遺された英雄伝説
牧歌的な光景が広がる中、四課のトラックが走る。そのルーフの上で、永戸は寝転がる。その手を見るがドロリとしたタールのようなものが少し溢れる。
「俺は、俺なんだろうかな」
そんなことを言いつつルーフの上で彼は寝る。そんなことを言ってると、ルーフの上にフィアネリスが乗ってきた。
「ハァイ、マスター?」
「重量オーバーで車体が後ろに上がるぞ」
「なら私も少々休みましょうかね」
フィアネリスも羽をたたみ、横になると、永戸と一緒に寝ながら移動する。
「なぁ、今回魔想体反応が出た地域についてわかってることはあるか?」
「噂話程度なら、耳に挟んでおります」
「聞かせてくれ」
「それは、ある英雄伝説です」
英雄伝説とはまたごくごく普通なものを、と永戸は思う。フィアネリスは永戸の反応を見ると、面白そうな表情で続けた。
「物語としてはありきたりですよ、かつてこの世界に勇者が召喚され、魔王を倒し、世界を救った、そこまでは普通の物語です、ですが、そのあとが問題です」
「問題って?」
「伝説こそ最近のもので語り継がれてますが、既に勇者は死去されています、ですが国は、『いずれまた危機に陥った時に戻ってくる』と嘘の情報を流してます」
「何が何でも勇者に縋りたい、そう言うわけか…悲しいな」
永戸は己が英雄であり、英雄殺しであることを考えて、どこかシンパシーを感じた話だった。自分も死んだら誰かに語られるのかな…と考えて永戸は隣を見た、そういえば一番語りそうなやつが目の前にいるわ、と。
話はまだ終わってなかった。
「ところが、なんと勇者は実在しているらしいのです、どう言うわけか、まだ生きていると言う噂が流れてます、我々は今回それを追うわけです」
「なるほどね、だいたいわかったよ」
そんなことをしているウチに目的の国が見えてきて、ルーフから南雲が顔を出してくる。
「隊長、フィアネリス、仕事の時間だって、そろそろ起きて」
「はいよ、何が待ってるのかね」
「まぁ、碌でもないのは確かですよ」
そうしたルーフから車内に入る永戸と、飛び上がっては先行する。きょうも、愉快な仕事の始まりだった。
ーーー
国に到着すると、特に何事もないごく普通の国だった、トラックから降りると全員街を見渡すが、それらしい異変はなかった。永戸は情報を集めるにはとまずは散開して捜査を開始し、まずは情報の集まるギルドに入った。そこで、勇者について聞く。
「勇者様ならたまにこのギルドに来るぜ、本当にたまにだけどな」
「死んでないのか?」
「死んだなんて嘘っぱちさ、勇者様は今も世界の平和のため動いてくれている。事実、この前街の外で戦いがあった時、助けてくれたしな」
本当に生きているように情報が流れている。それが偽物か、それとも本物か、本物の形をした魔想体の偽物かはともかくとして、永戸は勇者は今も実在していると確認をとった。他の人たちも言うことは一緒で、見た場所はまちまちだが、勇者を見たと言う情報を得た。
トラックに戻ってくると他のメンバーも集まっていた。
「街の人たちは、皆口を揃えて勇者は生きているって言ってましたね…」
「この目で見たとまで言っておりましたな」
「物騒な話だ、死んだ幽霊が生きてるだなんて、俺そう言う話は苦手なんだよ…」
「魔想体の反応も検知した、多分、勇者と関わってると思う」
メルト達はそう言うが、永戸はうーんと悩む
「もうちょっと調べてみないか? 今度は別の場所に行って」
と言うわけで今度は教会に来た。ここでも何か情報を得られないかと永戸は信徒に聞いてみる。
「勇者様は今も生きてこの世界の為に戦っておられます。生きてないと申すなど、冒涜に等しいです」
「随分と勇者を崇拝するんだな、それほど大事なのか?」
「勇者様はこの世界の為に活躍した神の如き存在ですので、我々はこうして勇者様に感謝して生きているのですよ」
確かに、世界を救ったのは勇者だ、だが、死んだと言う話を誰も信じず、こうして崇拝し続けるあたり、妙だと永戸は感じた。
その帰り道、神癒奈に出会う。
「そっちはどうだった?」
「勇者がすごいと言う話をずっと聞かされ続けましたよ、私の可愛い耳にタコができるくらい」
可愛いって自分で言うんだ…と可愛いと思う永戸だが、これではっきりしたことがある、この世界で勇者は死して尚まだ生きていると特別な存在として扱われていると。
こうなると、実際に目にして確かめるのが一番だと永戸は思えた。
「神癒奈って幽霊とか大丈夫だっけ?」
「ダメです…お化けとか怖いじゃないですか」
「大妖怪の娘のお前がそれ言う? まぁ心配するな、俺がついてるから」
「わー頼りになるー、永戸さんがいれば百人力ですね!」
とは言ってもお化け観測なんて初だぞと永戸も思う。だがやるしかないと永戸達は勇者の捜索を敢行した。
ーーー
その日の夜、勇者が出るとされるスポットに永戸達は待機する。
「やっしょくっのカップメーン♪」
「肝試しに何で夜食なんて持ってきたんだ」
「待機中暇なんですもん、いいじゃないですか」
お湯をかけては加速で爆速で時間を経過させ、出来上がったカップ麺をすする神癒奈、それを横目に永戸はギルドの方向を見る。昼の会話だとたまにギルドの方に勇者が来ると話を聞かされていた、人相もしっかり聞いている。その人相をしっかり四課全員と共有して、それぞれ出るとされる場所に永戸達は待機する。
「んー! 待機中に食べるカップ麺は格別です!」
「さっさと食えよ…食い意地張ってると好機を見逃すぞ」
夜も遅くなってきて、永戸達は暇になりながらも現れるのを待つ。
「だいたい何でお化け見る為に待たなくちゃならないんですか、私は嫌ですよ、お化け見るの」
「お前にしては珍しく文句が出たな、だがこれも仕事だ」
カップ麺を食べ終わると、容器と割り箸を焔でチリにすると、永戸と勇者が現れるのを待つ。ふわぁと神癒奈はあくびをして眠たそうにする中、待ち続けるが、しばらく待つと、動きがあった。
「おい、アレを見ろ……驚いた、マジでいたぞ」
「本当ですか⁉︎ できれば見たくはないのですが!」
「とにかく皆に伝えるぞ、こちら永戸、目標を確認した、これより追跡する」
そんなことを言うと、驚くべきことが他の人からも伝えられた。
【こちらクレスとメルト…信じられねぇ…こっちも勇者が歩いているぞ】
【南雲とフローレア、こっちでも勇者を確認、私も動く】
【フィアネリスより各員へ、驚きましたね。この国の各所で勇者が歩き回っています、それも、同じ場所にいないように絶妙な距離感で】
「じゃあ、街の人が言っていた話は、全部本当だって言うのか?」
永戸は目撃情報とフィアネリスから送られてきたデータを照合する。そのほとんどの場所が一致している。だが複数の場所で活動をしているとなると、勇者は誰かが偽物になるか、幽霊が闊歩していることになる。それを考えると、神癒奈は尻尾の毛が逆立ち、ぞわぞわっとした。
「やっぱり幽霊なんだー! おっかないから調査は中止しましょうよ!」
「バカ言え、調査開始するぞ、あの勇者を追うんだ」
「そんなぁ!」
ガーンと神癒奈が嘆く中、永戸達は勇者を追跡することにしたのだった。




