甦る伝説
魔想体によって復活した勇者が、永戸達に襲いかかる。
永戸はすぐさま剣を抜き、勇者の剣を受け止めるも、魔想体で強化された勇者のパワーに押される。
「数ではこっちが圧倒的に優ってます! 全員で攻撃を!」
永戸が押さえ込んでいる間に、神癒奈が刀を抜くと、鎧の隙間を切り裂く、しかし、黒い闇が溢れるだけで、出血はなく、敵は倒れずにいた。
「倒せない!」
「ならば…『貫け!』」
フローレアの言葉で勇者の全身を光の槍がつらぬくが、ガチャガチャと鎧を揺らすと、その槍をかき消して動いた。
「奴は不死身でありますか!?」
「とっくに死んでるから不死身なんだろ! くそっ!銃撃が効かねぇ!」
クレスも射撃を行うが、鎧を貫いても死ぬことはなく、勇者は動き続けた。
「隊長! よけて!」
永戸が引くと、南雲が大剣を振るい、勇者を壁に叩きつける。大剣の一撃は、鎧を凹ませるが、もとよりサイズが大きいもののため、勇者を傷つけるには至らなかった。
「頑丈にもほどがあるでしょう! ならば、『ヒール!』」
「っ! そうか! 『リジェネレイト!』
ゾンビなどの死霊系には回復魔法が効くと昔から言われている。それをためしてみたら、案の定苦しみ始めた。
「効きましたか! 回復魔法が使える方は奴に回復魔法を! 他はタンクとなって我々をお守りください!」
「あぁ!」
永戸がガンブレードも抜くと、二刀流で一気に攻め立てる。ガンブレードの加速と聖剣の一撃で勇者は一歩二歩と押される。だが、剣を振り上げると、永戸に力強く振り下ろした。
「クレス!」
「無茶言うぜ!」
クレスの咄嗟のクイックショットで剣をはじき、永戸は下がる。
「我が槍を喰らえ!」
フローレアが飛び上がると、上から槍を頭部に向けて突き刺す。鎧を突き抜けてずぶりと刺さるが、一瞬で引き抜かれ、フローレアは投げ飛ばされた。
「フローレア…!」
南雲がフローレアをキャッチすると永戸達は勇者と見やる。槍の先についた白銀の効果なのか、体の回復が遅れるが、顔を覆った手をどけると、フローレアが開けた穴から目が見え、真っ赤な瞳が彼らを睨んだ。
「まだです! 『ホーリーブレス!』」
フィアネリス達が呪文を唱えていく。回復魔法で勇者は苦しむが、魔想体の影響が強く出てより体が巨大になった。
「まだまだやる気かよ!」
永戸は二刀を振るい、ブーストで斬りかかるが腕に掴まれ、地面に叩きつけられる。
「くそっ!」
「今度はただの弾じゃないぞ! 白銀弾を喰らえ!」
クレスの射撃が飛び、地面に叩きつけられた永戸を掴む手にそれが深々と突き刺さる。すると白銀で力が抜け、永戸の拘束が解ける。
「隊長殿! 無事でありますか!」
「あぁ! まだやれる!」
フローレアのスピアを避け、勇者は剣を振り下ろす、それを永戸が立ち上がって受け止めると魔力弾を炸裂させて切り上げた。
「落ちて!」
南雲が上から大剣を振り下ろす、強い衝撃で勇者は地面ごと割れて押し付けられる。これにより動きは一瞬だけ止まった。
「しぶとい野郎だ! だったらこれだ!」
永戸はガンブレードの魔力弾を抜き取ると、白銀弾を装填する。そして、近づくと、剣を突き刺し、白銀弾を撃ち込んだ。
「っ!?」
白銀弾が命中した途端、勇者の体が蠢き出す。魔想体によって強化された勇者の体が白銀の効果によって元に戻ろうとしている証拠だった。
「よく効くだろう! なぁ!」
今度は零を発動させ、勇者に斬りかかる。切断された途端、零の能力で力が封じ込まれ、勇者は力を抑え込まれた。だが、勇者も負けじと剣を振るい、永戸を吹き飛ばす。永戸は空中でバランスをとり、地面に二本の剣を突き刺す事で吹っ飛ぶのを回避した。
勇者から重ねられた鎧が少しずつボロボロと落ちていく、だがそれでも元々着ていた鎧はあり、剣も握られていた。
しかしその時、不思議な出来事が起きた
「あ…れ…俺は…何故…」
「喋った⁉︎」
言葉を話したことに、神癒奈は驚く、どうやら魔想体の効果で一時的に魂の残滓が蘇ったのか、彼は頭を触ると、目の前の戦士達を見た。
「そうだ……俺は……魔王を討ち取った後……力尽きて…」
「……おい、聞こえるか、話せるのか?」
勇者は永戸から話されると、言葉を発した。
「あぁ、話せる、君達が知っているかわからないが、俺はこの国を守った勇者だ、何度も戦いをしてきて、国を守っては、力尽きてしまった」
勇者は、顔を落とすと、そのまま話を続ける。
「だけど、どう言うことか、俺は今ここにいる、何故か君達と戦っていた、最初こそ意識はなかったが、そこの赤いコートの人の攻撃で、目が覚めたよ」
「零と白銀が効いたんだな」
攻撃で、どうやら一時的に意識が元に戻ったらしく、勇者は彼らに語りかける。
「俺の国は、あれからどうなった?」
「…お前を勇者と崇め、ずっと、伝説として独り歩きさせようとしている、人々に嘘の記憶を刷り込ませてもだ」
「そうか……」
勇者が永戸の言葉に落胆すると、こう言った。
「このくには、俺の存在を永遠に求めた、だから、こんな石を死んだ俺に与えたんだな」
鎧を剥ぎ取るとそこには、勇者の体に癒着した魔想体があった。
「君達は、何を目的で俺に会いに来た」
「その石を回収するために来た。その石は、世界をも滅ぼす危険な石だからな」
それを聞いた勇者は石を取り除こうとするが、自分の意思ではできないのか、手が弾かれてしまう。
「なぁ、頼みがある。この石を回収すると同時に、俺を…終わらせてくれ」
「……生きたくはないのか?」
「俺は、どうやら本物の俺じゃないらしい、あくまでそこに残った魂のカケラに過ぎないようだ、だから、生きることなんてできないと思う。それに、この国は、俺なしで歩き始めなければならないんだ」
勇者は永戸に近づくと、鎧を落とし、胸元の魔想体を見せつけた。
「俺はこの国に召喚された勇者だが、もう魂として還らなければならない、死んだ人を生きた人のように崇め、伝説として人々の希望として歩み続けさせるのは、おかしい、それに、この石の回収、それが君達の目的なのだろう? なら、目的は一致するはずだ」
永戸は目を閉じて頷く。そして神癒奈に声をかけると言った。
「彼を……燃やせるか? 聖なる炎か何かで」
「ええ、できますよ」
「頼む」
神癒奈が前に出ると彼の魔想体に触れる。すると彼女はつぶやくように唱えた。
『聖火』
聖なる焔で勇者を燃やし始める。無理やり生存され続けた勇者の体が溶けていくが、勇者は苦しまず、炎を受け入れる。そして体がチリになる瞬間、魂のかけらとして残った彼の残滓がこう言った。
【ありがとう】
そうして魔想体が地面に落ち、勇者は完全に消えてなくなる。永戸は魔想体を回収すると、今度こそ死した彼を見て胸に手を当てた。
「次の人生が、良きものであることを願おう」
これで役目を終えた永戸達は、その場から立ち去ったのだった。




