読まれていた動き
さんさんと雪が降る中、広場に追い込まれた永戸達、勇者達が武器を構えてこちらを見る中、その一団のリーダー、アディールが永戸を見る。
「うんうん、情報通り商人の一団、男一人と女四人だ。そして、その姿が、仮初の物であることも」
パチンとアディールが指を鳴らすと、偽装装備が壊れ、彼らの本当の姿がうつされた。
「なっ…天使に、狐⁉︎」
「こいつら、どっからきた!」
「偽装装備が…お父さん、どうしよう⁉︎」
「ダメだ、下手に動くと、こいつらに何されるか分からない」
永戸は火乃香を守るように立つと、アディールと向き合う。
「っ! その姿! 血のように紅いコートに背中の聖剣…もしや君は…英雄殺しの陽宮永戸! あぁ、なんで偶然なんだろう、君みたいな英雄に会いたかった!」
「…人違いじゃないか? 俺はそんな大層な存在じゃない」
「いいや違わない、君の姿は見たことはなくても、その風貌、間違いなく君は英雄殺しだ! となると、そっちにいる狐は焔月最後の娘である神癒奈で、そっちの天使は全知の天使、フィアネリスか! こんな大英雄に会えるとは!」
自分たちの正体を知られていることに、永戸は動揺する。四課の存在は基本知られないはずだ。それを、ポッと出の勇者が知るはずがないと思っていた。だが、勇者はこう告げる。
「なぜ君たちの事を知ってるか? 気になってるようだね、異世界特別調査隊四課は影の部隊、知られるはずがないと。でも君たちの活躍は、文章として語り継がれたんだよ、地球の、小説サイトで!」
それを聞いたフィアネリスはハッと声を上げた。もしや……とフィアネリスは仮説を立てる。
「まさか……私の書いた日記、『ヒトとキツネの異世界黙示録』を、地球で読まれていたと⁉︎」
「そのまさかさ! フィアネリス、君の書いた日記を、みさせてもらったんだ! 僕はそのファンでね、君の小説を何度も何度も読み返したものさ!」
フィアネリスはその仮説が正しかったと確認すると、アディールは彼らに手を伸ばした。
「本来であれば反逆者には相応の罰を与える必要がある、しかし君達は別だ。来賓として最高級のおもてなしをする事を約束しよう、どうだ? 僕達と共に、世界の為に戦わないか?」
アディールがそう提案するも、永戸は笑った。
「悪いな、俺達も任務なんでね、その提案は受け入れられない」
「そうか、残念だ、なら惜しいけど、英雄殺しの伝説を、ここで終わらせよう!」
そうすると、アディールは背中から聖剣を抜くと、永戸に切り掛かった。永戸はそれを零で避け……。
「とらえた」
「っ⁉︎」
避けたはずが、片腕が切り飛ばされた。零は確かに発動したはず、なのに何故、攻撃が命中したか、アディールはくくくと笑いながらいう。
「君達の能力については隅々まで知っている。特に永戸、君の零の能力のギミックについては。この世界から存在をズラし、時空の裏側に逃げる。実に凝った能力だ。だけど僕に与えられた能力もまた特別でね、僕の能力は"能力者殺し"、君の零と同じく、対能力者用に賜った力さ!」
永戸は失った手を抑えると。能力の分析をする。体に力が入らない、立つことすら難しいかのように体が重く感じた。
「力を開示するとは二流のする事だな、名前からして、ただの能力を使えなくする力じゃないな、俺の力が、ほとんどなくなっている。零と同様、いや零以上に相手の力を削ぐ能力か」
「そうとも! 君のような英雄に憧れた僕に与えられたとっておきの能力さ!」
はははとアディールは笑う。成る程、勇者筆頭と呼ばれるだけあって能力もチート級だ、恐らくだが身体強化もあるだろう。先ほどの一撃は重く感じた。
永戸は片腕で聖剣を構えようとするも、その時、更なる違和感に気付く。
(聖剣の魔力回路に接続できない?)
どうやら先程の能力者殺しはアイテムにも適用されるらしい、聖剣イクセリオスから反応が無くなっていた。光を失うイクセリオスに、永戸は狼狽える、その隙をつかれ、アディールは永戸に切り掛かる。永戸は地面に剣を突き立て、受け止めるが、押された。
「永戸さんから離れて!」
神癒奈が焔を放つも、アディールからバリアのようなものが発せられ、焔が防がれた。
「効いてない⁉︎」
「ただ能力者を殺すだけじゃないさ、能力に対する自動防衛能力も備わっている! 君たちが僕に真正面から挑んだって不可能さ!」
「果たしてそれは本当でしょうか?」
フィアネリスが波動砲を撃つと、アディールは避けた。
「危ない、能力は防げても通常武器による攻撃までは防げないからね」
そうしてアディールは剣を構え直す。永戸も身構えるが、ここでフィアネリスから伝えられる。
「マスター、現状の戦力では相手に対抗する手段がございません、ここはどうにかして撤退する事を提案します」
「何か案はあるか?」
「……もう少しだと思うのですが」
フィアネリスが時計を見て、そろそろだと口にする。すると、別方向から勇者達が走ってきた。
「敵の増援か⁉︎」
「いいえ、あれは…」
フィアネリスが言いかけた時、やってきた勇者達はアディールの傘下の勇者達と争い始めた。
「これは、仲間割れ?」
「あちらは王国側ではなく、イリエル側の勇者です、言うならば、レジスタンス」
イリエル側の勇者が奮戦するが、やはり戦力差があるのか、王国側の方が強く思えた。
「お前達無事か! ここは一旦引くぞ! イリエル様の啓示だ!」
やってきた勇者の男に言われるがまま永戸達は走っていく。永戸は時々転びそうになるが、その度に神癒奈に支えてもらっては走った。
王国のあちこちで勇者同士が戦っているらしく、乱戦の中を永戸達は走る。
「逃げられる場所があるのか⁉︎」
「あぁ! 俺達見捨てられた勇者達は大人しくしているように見えてイリエル様の啓示の下、水面下で戦う準備をしてきた! だが、戦おうにもアディールとその傘下が強く、俺たちじゃ歯が立たない状態が続いてきた。そこで助けを求めてお前達がやってきたんだ!」
男は路地を次々と通りながら、永戸達を導いていく。しばらく進むと、行き止まりになった。
「なにもないじゃん! 逃げてるんじゃなかったの⁉︎」
「焦る気持ちはわかる! だが安心してくれ」
アンフェリアの不安を抑え、男は路地の壁の石を、特定の箇所だけ押し込んだ。すると魔法陣が起動し、転移ゲートが作られる。
「隠しゲートですか!」
「この中に入れ! 長くは持たん!」
そうして永戸達が入り込むと、男も中に入った。中に入るとそこは、薄暗い下水道の中だった。
「ここは?」
「王都の各地につながる隠し転移ゲートのたまり場さ、心配せずとも、術師による高度な偽装魔法で存在は隠されてる」
それで安心したいところだが、不安な要素があった。
「でもあのアディール達は、私たちの偽装を見抜いてきましたよ?」
「奴らが見抜いたんじゃない、奴らに操られる天使が見抜いたんだ」
下水道を歩く中で、永戸達は聞きたい事を聞いた。
「…王国側に支配された天使達か?」
「そうだ、どうやら向こうの天使は、こちらの啓示をジャックしたらしい。お前たちが来るのが、筒抜けにされてたようだ」
男はまた壁の前に立ち止まると、再び石を押し込んだ。そうすると、また転移ゲートが現れる。
「ここに入れ、ここならお前達は誰にも気づかれない」
言われた通りに中に入ると、そこには、多くの勇者達が行き交い、王国の動きを探っていたのだった。




