勇者達のレジスタンス
「なんと……これほどの勇者が、動き回る場所があるとは」
見事な人の往来を見て、フィアネリスがそう言葉を漏らす。
「ここは俺たちの前線基地だ。親達は、日夜ここで戦う術を学び、王都で何か問題が起これば出撃して対処する。お前たちが来てくれてよかったが…まさか、あのアディールに対処されるとは」
「アディールって、そんなに強いの?」
火乃香の質問に、勇者の男が答える。
「奴は王国最強の戦力だ、本来なら、魔王を倒す事だけに用意された"駒に過ぎなかった"。だが王国は、彼の力を着目し、悪逆を働く勇者たちを制御する力になるのではないかと感じ取った」
ここまで聞くと、永戸たちは次に何が言われるのかわかった。
「結果は見ての通りだ、猛犬を世話する飼い主のように彼は王国で踏ん反り返っている。今や彼が王国の勇者たちの司令塔だ」
あの下衆な勇者たちを取り仕切ることなど、まず王国には無理だろう。実際に、桐枝の時は勇者たちが次々と暴走を起こした。
だが今回はアディールというセーフティがあることで、勇者たちの悪しき行為をほとんど制御できている。
ついでに言えば、追放した勇者たちという捌け口を用意することで、悪しき勇者たちの感情をコントロールしようという算段なわけだ。
無能なアリを用意して働きアリの効率を上げるように、実によくできた構図だ。
だが一つ聞きたいことがあった。
「捕らわれた天使たちはどうしてるんだ? 王国側についてるのか? それとも、無理やり働かされてるのか?」
「答えは後者だ、天使たちは、王国と勇者達にいいように使われてる、イリエル様くらいしか、今の俺たちには頼れるお方はいない。彼女は大したことないと言ってるが、あのお方の啓示がなければ、俺たちはまともに生きてられなかった」
まぁ座れと言われ、永戸達は近くにある椅子に座る。永戸の斬られた腕は既に再生しており、能力の弱体化も切れていた。
「あんた、アディールに対抗できる人間なんだろ? イリエル様はそう啓示していた」
「博打にはなるがな」
永戸は腕の感覚を確かめると、勇者の男は彼を見つめる。
『情報解析』
彼の特殊能力か、永戸はジロジロと見られ、見定められる。すると、男は妙な表情をした。
「何もなし? レベル…0? あんた一体何者だ? そこまでの覇気をまとってながら、レベル0だなんてありえない」
「あー…それには事情があるんだ」
以前、健康診断でたまたま組織にあったよくある強ければ強いほど光るステータス開示用水晶に触れたことがある。だが、水晶は光らず、出てきたデータはレベル0の"なにもない"という情報だけだった。恐らくだが、零によって存在が隠蔽され、男のアナライズにもその効果が適用されているのだろう。
永戸は頭をぽりぽりとかくと、ひとまず…と出されてきた茶を飲みつつ考える。
「今後は零による回避も頼りづらくなるな。こんな敵が出てきたとなると」
「私の陽炎も通じない相手が出てくるってことですよね?」
「そうなるな?」
永戸と神癒奈は示し合わすように頷く。今後は能力による回避ではなく、物理的な回避に勤しんだ方が、危険度が減りそうだ。
するとここで、Eフォンに電話が入ってきた。永戸は少し失礼すると電話に出る。
「もしもし?」
【はーっはっはっは! 元気にしてるかな? 永戸君?】
「フェレッタ? 冷やかしの電話ならまた今度にしてくれ、今任務中なんだ」
電話をしてきたのはフェレッタのようだ。相変わらず高笑いしながら永戸と通話する。
【まぁ待て、君に二つニュースを用意してきた。二つともいいニュースだ、どちらから聞きたい?】
「どっち聞いても同じいいニュースでしょうが、それで、いいニュースって?」
【君の機剣リヴァンジェンスだが、新型のⅣが完成した。新型のバージョンには、聖剣との合体時に射撃ができない欠点を補うことと、君の射撃戦での火力を補うために、聖剣と組み合わせることで剣の光波を高出力のビームとして撃ち出す形態が作られた】
「つまり?」
【言うなればビームライフル形態。我々はこれを『バスターマグナムモード』と命名した】
すると、Eフォンに参考のデータが送られてくる。リヴァンジェンスの構造が大きく変わっており、機剣としてより複雑な構造へと変貌していた。そしてイクセリオスとの合体形態が一つ追加されており、長大なバスターライフルの形態が用意されていた。
「それで、二つ目のニュースは?」
【あぁ、試作型ではあるが、君専用の決戦兵器が完成した。最も、開発できたのは、ブレイズエッジⅡ用の弾頭12発だけだがね】
「弾頭?」
【あぁ、君の血液を白銀に混ぜることで、対能力者兵器として高い制圧力と殺傷能力を持つ弾頭。我々はこれを『血清』と名付けた。君が病院のベッドでうなされたのは無駄ではなかったってことだよ】
あの血液検査、無駄にはならなかったんだと永戸はちょっとあの時の看護師をほめたくなった。
【本来なら専用の兵装用の弾頭として用意されるはずだったが、現場での検証実験がしたくてね、実地試験として今回の任務で使ってもらえないかなと】
「リヴァンジェンスⅣと一緒に送ってくれ、いつ送れる?」
【んー、主任の許可が必要だから一日かかる、それでもいいかい?】
「わかった、なる早で頼む」
ブツっと電話を切ると、戻っては話した内容を伝える。すると、フィアネリスが仮説を立てた。
「少し希望が生まれたかもしれません。バスターマグナムモードはマスターの装備で今まで運用されづらかった中、遠距離を支える武器になりますし、何よりその血清、アディールとの戦いで使えるかもしれません」
「どんなふうに使えるんだ?」
「アディールは常に能力のバリアで能力攻撃から守られてます。ですが、通常攻撃である白銀と、能力攻撃である零が組み合わさることで、通常攻撃でバリアを突破しつつ、命中すれば、アディールの肉体に二つの効果で絶大なダメージを与えることができます」
なるほど…と永戸は考える。神癒奈が焔で攻撃した時、確かにアディールに効果はなかった。だが、フィアネリスの武器による直接攻撃は効いた。ならば、銃弾に零の力を込めることで、相手のバリアを突破しつつ、なおかつ白銀と零の能力がアディールに効くだろうと永戸は考えた。
「この戦い、勝ち目はありますよ」
「あぁ、俺たちはまだリングに立ったばっかだ、KOに追い込まれてはない」
永戸は再生した腕を強く握りしめると、アディールとの再戦を強く望んだ。それをみたフィアネリスは、マスターが熱く燃えたぎっていると、心の中でほくそ笑むのだった。




