排他された勇者達
「天使…なんだよな?」
永戸が大丈夫かと確認する。イリエルの姿はボロボロで、フィアネリスやアンフェリア、もっと言えば都市で見かける天使達のようないきいきとした姿ではなかった。
「はい、ボク一応天使です……最も、場末の天界からやってきた、肩書きだけの半人前ですけど」
「場末の天界?」
聞きなれない単語に永戸は首を傾げる。すると神癒奈がこう耳打ちした。
「この前攻めてきたマイルズみたいに、別の天界からやってきた者、そう言いたいんじゃないですか?」
「はい、女神様の言う通りです。貴方が何の女神かは分かりませんが、貴方からすごい神のオーラを感じます」
神癒奈のことも知らないとなると、余程末端の天界から来たのだろう、イリエルは恐れ多そうに頭を下げる。
「今回貴方達に依頼した内容、聞いてましたか?」
「いやそれが…この吹雪の影響か助けてほしいとまでしか伝わってない」
「あぁ、ごめんなさい、ボクの神力が弱いせいで…」
成る程、依頼を送ってきたのはイリエルだったのかと、永戸達は思う。そう言うわけで永戸はフィアネリスに助けを求める。フィアネリスはこう答えた。
「確かに、イリエルさんから感じられる神力は、一般的な天使より少なく感じます。肉体の剛性なども基準を満たしておらず、天使用装備の使用は不可能かと」
「はい、ボクもゼウス様の天界の天使達みたいに、かっこいい武器が欲しかったです、ですが持てたのはこの鉄の剣くらいで…」
そうして見せたのは、ちょっと凍った鉄の剣だった。
「で? それで、依頼って何?」
これでは話が進まないと、アンフェリアは依頼を聞いた。
その質問に答えるように、イリエルは依頼概要を話し始める。
「はい、ボク達からの頼みはこの城より遥か南にある王国にて、横暴を働いている王族と勇者達を止めてください」
「ここより?」
『遥か南???』
せっかくここまで来たのに次の目的地が知らされていよいよ地獄の旅本番かと焦る永戸達、だがイリエルは否定した。
「ああいえ! 王国まではボクが転移で送るので大丈夫です…事情を説明しますね。今この城には、大勢の勇者達がいます。彼らは日々、互いに協力しながらこの極寒の地で生き延びてきました」
「じゃあそもそも何でそんな所に?」
火乃香の質問に、イリエルは答える。
「彼らは度重なる異世界転生を繰り返して送られてきた勇者で、王国からすれば、無能と烙印を押された追放者達なのです」
「追放系か…にしては、多くないか?」
いつの間にか広間には大勢の勇者達が集まっていた。皆イリエルと永戸達を中心に囲んでは見つめてきていた。
「彼らは、王国が早まって行った悪質な粗製濫造によって召喚された勇者達、能力も中途半端な物ばかりが与えられたのです」
「何故こんなたくさんの勇者を呼んだんだ?」
「…魔王軍との全面戦争が表向きの目的です」
あー、これ桐枝の時と同じだと、いつもの人狐天使のトリオは三人とも思った。表向きは魔王討伐、裏では他国への侵略。その為に王国は低質な召喚を大量に行なったと、筋書きではそうなる。
問題として、一に、召喚に使用された方法次第では、大戦時のように維持コストが莫大にかかるのと、ニに、悪質な召喚の為、能力に差が出るだけでなく、性格まで歪み始める可能性があった。
だが今回のケースは前回とは異なる、まず第一に目の前に天界からの使者がいること、次にこの大量の勇者達が追放されていることが挙げられる。
ここに追放されたのは、概ね誰も開拓しない僻地だからだろう。だがもう一つの異なる要素は気になった。
「イリエル、じゃあお前は、何でこんな所にいるんだ?」
「王国は、勇者召喚と同時に、天界から五人の天使を召喚しました。元々は、勇者達のお目付役としてボク達は呼ばれたのですが、勇者召喚に穴があると分かった途端、他の四人は王国で縛られて、勇者達のいいように扱われ、国の為にと働かされました」
「ならイリエルは何故ここにいるんだ?」
「他の天使に助けられ、ボクだけが逃げ仰ることができました。半端者の…ボクだけが…」
するとイリエルは俯く。所謂サバイバーズギルトという奴か、彼女はここにいることに、申し訳なく思っていた。
「ここにいる人たちの暮らしは、ボクがずっと支えてきました。こうやって、神の啓示を使って…」
どこぞの映画会社みたいに手を突き上げると、指先を光らせる。すると、何か受信したのか、彼女は言った。
「えっ……この人たちを、信用して、いい? それと、謝罪をさせてほしい?」
「っ? どういうことです?」
「私の神様、場末の天界でもかなり隅っこにいた神様なのですが、貴方達にお願いと謝罪をさせてほしいと」
イリエルがオドオドした様子から一転、落ち着いた感じになると、彼女は啓示を告げた。
「まずは貴方達に謝罪させてください。この間違った転生は、元々は私の不注意によって起こされた物でした。末端の天界では、人員が少なく、同時に、本家の天界と同じ量の仕事が舞い込んできます。毎日毎日大量の仕事をかたづけても神と天使達は、仕事を押し付けられます」
それを聞くと、マイルズが下剋上をしたくなる理由が、何となく皆理解できた。(末端の天界、ブラック職場だったんだ…)と…。
「そして、疲れが限界に溜まっていた私は、この世界の大量召喚に気付かず間違って大量に転生させてしまったのです」
(そんな、商品の大量誤発注みたいな)
全員が同じことを口に仕掛ける。だがこう謝罪されては何とも言い難い。イリエルは話を続けた。
「私は、転生した皆を警戒すべく、五人の天使を送り込みました。必要とあらば私の啓示を頼りに、勇者を導くようにと、ですが…私の考えが甘かったようです。天使達は囚われ、勇者達に使われる身になり、その力は堕ちてしまいました。勇者達も、頭の悪い素行不良な者が力を得ては台頭し、王の下で好きに動くようになりました。どうにもできなくなった私は、最後に残った天使、イリエルを通じて、貴方達に助けを求めたのです」
事情は分かった。要するにこれは神様直々に尻拭いを永戸達に任せてきた、と言うことだ。おそらく今のイリエルは啓示を話している状態、こちらから話しても言葉は通じないだろう。だがそれでもと、永戸は言葉を発した。
「分かった、俺たちが、それを引き受けよう」
「どうかよろしくお願いします……異邦の戦士達……」
そう告げると、啓示は終わったのか、イリエルはまたオドオドし始める。
「あの…えっと、どうでしたか?」
「仕事、引き受けるよ、あとは俺たちに任せておけ」
「本当ですか! お願いします!」
というわけで永戸達は、イリエルの頼みを受け、王国側に向かうのだった…。




