奇妙な商談
段三郎が、オメガが写った写真を永戸達に見せる。
「聞くにお前さんらは、イストリアの歴史に名を残さない英雄部隊だと聞いた。嘘か真かはわからんが、じゃが、お前さんらならこいつを知ってそうだと思い、呼び出した」
「それがこのクーポンのチラシか?」
「左様、玉藻前とは昔ながらの縁、そのつながりを信じてこのクーポンを餌に呼んだ所だ、で、どうなんだ? お前さんらはこれを知っておるのか?」
段三郎はかっかと笑いながら永戸たちを見ては品定めをする。確かに食えない相手だと永戸は思うと、必要最低限の情報を開示した。
「これは、オメガだ」
「ほう? オメガと呼ぶのか、して、こやつは一体どこから来たのかな?」
「話によると、次元の彼方から来たらしい。それ以外のことは知らない」
「ふむ……お前さんらでも知らぬか」
段三郎が聞くが、永戸は首を横に振った。
「すまないな、俺たちでもこいつに関しては分からないことだらけなんだ。イストリアでも噂話ばかりでどれが信用に値する情報かは…」
「そうか…」
「所で、どこでこの個体を? そもそもどうやって捕獲して…」
「気になるか? だがこれは商談だ、こちらからの情報は、お前さんらの情報を開示してから話そうじゃあないか」
商談、とていのいい言葉に聞こえるが、手綱は向こうが握っていた。段三郎商会がどのような存在であれ、四課の情報を漏らすわけにはいかない。が、段三郎は口を開いた。
「まぁよいわ、お前さんらが仮に隠そうとしても、狸相手に隠し事など通用せん、異世界特別調査隊四課、別名死神部隊の隊長、陽宮永戸」
「…どこでそんな情報を?」
永戸は一気に冷たい目になり、段三郎を睨みつける。先程の噂で聞いた程度のような話ではなく、はっきりとした情報を言われ、永戸は警戒する。が、段三郎はまてまてと手を挙げ、次にこう言った。
「心配せんでも、お前さんらの情報を世間にバラすことはない、だが、段三郎商会は耳が良くてな、こう言った噂話は調べに調べ尽くしているものよ」
「どこまで知ってる?」
「何度も英雄や化け物を倒し、人知れず世界を何度も救ったところまでは」
ある資料を見せては、にぃっと段三郎が黒い笑みを浮かべる。その資料に書かれていたのは、永戸達の情報だった。黒く塗りつぶされてるところがあるあたり、トップシークレットには触れてないようだが、この様子だと、最近の活動どころかこれまでの事は全てお見通しのように思えた。
永戸は降参するように片手を上げると、情報を吐く。
「わかった、認める。知っての通り、俺たちは死神部隊だ。歴史の裏で暗躍する殺し屋。だがオメガに関してはほとんど何も知らない、けど、これまで見た生物とは違う、確実な殺意を持った生命体だと言うのは明らかだ」
「ふむ…殺意か、何故そう思う?」
「奴らは生物、無機物を取り込み、その姿に変貌してはまた別の生物を襲う、生態からして、それは捕食ではなく、一種の擬態のように思う。他者の姿に擬態しては、そのものの最大限の力を発揮して、周囲を殺戮する。普通の生命体とは、そこらへんが全く異なる部分だ」
永戸はEフォンのデータから、オメガの詳しい資料を段三郎に見せた。その資料に描かれているオメガも、ほとんど情報がなかった。
「お前さんらがほとんど知らないのはどうやら嘘じゃないらしいのう」
「悪いな、爺さん、俺たちにだって限界はある」
「だが、明確な交戦経験のあるのはお前さんらだけだ、あれを一体どうやって倒した?」
そう聞かれた永戸達は、倒し方を説明した。擬態後は核が生まれ、その核を白銀で貫けば倒せることを。すると段三郎は顎に手を当て、考えた。
「…白銀が効くのか」
「あぁ、コーティングさえされていれば聖剣などでも貫ける。この辺りはなり損ないと一緒だ」
「しかし、倒すには何かを生贄にして一度擬態させる必要があるのが厄介だのう」
「そこがネックだし、何より、倒しても簡単に霧散する為情報が得られない、捕獲する事も今まで不可能だとされてきた。一体それをどうやって捕獲したんだ?」
「…ここまで聞かせてくれた礼に、聞かせてやろう」
すると段三郎は、永戸たちに、また資料を見せた。だがその資料には、驚くべきことが記されていた。
「この中に試しにオメガをぶち込んだら、奴は大人しくなった」
「なんだこれ? 何かの…カプセル?」
永戸達が見た物。それは、ミズガルズの技術では明らかにない、未知の文明のカプセルだった。その中に、オメガが入れられており、侵食する事も、抜け出す事もなかった。
もう一つ資料があったが、何やら大きな船の写真だった。それも都市の技術じゃないもので、それがオメガになんの関係があるのかと永戸達は思う。
「このカプセルはな、儂らが外郭の外を調査中に見つけた宇宙船の内部にあった物だ」
「うちゅ…はぁ⁉︎」
唐突な宇宙船カミングアウトに永戸は目を丸くする。ここにきて宇宙船とは流石に思いもよらなかった。すると神癒奈が聞いた。
「宇宙船というものは都市の物で開発されてるのは私たちも知ってますけど、でも、こんな形の宇宙船は知りません、これってどこの文明のものですか?」
「それがわかれば儂らは苦労しないんだがな、だが、ある日それが突然見つかった」
「普通見つかったらイストリアにも情報が渡るはず、なのに何故今まで気づかなかったんだ?」
「儂らも儂らで独自のネットワークを作っておる、イストリアに渡る前に、秘匿したのよ」
どうやら段三郎商会はなかなか侮れない組織らしい、イストリアの情報網をすり抜ける辺り。ただの商会ではなさそうだ。
「その船についての詳細な情報はないのか? もしかすると外宇宙からやってきた存在の可能性もある」
「残念だが、今のところだと儂らだけでは解析が困難でな、何かこの手に詳しい学者を探しておった。そこでだ、お前さんらに頼みがある。イストリアの学者を連れて、この船の調査を正式にして、オメガを倒す手段がないか探して欲しい」
「秘匿しておきながら今更頼るのか?」
「儂らじゃ調べるのはこれが限界だ。餅は餅屋に頼むに限る。報酬はきちんと払う。この船の情報を共有するだけで構わん」
段三郎が契約書を出すと、永戸らに渡す。そう聞くとなかなか破格の条件だ。永戸はサインしようとするが、その時、玉藻前に言われる。
「分かっておろうが相手は狸じゃ、約束を反故にされ、裏切られる可能性だってある、慎重に考えよ」
玉藻前の言葉に、永戸はサインを少しためらった。段三郎の顔を見る。こちらを見てはニコニコ笑っている。この笑顔をどこかで見たことがある。
(フィーネと同じ、腹の底に何かを隠している表情だ)
「分かった、お前が何を考えていようが、俺たちはイストリア、こういう仕事はしなければならない。もし何かあれば、その時はその時だ。お前の頼みに乗るよ」
「うむ、交渉は成立だな」
サインをすると、永戸は段三郎と握手した。これによって、永戸達はイストリア主導で謎の宇宙船の調査に赴くことが決まったのだった。




