商会の裏の姿
あれから休みの日に、再び永戸達は段三郎商会に顔を出したのだった。
「はっはっは! お前さんらの話は聞いたぞ! なんでも、異次元の獣人を手玉に取ったそうだな!」
「やったのフィーネなんだけどな、向こうの言葉喋れないし」
社長室を訪れた永戸達一家は、お茶を飲みながら話をする。
「ほう、それで、フィアネリスと言ったか、奴らと接してみてどう感じた」
「どうもこうも、神癒奈さんより獣臭くてその異臭に耐え難い存在でした。野蛮な侵略者、そんなイメージでしょうか」
「フィアネリスさん、それ遠回しに私が臭いと言ってます?」
臭くないよね? と神癒奈がすんすん自分の匂いを嗅ぐが、永戸に大丈夫だぞと言われる中、話は続く。
「だが、オメガを倒す手段が手に入らなかったのは残念だ。報酬については約束通り四課に金を送っておく」
「ありがとう、契約はこれで果たされたか?」
「うむ、お前さんらには感謝しとるよ」
そうして互いに湯呑みを取ってはお茶を飲む。ほうっと一息つきたくなるが、永戸は一つ、切り込んだ話をした。
「どうやら都市に、奴らの尖兵が忍び込んでいるらしい、何か心当たりはあるか?」
あの日誌を見てから、あれから永戸達は都市の入国者リストを全てフィアネリスに洗わせた。だが、入国者リストの中にこの数週間でそれらしい獣人はおらず、尚且つ異邦の言葉を話す者はいなかった。
「ふむ……奴らの生態を見たが、この都市に住む獣人と何も変わらないものだとは分かった、じゃが、この都市で頭角を表しているそんな存在など…今は見えんな」
「敵はどこから攻め崩しに来るか分かりませんからね、私達には、身構えることしかできませんよね」
「そうだ、今の所できることは、ただ敵が動くのを待つことだけだ」
「こういう時、俺たちがいかに無能な存在だと叩きつけられるな…」
永戸は神癒奈と段三郎と会話しながら、お茶を一飲みする。現状、あの生命体の都市に潜伏した存在を暴くことなど、砂漠の中で宝石を探すくらい難しいことだった。役に立てない自分たちに永戸は少し悔しく思うが、その時だった。
「大変です! 社長!」
「なんだ? 騒がしい」
「研究室のオメガが暴走を開始しました! カプセルが破られそうです!」
「なんだと⁉︎」
その言葉で、段三郎は立ち上がり、すぐさま部屋を移動する。同時に永戸達も立ち上がった。
「俺たちも見てはいられないな、行くぞ」
「はい!」
現在いるのは永戸達一家(永戸、神癒奈、フィアネリス、渚、玉藻前、火乃香)、戦力としては十分だ。部屋を移動して、段三郎を追いかけていく。この社長室のあるフロアはビルの最上階で、研究室は下の方にあるらしい。
エレベーターを待てない段三郎が階段を使って降りて、研究室のあるフロアへと向かうのを、彼らは追いかける。すると、研究室のフロアでは、異様なものが見えた。
「ちょっと待ってください! これって⁉︎」
「おいおい……いつからこの百貨店はラ○ーンシティの製薬会社にになったんだ⁉︎ 狸繋がりか⁉︎」
研究室のフロアでは、数々の生物に改造を施したり、薬物を投与したりと、研究が重ねられていた。その研究はあまりにも非人道的で、同時に、悍ましい生物ばかりが生みだされていた。それを、追ってきたことに気づいた段三郎がぎょっとした目で見る。
「お前さんら⁉︎ み、見たのか⁉︎」
「見たもクソもあるか、なんだこの実験の山は!」
「これは……!」
段三郎が冷や汗をかく。その様子は、何か見られたら不味いものだと言っているようなものだった。
神癒奈は、この様相は看過できないと、段三郎に問いただす。
「答えてください。ここで一体、何をしてるんですか?」
「…はぁ、バレてしもうては仕方がない、段三郎商会はな、表向きは人ならぬ民衆に好かれる商いをしている、だが、その裏では、血に飢えた者達にこうした武器を売り捌いている武器商人よ」
「……っ」
その発言に、神癒奈は言葉をなくす。だが代わりに、玉藻前が言葉を発した。
「…段三郎よ、昔は人を驚かせては楽しんでたお主が、今や死の商人か、堕ちた物じゃな」
「黙れ! もう昔のような、妖が人を驚かせては民草になるような時代ではなくなった! 今やインターネットが発達し、都市伝説などが当たり前になり、儂らの神秘性などとうに失われた! 人を化かして食っていけるような世界ではなくなったのだ!」
「だからと言って命を弄ぶ事が許されるか! まさかオメガを倒す手段を探しておったのは、最初から兵器利用が狙いでか!」
「それは違う! オメガは人の手には余る存在だ! アレを御することなど誰にもできん!」
そう言っていると、ビルの中が少し揺れた。
「言い争いはしたいところでしょうが、はそれどころではございません、オメガの鎮圧に参りましょう」
「そうだよ! 喧嘩してる場合じゃない!」
「……そうじゃな、段三郎、この話は後じゃ、オメガの研究室の道案内をせい」
「分かった」
一同は段三郎についていき、オメガの保管場所へと移動する。するとそこは、割れかけの宇宙船から回収されたカプセルがある部屋だった。
「カプセルの耐久、もう持ちません! 実験の中止を!」
「今すぐ中止しろ! 研究員は退避!」
段三郎が叫ぶと、研究員は退避する。彼らが部屋から出た瞬間、カプセルのケースが破られ、中からオメガが出てきた。
オメガはうごめきながら、取り込む対象を探す。
「今の状態のやつじゃ倒すことはできないぞ!」
「……致し方ないが! ここはお前さんらに全てを託したい!」
すると段三郎は、ある一つの生物兵器のケースを持ってきた。
「この生物兵器に奴を擬態させる! その後はお前さんらで奴を倒してくれ!」
「はぁ⁉︎ こんな物用意しといて後は全部ボク達に仕事ぶん投げ⁉︎」
「仕方ないが、そうするしかなさそうだ!」
ガラガラとケースが押され、オメガにぶつかって倒れると、檻の中の生物兵器を取り込み、オメガは擬態を始める。
「段三郎、お前は隠れてろ、ここは、俺たちがなんとかする」
オメガが姿を変貌させ、四足歩行の生物兵器へと変貌すると、永戸達は武器を抜いた。
「さぁ、獣狩りの時間だ」
瞬間、オメガが永戸に飛びついてきた。鋭い爪で永戸を切り裂こうとするが、寸前で永戸は飛び退く。
二回目の攻撃が迫る、永戸はそれを剣でパリィすると、生まれた隙を利用して、零の力を纏った白魔を突き刺した。
「一撃で仕留めたかったが…外れたみたいだ!」
白魔は核にまだ届かず、永戸は振り払われる。白魔は刺さったままだが、零は確実に効いたのか、動きが遅くなる。
「武装、限定展開、照準よし、射撃開始!」
フィアネリスが翼に展開した武装と共に火力投射を行う。ビームや光子バルカン砲などが降り注ぎ、オメガの肌を貫くが、ダメージは薄く見えた。
「神癒奈! 合わせるがよい!」
「はい! 玉藻様!」
『業火・改!』
神癒奈と元の姿になった玉藻前が、焔の柱を打ち出すと、それがオメガに突き刺さり、焔で体を内側から焼かれ、悲鳴を上げた。
「光よ蘇れ! イクセリオス!」
零距離まで接近した火乃香が、輝く霊剣イクセリオスを切り上げる。オメガは火乃香を切り裂こうと爪を振るうが、その瞬間、渚に腕を撃ち抜かれた。
「火乃香! 大丈夫⁉︎」
「ありがとう! 渚お姉さん!」
「お姉さん…ちょっと照れるな。けどがんばるもんね、とっておきの弾を使うよ! 唸れ魔弾!『ゼロキャリバー!』」
青白い稲妻と共に零の力が込められた弾丸が発射され、オメガを貫く。白魔と比べて効果は薄いが、こちらも零の力で相手を封じ込めた。だが、オメガが吠えると、体内から白魔も魔弾も抜かれ、ダメージが治される。
「やっぱ核を貫かないと効果がないぞ!」
「でも貫こうにもあの巨体に使える武器は…!」
永戸は何かないか考える。すると、あることを思い出した。
「そう言えば……」
左側のホルスターにさされたブレイズエッジⅡの一丁、その中に、対なり損ない、能力者用の決戦兵器となる弾丸、『血清』が、まだ五発のこっていた。一発は前回の任務で国王に向けて威嚇で撃ったが、それでも五発は余っていた。
フェレッタからは「まぁ何か他に用途が生まれるかもしれないし、取っておいてくれ」と言われ、残しておいた弾なのだが、この事態を乗り越える可能性があると、永戸は考えた。
「フィーネ、奴の核の位置は⁉︎」
「頭部の脳にあります! そこを狙ってください!」
なるほど、道理でさっき白魔の効果が出なかったわけだ、頭部に核があるならば、心臓部を狙っても無意味だと。ならばと彼は言った。
「奴に隙を作ってくれ!」
「分かりました!」
神癒奈が刀を構えると、神速の不可避の斬撃を抜き放った。
「焔月式抜刀術、零式・改!『彼岸舞踏!』」
流れるような斬撃で、オメガの四肢の筋を切った、オメガは力無く倒れ、永戸の前に頭を晒す。そして永戸はオメガの頭部にブレイズエッジⅡを押し付けた。
「これでおしまいだ、化け物が!」
五発をたえまなく射撃すると、赤黒い稲妻が発せられ、弾丸が脳の内部へと突き刺さり、核を貫く。
オメガが頭を落とすと、その姿は霧散していき、無事、倒されたのだった。
「やった…のか?」
物陰から段三郎が出てくる。それを振り返って永戸が見ると、答えた。
「あぁ、奴は倒した、契約外の仕事だが、これはウチの口座に金が入るんだよな?」
その一言で段三郎はほっとすると同時に、永戸を苦笑いで見つめる。
「お前さんも、なかなか食えない性格をしておるな」
「どういたしまして、これでも商売ですので」
段三郎を皮肉るようにかえすと永戸は笑ったのだった。




