月の都第二次防衛戦
永戸と神癒奈達が駆け出すと、敵側もおぼつかない足取りで駆け出した。
その先鋒にとリオーネが竜に変身し、前に出る。
「神癒奈、乗りなさい、王女のアンタがアタシの背中に乗って、龍の国と月の国の力を見せつけるのよ!』
「はい!」
神癒奈がリオーネの背中に乗り込むと、両手剣『舞桜』を手に飛んでいった。大空を飛翔し、月夜に紅蓮の焔が空から降り注ぐ。
「吹き飛びなさい!」
『流星!』
竜のブレスで敵が薙ぎ払われ、降り注ぐ焔の流星で吹き飛ばされる。だが、倒された妖は、別の妖の血肉と結合すると、歪な形で復活した。
「な、なんじゃあありゃあ⁉︎ 新手の不死の技術かえ⁉︎」
「魔想体がなす、悪魔とも言うべきものでしょうあれは魔想体を回収するまで続きますよ!」
「妖の身体を強制的になり損ないへと転じさせるなどと、なんと面妖な!」
驚く玉藻前に、フィアネリスが答える。だが二人の戦意は削がれておらず、玉藻前は妖刀『夜魅桜』を手に切り込んでいき、フィアネリスはいつもの重装備で薙ぎ払っていく。
「くそっ! おっかねぇ……フロー! 運転は任せた! 俺は機関砲で奴らを叩く!」
「承知! 私のどらぁいゔぃんぐてくにっく、とくとみよ!」
ズガガガと車体の上に取り付けられた固定式機関砲がうなり、妖達を蜂の巣にしていく。クレスが撃ちまくっていく中、フローレアがトラックの運転をした。
「あの、ええと、守ってくれてありがとうございます!」
「いいえ、これもまぁ…仕事ですので」
メルトが防壁を張る中、エイルがチェーンガンやマシンガン、レールキャノンを連射する。喋るのは苦手な二人だが、息はあってるようで、エイルの守りきれないところが出たらメルトがしっかりカバーしていた。
「いらっしゃいませー!」
「失礼な客には聖剣ドタマカチ割りだ!」
桐枝が光を宿した聖剣で応戦する中、永戸も聖剣を手にすると敵を一刀両断していく。人間と言う体で純粋なパワーに溢れた二人だ、聖剣の一撃を受けると敵は切り裂かれていった。
「これが……焔月とその仲間達の力」
南雲は驚いていた。焔月に関わる者達にはここまでの力があるのかと、彼女も大剣を振るうが、その力は彼女に迫る者ばかりだった。
しかし、相手は不死の軍団、いくら焼いても体が再生し、貫かれたり切り裂かれようとも肉がつながり目が生える。挙げ句の果てには死んだ者同士が合体してなり損ないが生まれる始末だ。状況は芳しくない。
「おい! 全然敵の数減らないぞ! 機関砲の弾が切れる!」
「フローたちも降りてたたかいまするぞ! クレス殿! トラックは捨てましょう!」
「くそっ! こうなりゃやるしかねぇ!」
フローレアが降りて槍を持つと、クレスも降りてスナイパーライフルを持つ。
「おい! お主! 何か策はないのか! このままじゃ押されて都に攻め込まれるぞ!」
「んなことはわかってる! わかってるけど…けど…!」
永戸はどうすればいいかと歯噛みをする。そんな中、空を飛ぶリオーネと神癒奈が全力攻撃でなんとか敵を押し留める。
『今はアンタがこの混成部隊の隊長よ! もっとしっかりなさい!』
「永戸さん! 前線は持たせますから!」
二人の攻撃でなんとか敵の進軍はギリギリ抑え込めてる状況だ、だが、クレスやエイルの持つ弾や他のメンバーの体力の問題を加味すると、長期戦は不利になる。ならばと永戸は言った。
「俺が魔想体を持つ個体と戦う! 他のメンバーは戦線を保たせてくれ!」
『了解!』
そうして永戸は魔想体の持つ個体の方へと向かうが、ここで南雲が永戸の隣に並ぶ。
「あの大将は、私の仲間だった者、だから私が、ケジメをつける」
「…わかった、行くぞ!」
永戸が背中からガンブレードを抜くと、トリガーを引いてブーストして切り掛かる。大将は魔想体を持ったまま片手の斧で永戸と鍔迫り合いになるも、永戸がここで再び撃鉄を鳴らし、もう一度ブーストして押し込んだ。
大将はのけぞるがそれでも魔想体を離さない。しかし次の瞬間、懐に南雲が飛び込み、大剣を切り上げた。魔想体の手を捉えたかと思ったが、ソレから電流が流れると、永戸と南雲は感電してしまう。
「がっ⁉︎」
「ぁっ…⁉︎」
二人が感電した瞬間、不思議な光景が目に映った。それは、誰かの記憶だった。
【焔月と酒呑童子に負けて悔しいか? なら、君に力を授けよう、何心配することはない、少し生き物の類いから外れるだけサ、その力があれば、焔月と酒呑童子をまとめて滅ぼす事だってできる。少し大きめの物を渡したんだ、せいぜい頑張ってくれよ】
目の前に映るのは黒い燕尾服の仮面の細い男だった。この前、魔想体をもらったと言ったイーガスの証言と全く同じなり、そんなことを考えていると、魔想体が光り出した。
「何が起きてるんですか⁉︎」
『分からないわよ! でもヤバいのは確かね!』
神癒奈たちが空で見守る中、魔想体は大将の妖の胸元に埋め込まれ、外れないように癒着した。次の瞬間だった、大将の妖の体が大きくなり、同時に、他の妖の体が崩れ落ちて一つにまとまっていくのが見えた。
「ちょっと…冗談っすよね?」
「流石に…厳しいかも」
下がった桐枝をエイルが背中に乗せながら、その光景を見る、巨大になった妖一体が、全身の骨の鎧をぼきぼきと言わせながら空を仰ぎ、咆哮した。
「第二ラウンドってことか!」
永戸は身体を起こし、倒れた南雲を回収すると下がるが、巨大化した妖に捕まれそうになった。
「させない!」
が、神癒奈が飛び込んで刀で一刀両断することで捕まれることは阻止した。しかし、それでも体は元に戻る。ただの妖で済めば良かったものの、気がつけば巨大妖怪だ、これには永戸も流石に焦りを見せた。
『危ないのよ!』
続いて桐枝とエイルの方に拳が飛ぶが、リオーネが口で噛み砕いて阻止した。だが、やはり即座に体は元に戻る。
「こんな大きな物に防壁を殴られたら、一撃で壊れてしまいます!」
「くそっ! どこをねらえばいいんだよ! こんな化け物!」
メルトとクレスは驚愕で動けずにいたが、その時、言霊が響いた。
『止まれ!』
フローレアの言霊が効き、妖は動きが止まった。心臓の動きまで止まったのか、苦しそうに呻いた。
「フロー! 今のは!」
「適当に叫んだだけでありまする! そしたら効果抜群で……」
今の言葉で、少しだけ光明が見えた気がした。永戸は胸の内に秘めた力を少し引き出す。ドス黒いタールのような物が手から溢れ出すのが見えた。
「今から博打をするぞ! フロー! もう一度止まれと言え! 神癒奈! 俺が合図したら奴の胸を切り裂け!」
「はい!」
「分かりました! このフローにお任せを! 『止まれ!』」
もう一度発せられた言葉で妖の動きが止まる。その時、永戸は己の中に蠢く、"あの"力を解放した。
「"絶望"よ! 蠢く人ならざる物を飲み込め!」
永戸が叫ぶと、永戸から黒い絶望が溢れ出し、妖の足元まで広がると、妖を覆い始め、胸元のあたりまで地に沈めた。
「神癒奈ぁ!」
「焔月式抜刀術、零式!」
神癒奈が抜刀術で妖の胸元を切り裂くと、魔想体が出てきた、淡く怪しく光るそれは、妖に力を与え続け、フローレアの言霊から逃れた妖が身体を動かし始め、神癒奈を殴り飛ばした。
「神癒奈っ!」
妖の体の表面に出た魔想体が、修復によって再び体内に戻ろうとしている。本来ならば神癒奈に取らせるつもりだったが神癒奈は殴り飛ばされてしまった。どうしたものかと思ったその時、一人の少女が前に出た。
「これを取れば! この妖も止まる! そうだよね!」
それは、この中で魔想体とはなんの関係もない南雲だった。魔想体を掴むと、鬼族の力を全力で使い、引っこ抜こうとする。妖は身体を拗らせて抵抗するが、南雲は意地を見せると、ぶちぶちと音を立てながら、魔想体を引きちぎった。
「南雲! その結晶を俺に!」
「うん!」
南雲から魔想体が投げられ、妖がそれを取ろうとするが、直後、クレスがジャストで撃ったロケットランチャーで腕がちぎれ、そして魔想体は永戸が持っていた専用のアイテムボックスに回収される。
魔想体からの力の供給がなくなり、妖は身体をドロドロと溶かしながら絶望の中に飲み込まれていき。そしてその場から消えると、永戸は絶望の力を再び封じ込めた。黒いタールもその場から消え、草原には静寂が残る。
「勝った……のか?」
「魔想体の回収は完了、つまりは!」
「私たちの…勝ち!」
クレス、フローレア、メルトが喜び、第二支部特査四課は歓喜の声を上げる。
「やりましたね…なんとか」
「いやー、なんとかなるもんっすねー」
「ふんっ、当然よ、アタシたちがいるんだもの」
本部の特査四課もしてやったりの顔で見守る。初の共闘が嬉しかったのか、三人は少し笑っていた。
「神癒奈さん、無事ですか?」
「神癒奈、どこも痛くないか?」
「大事ないか? 我が孫娘よ」
「けほっけほっ、この程度で死ぬほど、私はヤワじゃないですよ」
地面こそ転がったが、多少怪我した程度で即座に修復され、神癒奈は三人に言われて地面から起き上がった。永戸の手を取りたちあがると、アイテムボックスを確認する。
「それで、魔想体は…?」
「あぁ、バッチリ回収した。敵も消えたし、防衛戦は成功だ」
「そうですか、良かった…」
疲れたのか、神癒奈は永戸に抱きしめられる。永戸も抱きしめた神癒奈の頭を撫でると、「よく頑張ったな」と褒めた。
「……みんな、強い」
それらの光景を、南雲が見つめる。南雲は彼らの強さに惹かれた、なぜあそこまで強いのかを。そして、永戸たちに近づくと、彼女は訪ねた。
「どうして、貴方達はそんなに強いの?」
その質問に、永戸たちは一瞬止まるも、少ししたら、笑って返した。
「守りたいものがあるから、そんな安っぽい理由でいいか?」
そう言われ、南雲はなんだそれ、とふっと笑うが、直後、影を落とすように言った。
「私も貴方達のように強ければ、鬼たちをまもれるのかな」
そんなことを言うと、神癒奈は優しく語りかけた。
「来ますか? 私たちの世界へ」
「えっ?」
「夢を追っているんでしょう? 人と妖が共に暮らす世界の夢を、なら、その夢を叶える場所を、貴方に教えてあげますよ、その夢を追える場所に、貴方を立たせてあげます。ちょっと仕事は大変ですけど」
その言葉を聞くと、南雲は口元が震えた、もしそれができる世界があったらどれだけ素晴らしいか、だから彼女は頷き、こう言った。
「うん、連れて行って、貴方たちがいる世界へ」




