最果ての世界にて
フィアネリスからの声を聞いた永戸たちは、その声に導かれるまま、揚陸艇へと乗り込む。
【周辺の制圧を確認、揚陸艇、発進させます! 幸運を!】
船の側面から、四課や様々な部隊を乗せた揚陸艇が発進される。船内が揺れる中、揚陸艇はまっすぐに、宇宙を駆け抜けて陸地へと向かっていく。
そして陸地に着くと、正面が開き、永戸たちは地上に降り立った。
「総員! 突撃!」
ユリウスの指示で、仲間たち全員と共に永戸達は駆け抜ける。オメガの原生体が見掛けられたならば、専用の銃火器を使用して撃破しながら進む。仲間たちが分散しながら永戸たちを送り届けていき、永戸と神癒奈、火乃香の三人は奥地へと進んでいった。
そして、その最奥の地に到達すると、永戸たちは見た。オメガを産み出す巨大なゲル状の塊と、それの中心にある目玉を。
「あれが恐らく……」
「オメガの発生源」
「早く壊そう!」
火乃香に言われるがまま、永戸たちは銃火器でオメガの発生源を壊そうとする。が、次の瞬間、横から鋭い斬撃が飛んできて。永戸たちは下がった。銃火器を犠牲に、攻撃を避けられたが、永戸たちは攻撃が来た方向を見る。そこに立っていたのは……。
『よう、英雄、このはるか彼方まできて、死にに来たのか?』
「あれは……」
『ここまでの旅路、とても長く辛いものだったですよね。ですけど、ここで終わりです。何故なら貴方たちは、ここで死ぬのですから』
「私……?」
見えた敵は、永戸と神癒奈、二人の模倣体だった。二つの模倣体は、それぞれリヴァンジェンスⅣと夜廻桜を構えると、永戸たちと向き合う。永戸らも、冷や汗をかきながら、武器を構えた。
「最後の敵は……!」
『そうさ、こう言う物語ってのは、最後の敵は自分自身って相場が決まってるよな?』
永戸達がそれぞれ一斉に駆け出し、攻撃を行う。永戸の二刀流と模倣体の一刀流がぶつかり合う、その時、永戸は思った。
(イクセリオスを持ってない? 何故だ?)
永戸は少し考え、互いに距離を離すと彼は叫ぶ。
「絶望よ! 世界に仇なせ!」
絶望の使い魔が地面から溢れ出し、模倣体に襲いかかるが、模倣体はそれを剣の一太刀で両断した。
「くっ! 俺が相手なら、やっぱ効かないか!」
『その程度か? なら、こっちからも行かせてもらう』
模倣体がガンブレードから銃を撃ちながら接近してくる。永戸はそれを弾きながら二人で戦いあった。
反対に神癒奈の方も激戦だった。
「危ないっ!」
「お母さん!」
模倣体の抜刀術、零式が神癒奈を掠める。神癒奈はそれをかわしながら、火乃香と共に攻撃を加えるが……。
『抜刀術参式!』
「うぅっ!」
自身の限界を超えた動きに翻弄され、斬られてしまう。
「お母さん……無理しないで!」
「どうしても、乗り越えなくちゃならないんです! だって、向こうにいる私たちは!」
その時、永戸も吹き飛ばされてきて、地面に膝をついた。だが、歯を食いしばって立ち上がると、神癒奈は衝撃的な事を言う。
「彼女たちは……貴方の、本当のお父さんとお母さんなんだから!」
「……えっ?」
その言葉を聞くと、火乃香はまっすぐに目の前の敵を見た。目の前の敵はそう言われると、何も言わずに武器を構える。
「嘘……なんで?」
「おかしいと思っていた。向こうは、俺が持っているはずのイクセリオスを持っていない、だが火乃香がそれを持っているとなると、自然と答えは出てくる」
「えぇ……彼女たちは、オメガに囚われてしまった別次元の自分。"終わらせてあげなければならない"存在なんです! 死ぬにも死にきれず、こうして彷徨う亡霊! だから!」
「……終わらせ、なければ、ならない」
火乃香はギュッと霊剣イクセリオスを握る。思えば自分だってそうだ、いくつもの死を乗り越え、次元を渡り、今までこうして戦ってきた。けど自分は、本来ならばあの楽園で死んでいたはずのただの狐なんだと、
今ここに命がある理由。その理由を考えると、火乃香は剣を構える。
「お母さん……私は、向こうのお母さんをやる。だからお母さんは、向こうのお父さんをやって」
「火乃香! 無茶だ! まだ未熟なお前が、全力の神癒奈に勝てるはずがない!」
「それでも! あのオメガの発生源さえ止められれば、勝てるんでしょう! だったらお父さん、お父さんは向こうのお母さんと戦うのを、サポートして……?」
永戸は、火乃香の目を見た時、彼女の覚悟を悟った。彼女の持つ瞳の感覚は、かつて大戦期にいた頃の自分と同じだと、その覚悟を受け取ると、永戸は言った。
「分かった、お前がチャンスを作ってくれると信じてる」
「永戸さん⁉︎」
「聞くんだ! こいつは本気だ! 俺たちで、"あいつら"を倒すんだ!」
それを聞くと、神癒奈は頷き、もう一度武器を構える。
『作戦会議はおしまいか? なら、ここで終わらせてやる!』
「……『月光』、焔月式抜刀術、零式・改!『月隠!』」
焔を揺らめかせ、体を輝かせた神癒奈が、永戸の模倣体とぶつかり合う。現役時の二人が模擬戦を行った場合の戦果は、神癒奈の方が上だ。火乃香の考えは理にかなっている。だが……。
『忘れてないか? 俺も、零が使えるって事を』
模倣体が零を発動させると神速の斬撃を神癒奈に入れてきた。が、神癒奈はそれを神がかった回避で避けると、模倣体の足を切り裂く。
『っ……! やるな!』
神癒奈が戦うかたわら、永戸と火乃香は神癒奈の模倣体と向き合う。
「俺じゃあ神癒奈に勝てるか、怪しいぞ」
「大丈夫。私が、いるから」
すると火乃香は、全身から焔を溢れ出させ、攻撃態勢を取る。その姿は、少し前に小さな神癒奈が見せた、仮初の九尾の姿とよく似ていた。
『蜃気楼!』
『……意地でも、私を乗り越える気ですか、火乃香!』
向こうの模倣体も気を引き出し、全力で向き合う。永戸も前に立つと、神癒奈から送られてくる魔力を頼りに、自身の全力を引き出した。
『アフターバーナー!』
焔を揺らめかせ、火乃香と並ぶ永戸、二人で神癒奈に攻撃を開始する。火乃香と並んで戦ってる時、不思議とその感覚に神癒奈の感覚を覚えた。
永戸が火乃香の攻撃をカバーし、火乃香も永戸の攻撃をカバーする。二人一組の戦術。神癒奈の模倣体は少しずつ押されるが、だが、オメガの発生源寸前まで追い込まれると……。
『月光!』
向こうも本領を発揮してきた。それにより、永戸の模倣体もアフターバーナーを発動させ、互いに一歩も引かない戦いになる。
「つっ!」
神癒奈の頬を剣が掠める。だが神癒奈は懐に踏み込むと模倣体を掴み、地面に組み倒した。
『神癒奈……俺を、殺すのか?』
その一瞬、神癒奈は殺すのを躊躇ってしまう。それが命取りとなった。
『甘いな! お前は、どこまでいっても甘ちゃんだ!』
永戸が組みつきから離れ、神癒奈を貫こうとする。
「神癒奈っ!」
『隙を見せましたね』
永戸は神癒奈に声をかけたが、その時、僅かに隙を見せてしまった、神癒奈の方は、模倣体の攻撃を陽炎で回避したが、永戸の方は回避が間に合わないと気づく。
その時だった。
「だめぇえええええっ!」
火乃香が永戸と模倣体の間に割って入り、自らを盾としたのだ。
その瞬間、永戸の景色はスローモーションで火乃香を捉えた。振り向きながら、火乃香は、小さな声でこう言った。
ーごめんー
そして、火乃香の身体が、模倣体によって貫かれた。
「火乃香!」
永戸は立ち上がって思わず叫んだが、火乃香は返すように叫んだ。
「行って!!! この戦いを! 終わらせる為に!」
火乃香の覚悟、それは、自らの死を覚悟しての物だった。火乃香は自らの体が模倣体によって貫かれるが、模倣体はこれは予想外だったのか、狼狽える。
『火乃香……! どうして、なんで⁉︎』
『火乃香!』
それは、親として残された、最後の情が、模倣体という殻を破ってまで出たものとでも言おうか、二人は火乃香に近寄った。
「火乃香!」
「二人はまだ、こっちにきちゃダメ!!! 死人の私には構わず! 行けぇえええ!!!」
永戸は涙を流しかける。ここまできて、自分の大切な娘という犠牲を出すことに。だがそれでも、四課として、死神の鎌は振り下ろさなければならない。そう覚悟を決めると、永戸は立ち上がり、最後に残った武装である、対オメガ用の加工が施されたパイルブレードを構えて突貫した。
「うあああああっ!」
永戸は叫ぶように、吠えるように、声を上げながら駆け抜ける。
『しまった!』
「させない!」
模倣体の永戸が永戸本人を抑えようとするが、神癒奈がそれを阻み、彼の武器を持つ腕を斬り飛ばした。
「永戸さん! 終わらせてください! 彼女たちの物語を、ここで全部!」
「あぁ! これで最後だ! 二度と来るんじゃねぇ! この化け物がぁあああっ!」
永戸はオメガの発生源の目玉にパイルブレードを突き立てる。そして、強烈な炸裂音と共に、パイルブレードが打ち出されると、オメガの目玉に突き刺さったのだった。




