たちの四課に戻ってこい!」
「っ……隊長…」
その言葉があたりをビリビリと震わせ、他の人の洗脳も解く。そして、メルトにもその言葉は届いた。
「くそっ、メルト! もう一度精神操作を行うんだ!」
「……」
「どうしたんだメルト! 今更怖気付いたのか! また裏路地でいじめられる暮らしに戻りたいのか! 戻りたくないなら戦え!」
「……私は」
メルトはグナースに振り返る。そして彼女は笑顔でこう答えた。
「私は、私を大事に思ってくれる方々のところへ行きます、だから、邪魔しないで、"死んで"」
「なっ…め…メルト……よせ!」
グナースが拳銃を取り出し、メルトに向けて構えようとする。だが、メルトが言った呪いの言葉が彼を無理やり動かし、その拳銃を自身のこめかみに当てさせる。
「やめろ、やめ…!」
ダァンッと銃声と共にグナースの頭部に風穴が開き、彼は倒れる。
それを見届けたメルトは、四課の方に振り向いた。
「みんな……こんな私でも、受け入れてくれる?」
「当たり前だろ、メルトは大切な仲間なんだから」
「帰りましょう、私達の四課に」
「うん…!」
こうして、第二支部を巡る戦いは終わり、メルトは改めて、四課のメンバーとして迎え入れられるのだった。




