フローレアの故郷
「エルフの森の調査?」
四課に来て依頼を見た永戸が、口を漏らす。
「そうだ、そこは外界の人間を寄せ付けない森でな、そこに住むエルフ達と交流し、外界とのコネクトを作って欲しいところだ」
ランジーから話を聞いた永戸は口を押さえて依頼書をじっと見る。特にこれと言って不審な点がない依頼書のようだった。
「エルフの森ですか…それってどんな感じなんです?」
「エルフは自然と共に生きる種族、基本的には、森とかそういうところに住処を用意してはひっそりと暮らしてるような者だ」
「妖狐と似た雰囲気を感じますね」
まぁ言われてみれば確かにと永戸は考える。エルフの森に行く機会なんてそうそうない。向こうは閉ざされた世界で暮らしているゆえに。
と、そんなことを思っていると、フローレアが寄ってきた。
「この森…フローの故郷であります」
「お前の故郷?」
「うむ、フローはここで育ち、ここから出て、ミズガルズへと参った」
フローレアの故郷と聞くと、永戸は以前フローレアが暴走したときに見た景色を思い出す。魔物によって蹂躙された村。そこに行くのかと。
「フローレアは怖くないのか?」
「怖くない、といえば嘘になりまする、だが、隊長殿たちがいてくれれば、フローは安心して森へ帰れまする」
「嫌なら他の人に代わってやってもいいんだぞ?」
「構いませぬ、フローは英雄を志す身、故郷に帰る時もときには必要であります」
「そっか」
フローレアの言葉を聞いて、永戸は少しほっとする。彼女にトラウマとかあったらどうしようかと考えた故に。よし、と準備をすると、永戸は言った。
「行くか、お前の帰省に」
「うむ!」
永戸達は第二支部の初期メンバーであるクレスとメルト、あとは火乃香を連れると、フローレアの故郷へと向かうのだった。
ーーー
揺れるトラックの車内で、永戸達は絶望的にまずいレーションを食べながらエルフの森へと向かう。
「このレーションのチョコバー、栄養補給用とはいえ、味が全く考えられてないですよね」
「言うなよ、まずいの我慢して食ってるのに」
トラックが揺れては尻が痛いし、レーションはまずいし、気分は最悪だった。だが仕事が待っているのだ、今ゲロマズな顔をしていては、到着した後にエルフ達に申し訳が立たなくなるだろう。永戸らはレーションを食べ終えると、真面目な顔をしてトラックを走らせていく。
今回はなんでもできるように、補給物資と炊き出しの器具は持ち出してきている。やることはあくまで交流で、戦闘も調査もないが、出来ることは最大限用意しておいた方がいいと思い、持ち出してきた。
「隊長さん、本当にフローレアを連れてきてよかったのか?」
「あいつが行きたいって言ったんだ、俺は尊重する。」
永戸は助手席から後ろを振り向き、フローレアを見る。彼女はフィアネリスと呑気に電子チェスを打っていた。
「さて、そろそろ目的の森に入るぞ」
「いい感じで出迎えてくれればいいんだが」
森の中に入り、道をいく彼ら。すると、高い木の上の方から突然矢が飛んできた。トラックに命中するも、頑丈なだけあって傷付かずに済むが、永戸らは手厚い迎えだと思い、木の上を見上げる。
「ここは我々エルフの暮らす場所だ! 余所者が入ることは許されない!」
「随分とテンプレートな挨拶だな」
「矢が向けられてるぞ、どうするんだ隊長さん」
木の上には守人となる男のエルフが立ち、弓矢を構えていた。このまま車の中にいては彼らに話が伝わらないだろう。永戸は車の外に降りて手を挙げた。
「都市の依頼でここに来た。目的はエルフ族との交流だ、やましいことはない」
「黙れ、人間風情が、我ら誇り高きエルフと対話しようなどと考えるな」
これは困った。どうやら向こうは人間とか他種族絶許派らしい。どうりで交流の依頼が来るわけだと永戸は思う。
するとフローレアが車から降りてきた。
「心配せずとも、この者達はフローの仲間であります」
「フロー? お前は、フローレアか、あの人間を真似したエルフ族の恥晒しが、何故ここに戻ってきた」
「怪しい話ではありませぬ。フローらはエルフに危害を加えるつもりも何もなく、ただ外界への交流を促すためにやって参った」
フローレアが説得をしようとするも、弓矢は放たれ、彼女の頭部を掠めた。
「呪われた異端者の言うことなど聞くものか、次は頭を確実に狙うぞ」
もう一度矢が向けられ、永戸は冷や汗をかく。不味い、このままだと話は平行線どころか死人が出ると。すると、トラックの中からまた一人降りてきた。
「そこまでです! これ以上、同じ仲間を傷つけることは許しません!」
それは神癒奈だった。神癒奈がフローレアの前に立っては矢を防ごうと構える。エルフの男は神癒奈を凝視し、まじまじと見つめると、彼女から何かを感じ取ったのか、弓矢を下ろした。
「……貴方は、神様、それも、かなり位の高い存在のようだ」
「私達は本当にただ交流をしにきただけです。敵対する気も何もありません」
神癒奈の話を聞き、エルフの男は考え込むと、高い木から降りては背中を向けた。
「…本来であれば通行は許さないが、神の頼みであれば仕方がない、通行だけは許してやろう」
「…ふぅ」
危ういところだったと神癒奈はホッとする。永戸達は車に戻るとエルフの男について行き、村へと向かった。
太陽の光がさす森の中を進んでいく。深く木々が生い茂った森のはずなのに、その景色は神秘的で、古いファンタジー物の作品を連想するような光景が見えた。
そして、エルフの村が見えてくる。村は比較的大きな村で、そこそこな規模の人数が暮らしていた。
「全員降車、仕事を始めるぞ」
永戸達は車から降り、村を探索し始めた。
村の者達は皆ヒソヒソと話しては永戸達を警戒していたが、ひとまず神癒奈を頼り、道を進む。
「この村の村長に会えますか?」
「構わない、ただし、粗相のないよう」
村長のいる家へとつくと、こんこんとノックをし、中へと入る。するとそこには、本当に村長かと言われるほどの美貌の女性がいた。
「外からの客なんて珍しいね、私達に一体何の用かな?」
「今回は、この村と外の世界との交流を考えていただくべく、ここに来ました」
神癒奈がペコリと頭を下げては挨拶をする、その時、村長はフローレアを見た。
「フローレア? そこにいるのは、フローレアかい?」
「は、はい村長! フローであります!」
「少し家出をしていったかと思いきや、すぐ帰ってきて、都市の暮らしには慣れたかい?」
「えぇ! 勿論ですとも! フローは都市にてこうした仕事につき、日夜努力を重ねておりまする!」
それを聞くと村長はうんうんと楽しそうに頷く。永戸達は少し呆気に取られた。そのことに永戸は口を開く。
「フローの事、怒ったりしないんですか?」
「怒ることなんてないわ。村の者は、誰であろうと私の宝だから。ただ、フローレアは…他の村の者から嫌われてはいたね」
「それは…やっぱり、仮想の能力が原因ですか?」
「えぇ、魔法適性の代わりに、彼女は強すぎる力を持った、それ故に、村の者からは忌み嫌われているのよ」
「…」
このとき、永戸はフローレアが俯き、拳を握りしめたのを見た。彼女も何か思うところがあるのだろう。しかし村長は、彼女に対しては優しく接してくれているようだ。
「まぁ、座りなさい、まずはゆっくりお茶でもしませんか」
永戸達は村長の提案を受け入れ、椅子に座り、少し話をすることになったのだった。




