今はただ、できることを
勇者達のレジスタンスの拠点の中、反撃の準備を整える永戸達。今は勇者達に剣技を教えていた。
「なんか前にもこういうことあったよな」
「あの時は私とトレーニングしましたけど、今回は明確な対処法が分かってますからね、それに、私たちも成長してないわけではありません」
今は少しでも戦力差を縮めたい、やれる事ならと勇者達に戦い方を教えていくが、二人のレベルの剣術となると、指導するのは難しかった。
何故ならば、かたや焔月を継承する者の抜刀術、かたや大戦で磨かれた喧嘩殺法、それを彼らが覚えるには到底できるような話ではなかった。
だがせめて、基礎だけでも教えようと、神癒奈は基本の剣術を、永戸はケイが昔永戸に教えた剣をそれぞれ思い出しながら教えた。
「お母さんとお父さん、頑張ってるね」
「うん、そうだね」
火乃香はレジスタンスの人からもらったお菓子を頂き、アンフェリアはこんな状況でも自分の道まっしぐらか、音楽を聴いていた。
「アン、不謹慎じゃない?」
「あたし達はまだ子供だよ、他のみんなは全員大人、大人には大人のやれることを任せて、あたし達はこうやって待ってたらいいと思う」
「そうは言われても…」
「それに、火乃香だって大人達から可愛い可愛いと子犬みたいに可愛がられてるじゃん」
「子犬じゃないもん! 狐だもん!」
そんなことを言いながら、二人は気ままな時間を過ごす。するとアンフェリアはこんな事を言い出した。
「ねぇ、あの勇者達、本当にあたし達だけで倒せるのかな」
「…大丈夫、お父さん達強いから、それに、イストリアの人から新型装備が届くらしいし、それが届いたら怖いものはないよ」
「剣一本と12発の弾丸だけで、なんとかなるもんなのかな」
「お父さん達ならきっと大丈夫! 私、信じてるから!」
むんっと火乃香は頑張るぞっと気合を入れる。それを見るとアンフェリアはほくそ笑んだ。
「ファミリーコンプレックスってやつ?」
「何? 旧時代のゲーム機?」
「違う、火乃香が家族バカだと思っただけ」
「バカって言ったー!」
あーんと火乃香が泣き喚く。退屈しない子だなとアンフェリアは笑うと、彼女を励ました。
「なら、生き残ろう、あたし達は、あの英雄達に近づくことはできなくても、自分達でもできることがある」
「うん!」
二人はそう決意し、自分達の時間を過ごすのだった。その一方で、フィアネリスは、王都の地図を一人見ていた。
「ええと、フィアネリス様」
「フィアネリスで構いません、私は天からの使いではありませんので」
「ではフィアネリス、貴方には、囚われた天使達がどこにいるかお分かりですか?」
勇者達の一人にそう聞かれると、フィアネリスはふむ…と首を傾げ、演算を始めた。
「大方、こういうのは城の牢獄に封じ込められているパターンが多いのですが、それにしては、どうにも対応が早かった、とすると、仮説を立てるなら、勇者に非常に近い位置で管理されている説がありますね」
「と、言いますと?」
「彼らの住処などはありますか? 城以外で」
「……彼らの住処、ですか」
勇者は考えてもそんな住処を特定することはできなかった。
「残念ながら、私には分かりません。基本的に勇者は個別で暮らしています。ですが、彼らは"円卓"と呼ばれる存在によって管理されてます」
「円卓?」
「勇者の中でもより強い勇者の者達です、と言っても、アディール以外はほとんどそこまで強くないのですが、彼を含めて三名、突出した強さを持つ者がいます」
「それぞれ説明を」
勇者に説明を求めると、彼は一人一人説明する。
「一人は、魔物使いキンベル。その名前の通り、魔物を操る勇者です。彼は大陸中の珍しい魔物をかき集めては、自らの檻の中で飼い慣らし、時には人を襲わせています。二人目は魔法少女ティア、この王国に召喚された勇者のジョブのうちの一つ、魔法使いの中でも特に優秀で、可憐な少女の姿をしてますが、実際は悪と決め付けたものを痛めることで有名なサディスト。どちらも侮れない戦力です」
「なるほど、失礼ながら、ここに来る際の転移ゲートの全行程と場所を解析させていただきました、少し偵察に行けないかと思いまして」
「っ? 王都全体を一人で? あまりにも危険なのでは?」
「"陸ならば"、ですが」
フィアネリスはこれ見よがしに翼を見せつける…それを見た勇者は納得する。
「確かに、空からなら誰も警戒はしない、空に行ける勇者達もいないはずだ」
「なら、善は急げですね」
そうしてフィアネリスは転移ゲートのある場所に行くと特定の順番で石を押し、外へ出て行ったのだった。
ーーー
「さてさて、敵城視察をしますか」
ゲートから出てきたフィアネリスは、翼をはためかせると、存在を隠蔽し空を飛ぶ。
王国の一番高いところである王城の屋根のてっぺんに立つと、彼女は観測を始めた。
「周辺を走査、生体反応をもとにいくつかの条件を設定、条件1、一定の強さの人間が集まる場所、条件2、その場から動かない者四名がいる場所、条件3、人の出入りが多い場所。この条件で周辺を走査開始」
フィアネリスがいくつかモニターを出すと、同時に王都全体の様子をホログラムで映した。
「走査の結果、確認できた場所は……」
ホログラムにポツンと、一つだけ場所がマッピングされた。ホログラムを拡大し、見てみると、そこは勇者達の集まる場所のようだった。
そこを映像としてモニターに映す。すると、窓からではあるが、中の様子が映して見えた。
そして、フィアネリスはあるものを確認する。
「ビンゴ、目的地はどうやらここのようですね」
そこには四つの檻に囚われた天使達と、別の方向から見ると、勇者の集まりとなる円卓があった。
どうやら今は何か話してる様子で、フィアネリスはその音声を聞き取る。
「英雄殺し?」
「そうだ、異世界を渡っては、数々の英雄を屠ってきた英雄殺しとその仲間の全能の神の狐がこの王国に来ている。我々勇者達の脅威となる、非常に厄介な存在だ」
「はんっ、そんなの、お前のチートキラーがあれば、容易い相手じゃないか」
「どうだろうね……相手の能力次第では、五分五分の戦いに持ち込まれるかもしれない」
今アディールと話しているのがキンベルのようだ、自分の席の隣に狼の魔物をテイムしては、ペットのように可愛がっている。
「全能の神とかマジウケる、肩書きだけならでけー神じゃん、でも撃退したんでしょ?」
「あぁ、僕の能力の前では、彼女はただの狐だ、とは言え、恐るるに足りる存在だ」
「雑魚のくせしてイキがるのね、ダッサ」
「舐めない方がいい、彼女もまた歴戦の猛者なのだから」
一人の女性の声が聞こえる。どうやら彼女がティアのようだ、ギャルっぽい口調の割には小さなロリ体型の少女で、先の戦闘のことを聞いていては笑っていた。
他にも円卓には人は座っていたが、どうやら仕切っているのはこの3人らしい。
「にしても天使達って本当に使えるな、少し調教してやればすぐに啓示を受信してくれるから」
「残った雑魚天使も、あーし達の犬にしちゃおうよ」
「そうしたいところだが、奴らは英雄殺し達を引き入れては最後の抵抗をしてきている。奴らを叩き潰せば…」
「いよいよ、俺たちの天下って訳だ」
キンベルとティアがゲラゲラと笑うのを見て、フィアネリスは目を細める。
(下衆を束ねるのもまた下衆ですか……マスター達の反撃でどんな顔をするか、楽しみですね)
彼らを確認すると、フィアネリスは城のてっぺんから落ち、レジスタンスの拠点へと戻っていくのだった。




