牢屋にて
次に目が覚めると、永戸と神癒奈達は牢屋にいた、手錠に足枷とガチガチに塞ぎ込まれており、能力も使えず、外に出ることもできない。
そんな中で永戸達は辺りを見渡した、共同で脱出されることへの対策か、別々の牢屋に永戸達は入れられていて、全員同じような状況だった。
「今誰がいる?」
「私がいます」
「目や耳はほとんど使えませんが、私もいます」
「俺もいるぜ」
「私もおりまする!」
「私もいる」
永戸と神癒奈だけでなく、フィアネリス、クレス、フローレア、南雲とこの場にはいる。永戸達は当たり前だったが、クレスとフローレアがなぜ投獄されたのかまでは知らなかった。
「実は…」
クレスが語り出す、永戸達が支部長室に行った後、何があったかを。
ーーー
永戸達が支部長室に行った後、四課のオフィスは最初は不思議な空気が漂っていた。
「隊長殿達は今頃支部長に褒められてるのでありましょうなぁ、流石は本部から流れてきたエースと言いましょうか」
「あのえーゆーがそう簡単に認められるかねぇ」
「そう…ですね…でも、認められてたらいいなって思います」
「隊長達のことだからきっと褒められてる」
「あぁ、そうだといいな」
フローレアがのほほんとした顔でいる中、クレスは周りを警戒する。ランジーはいつも通りだが、メルトの様子がおかしいことに気づく。
(フローは仲間を討つなんでそんなことする奴じゃない、課長は食えねぇ奴だが、あいつらを認めてる。南雲は最近入ったからシロだ。……だとしたら、メルトか)
「メルト、どうした? そんなにあいつらが心配か?」
「へっ⁉︎ あっえぇ⁉︎ ええと…心配と言えば…心配…です」
「まぁなぁ、あいつらが支部長相手に何か失礼な事を言わないか、俺も心配だよ、ところでメルト、なんでそんなに俺たちの顔色を疑うんだ?」
「っ⁉︎」
クレスの真面目な顔を見た途端、メルトは息を呑んだ。疑いの目がかけられてると…彼女は悟ったのだ。
「な、何故って、あはは、私、人見知りだって前々から言ってるじゃ無いですか」
「それにしては様子がいつもより数倍おかしい、お前、俺たちに何か隠し事とかしてないだろうな?」
そう言われるとメルトは黙り、顔を伏せた、その直後、Eフォンからの通達が彼女に流れてくると、彼女はそれを見て、急に立ち上がる。
「……メルト、まさか」
「ええ、そのまさか、です」
「課長! フロー! 南雲! 頭を下げろ!」
「っ!」
「へ? 何事であり…」
「何⁉︎」
『サンダーボルト!』
クレスの声を聞き、南雲とランジーは頭を下げるが、反応に遅れたフローレアがメルトの魔法を受け、気絶する。
「課長! あんたは逃げろ!」
「しかし…クレス! お前はどうするんだ!」
「あんたがいなくなったら誰が四課を守るんだ! 行け!」
クレスが拳銃をメルトに向け、牽制射撃を行う中、ランジーは部屋から出ていく、銃を向けながらクレスと南雲はメルトに言った。
「くそっ! メルト! お前! 組織側の人間だったのか! いつからここの犬になった!」
「貴方に、教える義理はありません」
「いったい、どうしてこんなことを!」
「支部長は何をしようとしている! 魔想体を集めて!」
「……口が過ぎるといけませんよ」
すると、メルトがボソボソと呪詛のような言葉を呟く、それを聞いてしまったクレスは、意識が遠のくのを感じる。
「なっ……使わない……はずじゃ…」
「メルト……」
そうしてクレスとフローレア、南雲は無力化されたのだった。
ーーー
「メルトさんが、支部長側の人間だったなんて」
話を聞いて、永戸と神癒奈達は状況を理解する。どうやら四課は事実上全滅してしまったようだった。
「しかし、メルトが精神操作を使ったなんて、使わないはずじゃ」
「あぁ、俺も過去のトラウマで使えないと思っていた。だがあの時、彼女は確かに能力を行使したんだ」
メルトがまさか精神操作の能力を使うことができたなんてと驚く皆。かつてクレスが説明した時は、使わないと言っていたが、彼女が能力を使わざるを得ない状況に追い込む何かがあったのだろうかと永戸達は思う。
「課長だけでも逃がせたが、正直あの人が役に立つかどうか…」
テーブルワークばかりだった課長だ、実戦ができるかもわからないし、助けを呼べるかもわからない。状況的に詰みに等しかった。そんな中で、牢獄に、人が入ってくる。
「いやぁ、四課の諸君、元気にしているかな?」
それは、この支部の課長グナースだった。一課の隊員とメルトを連れて歩いてきた辺り、本当にこの支部は私物化されており、永戸達は歯噛みした。
「グナース支部長…やっぱりお前が仕組んだ罠だったか」
「罠とは人聞きの悪い、躾のなってない駄犬を教育したまでだ」
「メルトがそっちにいる理由はなんだ、彼女に何を吹き込んだ」
「何も吹き込んで無いさ、ただちょっと、彼女に頼み事をしたまでさ」
そうグナースが言っていると、メルトが裾をきゅっと握りしめて俯いた。
「彼女は誰かに無条件で従うような人間じゃありません! 貴方がメルトさんに何かしたんでしょう!」
「だったら聞いてみるか? 彼女の言葉を」
するとメルトは前に立ち、彼女自身の声で言った。
「正直、英雄だとか、世界を救うだとか、どうでも良かったんですよ、私はただ四課で普通の救護兵として働くだけで良かった。私には、貴方達の理想や理念が理解できない、何をどうして、そこまでして世界を救おうとするの?」
メルトが恨めしそうに震えた声でそう言うが、それに永戸は堂々と答えた。
「そんなの…決まってるだろう? 世界を、人を守るためだ」
「そんなの詭弁にすぎやしない!」
永戸が言った途端、メルトは強く否定した。
「神を降ろした王国を救った時も! 悪役令嬢を救った時も! 妖怪と戦った時も! 死んだ英雄と戦った時も! いつだって私たちはその人達にとって部外者だった! 関わる必要性なんてなかった! 当事者は当事者の問題! そこに私たちが介入する理由なんてない!」
メルトは叫びながら言い続ける。
「怖かった! 戦うことが! 私はお気楽能天気に仕事をする四課に憧れてた! ランジー課長の在り方がよかった! なのに実際は戦いの日々で、休む暇なんて一度もない! 貴方達が! 戦いを持ってくるから! 教えて下さい、どうしてそんなに戦うことができるのかを!」
メルトのその叫びを聞き、隊長として永戸はゆっくりその言葉を噛み締めた、ああ、そうだ、普通戦うのは誰だって怖い、それはその場にいた四課全員が思っていた。だが永戸はその上で答えた。
「……怖いさ、俺だって、戦うのは怖い」
「っ⁉︎ なら何故! どうして…!」
メルトは驚いた、永戸の口から、戦うのが怖いと言う言葉が出たことに。けどそれでもと永戸は言った。
「けど、ならお前は、目の前で死を突きつけられた人を助けたいと思わないのか?」
「それは…⁉︎」
その言葉を聞いて、メルトは躊躇う。その様子を見て、今度はクレスがまっすぐメルトの目を見て言った。
「救護兵のお前ならわかるはずだ! 救える命は救いたいと! お前は、助けられる命をみすみす投げ出すような奴じゃない!」
「クレスまで…!」
クレスの強い訴えにメルトは心が揺らいだ。だがその時、グナースがメルトの耳元でこう言う。
「おい、お前の大切なものがどうなってもいいのか? お前のしでかした事を世間に公表してもいいのか?」
「……! いいえ、いいえ、私は! 英雄なんて存在を認めない!」
その様子を見ていた永戸達は確信した、やはりメルトはグナースに弱みを握られていると。
「だ、そうだ、残念だったな、英雄諸君、ああ今やお前達は、反逆者か、ふは、ふはははは!」
「どこへいく!」
メルトを連れて去ろうとするグナースに、永戸が言う。
「どこだっていいだろう、まぁ強いて言えば、我々の力を、都市に示す時が来たって事だな」
そう言うとグナースはメルトを連れて去っていった。
「くそう…悪逆外道め…我が槍さえあれば……!」
「…早くここから抜け出さないと」
「メルトはアイツに何か脅されてた、アイツ、俺たちに何か隠し事をしてたんだ、能力が使えないと嘘をつくほどの」
フローレアは怒り猛り、クレスは冷静に考える。
「フィーネ、状況はわかるか?」
「申し訳ございません、白銀のせいで観測能力と視覚をほぼ失われております、聴覚でさえ、貴方様の声を聞くだけでギリギリで…」
「神癒奈の方は?」
「ダメです、私も力を出せません」
「くそっ…手詰まりか……」
永戸達はどうしたものかと考える、すると、救いは思わぬ方からやってきた。
「まぁ、こんなこともあろうかと、こんなのをもってたりするんだけど、さ」
「クレス殿、それはなんでありますか?」
「ありきたりなマルチツールナイフだよ、昔からこう言う時のために靴底に隠して入れてたのさ、あいつらが監視を残さずに行ってくれて助かったぜ」
そう言ってはクレスは楽々と手錠などを解除していく。
「じゃあ! それで我々は助かるのでありまするか⁉︎」
「いや、ダメだ、通常の手錠のクレスは助かっても、他の白銀製の手錠は特殊な魔法によってちゃんとしたキーか、あるいは解除機能を持つキーピックでないと…」
「もしかして、これのことかな?」
そう言っては永戸に専用のキーピックを渡す少女が、目の前にいた。
「お前は、渚⁉︎ なんでこんな所に⁉︎」
「おにぃちゃんのピンチに妹が助けに来たよ♪」
永戸の妹を名乗る少女は、誇らしげにキーピックを見せつけたのだった。




