都市の地下へⅡ
永戸達は弱った神癒奈を連れては、都市の地下に通じるエレベーターへと入る。
フィアネリスがボタンを押すと少し待つと分厚いドアが閉められ、地下へと移動を開始した。
「……どうして、地下に?」
「俺も分からない、ただ、フェレッタが逃げるには地下がいいといわれて、それに同乗してるまでだ」
永戸もなぜ地下に逃げるのか、いまだに理解ができてなかった。袋の鼠になるようなものだと。
エレベーターで揺れながら地下に潜ると、地下の景色は以前来た時と比べてだいぶ様変わりしていた。
「これは……凄いな」
「えぇ、正直私も驚いております」
地下で見えた景色に、永戸どころかフィアネリスも驚きを隠せなかった。やや煙臭く、あちこちが未開発だった地下は、広々とした空間へと進化していたのだ。
ただ、一つ言えるのは、都市の人たちが一気にそこに集まったせいか、人だらけでぎゅうぎゅう詰めになっていたところか。
すると通信が入る。
【永戸君、お疲れ様だ、信号から地下に逃げてきたのを確認した】
「課長、そちらは逃げおおせたのですね」
【なんとかってところではあるがね、四課は皆無事だよ、今はミズガルズ地下支部のところで仮設基地にこもっている。君たちも来たまえ】
というわけでエレベーターを降りると、永戸達も仮設基地へと向かう。人がゾロゾロ歩く中永戸達も歩くが、地下の人たちと地下に逃げ込んできた地上の人達とで入り乱れていた。
「フィーネ、最終的に逃げおおせた都市の市民は何人だ?」
「暫定ですが、70%ほどかと」
「残り30%は地上に残ってるか、奴らに捕まったか……か」
歩いているうちに、仮設基地に着いた。地下支部自体はあったが、特査に関してはまだ作られてないのか、こうして仮設基地を用意することしかできなかったらしい。
中に入るといつものメンバーがパイプ椅子に座ってはのんびりしていた。
「永戸、無事だったんだ!」
「神癒奈は……あぁ、なんて事に」
ケイと玉藻前がやってきては永戸達の安否を確認する。
ひとまず、神癒奈を近くの長椅子に寝かせると、状況の確認を行う。
「状況は?」
「地上へのルートはエレベーター以外完全に切断、我々はここにこもって籠城戦をしたいところだが、残念ながら、食糧や住民の寝床が確保できてない。この状態だと持って三日とったところだ」
ユリウスの説明と、プロジェクターで映し出される都市の状況に、永戸は少し嫌な感覚を覚えた。だがその時、仮設基地に入ってくる者がいた。
「はーっはっはっは! 元気かなみんな! あー……一名はダウンしているようだが」
「フェレッタ、なんで四課の部屋に? それに、どうして地下に逃げろと言ったんだ」
永戸の質問に、フェレッタは砂糖をドバ入れしたコーヒーを飲みながら答える。
「ふむ、まぁ地下に逃げろと言った理由は至極単純、"三日は"持つからだよ」
「"三日しか"持たないんだぞ」
「確かに三日じゃあ短すぎる。普通なら諦めて皆でここで餓死してくのを見るしかないだろう。だが我々は運が良かった、滅ぼされる運命から助かり、三日の猶予が得られたのだから」
「……反撃の手立てはあるのか?」
勿論、とフェレッタが言うと、彼女は現在の地下都市の戦力をプロジェクターに映した。
「現在、我々の戦力は幸いにも主戦力となる特査全てが無事だ。これは誇ってもいいとこだよ? 戦闘のプロフェッショナルとなる特査が無事ならば、反撃の余地がある。神癒奈君に頼れないのは痛いところではあるが、それでも皆生還してきた、反撃ならいつでもできる」
プロジェクターの映像を切り替え、フェレッタは次の映像を映す。そこには各課が協力して戦う図面が映し出されていた。
「これが、上層部が提案した反抗作戦の図面だ。一課から三課は都市部にてXと交戦。四課はエレベーターから都市中央部へと走り、その後単独で議会のビルを奪還する。そこには、かのFとかいうメスケモがいるが、ふむ、まぁこの際些細な問題だ」
「ですが相手は、神癒奈さんの力を奪って行ってるはずです、そう簡単に奪還は…」
フィアネリスが苦言を申すが、フェレッタは小さな事のように頷く。
「まぁそう考えるだろう。通信記録からそこは察している。そこで、突貫工事ながら君たち用の装甲戦闘装備をでっち上げることにした。単純な戦闘能力なら数割は増すだろう。さらに、上層部からアーティファクトの使用が許可された。わざわざ蔵から運び出すのは大変だったのだよ? また絶望の時みたいに奪われるのを阻止するためにね。だが今回はそれが功を奏した」
アーティファクトとは、人類が見つけ出してきた聖遺物で、本来ならば使用が禁じられる武器の総称だ。だが永戸達に支給されるアーティファクトが映像で列に並んでいた。
がそれでも、問題点があった。
「アーティファクトは持ち主が武器に認められないと使い手になれないぞ、そこはどうするんだ」
「そこで我々はちょっとしたイカサマをする事にした。装甲戦闘装備に擬似的な魔力回路を通し、言うなれば武装を扱うためのマスターキーを作る。それにより、これらの化け物装備を使うと言うわけだ」
「……勝算はあるのか?」
「ないよりは、賭けてみたほうがマシだろう?」
永戸達はそれを聞くと静かに頷くが、ここで、フェレッタからあることが知らされる。
「ところで、奴らの細胞を調べたのだが、どうにも元の細胞から変質しているように思えた。全員見た目は同じで似た細胞かと思えば、全然バラバラだった」
「何が言いたいと?」
フィアネリスが聞きたくはないことを聞く。するとフェレッタは悪魔の笑みをしながら答えた。
「奴ら、都市の人間を捕獲していたね? もしその捕獲してその先の利用が、アレと同じ姿になっての洗脳労働だとしたら? 君達は彼らを撃てるかい? 昨日までは同じ市民だった都市の人達を、今度は洗脳された敵として倒せるかな?」
その言葉を聞いて、全員が息を呑む。すると、意外なところから声が出た。
「助けます。私が……全員」
それは、幼子になった神癒奈から発せられた声だった。神癒奈は覚悟を決めた目つきでそう答えると、フェレッタは笑った。
「はっはっは! それでこそ我らが英雄だ! 頑張ってくれたまえよ! 私はここである切り札の調整に入るからね、君達の活躍に期待してるよ」
それではとダボ袖を振りながらフェレッタは去っていった。永戸達はそこに取り残されるが、作戦は正直無茶だと思えた。
「やるしかないみたいだな、また大きな博打を」
永戸が言うと仲間達はそれに頷く。覚悟を決めた永戸達は、反抗作戦の準備が整うまで、休む事にしたのだった。




