雪、氷、極寒の地にて…
ホワイトアウトしそうな雪の景色の中、全身厚着をした者達が歩く…。
ここは極寒の雪の地、遠くには氷河が見え、肌を突き刺す寒い空気は一団の気力を削ぐ。
「なんで…こんなところで仕事あるんですか⁉︎ センパイ!」
凍りついた羽を定期的に振っては氷を落とすと、一人の天使が言う。
「し、仕方がないでしょう? 依頼があるならどこへでも出張するのが我々四課流ですから!」
もう一人の天使も、体を震わせながら歩く。
「寒い寒いと思うから寒いんだよ! 寒くないって思えば…やっぱクソ寒いよ!」
一団の前を歩く男は、一番分厚い服を着て歩く。普段からコートを着込んでいる彼だが、今はより着込み、寒さに耐えていた。
「そんなに寒いですか? まぁ確かにちょっと寒いとは思いますけど」
「お母さん、お父さん達はお母さんと違って寒さに弱いんだよ? フィーネだって震えてるもん」
そんな中二人の狐は、いつもよりちょっと着込む程度で歩いていた。あまり寒くないのか、ほっと一息をつくと、白い息が出る事に、少し楽しさを覚える。
そんな一団がなぜこんなところに来る事になったのか、時は少し前に遡る。
ーーー
「というわけで、これが君たちの新しいオフィスだ」
新しくなった四課のオフィスは、以前よりさらに広々としたオフィスだった。第二支部のメンバーや、火乃香やアンフェリア達を迎えてもなお、広さを誇る広々とした空間が用意された。武器庫も給湯室も備わっていて、オマケにちょっとくつろげるソファーと椅子まで用意された。
「おー! これがフロー達のにゅーわーきんぐすぺーすでありますな⁉︎」
フローレアがソファーでゴロゴロしながら喜ぶ様を皆で見る。
「ここまで来るといっぱしの部隊だな…」
「あぁ、英雄達の活躍のおかげだ」
クレスとランジーはそれぞれの椅子に座ると、コーヒーをいただく。
「パソコンも新しいのに変わってますね」
「気遣いか他の課の差し入れまである」
「椅子も前よりふかふか、心地いいな」
メルトはパソコンをカタカタと弄り、南雲は差し入れの飴を取っては舐め、煉禍は椅子に座り込む。第二支部メンバーが満喫する中、ユリウスはさて、と早速仕事の話をする。
「では、本日届いた依頼を頼む事にしよう、本日の依頼はここの異世界において、転生、並びに転移した勇者達の活動が活発化している、その調査に赴いてほしい」
「またろくでもない依頼ですね? 課長、その勇者達がまた問題を起こしたのですか?」
永戸はオフィスは変わってもまたいつもの汚れ仕事かと「やれやれまた自分の出番か」と重い腰を上げる。
だがユリウスからは意外な言葉が出た。
「"半分は"そうだね」
「半分? 桐枝の時みたいな"全員"ではなく?」
不思議に思った永戸が聞き返す。
いつもなら「この勇者が問題を起こしている殺してこい」で済むが、今回は集団という例だけでなく、明確に"半分"と定義された。
「うむ、それが、現地の勇者達から直接依頼が来てね、我々に助けてほしいとコールが来た」
「勇者達からの依頼?」
これまた珍しい。勇者が問題を起こしているならともかく、勇者に助けを求められるのは珍しい例だった。
「それで? その内容は?」
「それが…現地の気象の影響か、助けてほしいまでしか受信できなかった。イストリアのない世界ゆえにね」
「…ちなみにその場所ってどこです?」
永戸が嫌な予感を感じとり聞くが、ユリウスが次言った言葉で、永戸達は文字通り凍りつくこととなる。
「北極圏、だーれも開拓しようとしない僻地から来た」
ーーー
というわけで現在、彼らは北極圏を彷徨う事になっていた。
「冷てぇえええ! 吹雪だぁあああ!」
永戸が突然狂ったように叫ぶ。
「かぁさぁあああん! ぼぉくはいま北極圏にいまぁあああす! 北極圏は! 今日も吹雪でぇえええす!」
寒さでとうとう狂ったのかと神癒奈が心配になる中、永戸は寒さに耐えながら歩く。
「気が済みましたか?」
「気が済んだよ」
永戸が寒さに耐える姿に、フィアネリスも涙を禁じ得ない、だがここで涙を流すと涙まで凍りつく。正真正銘の凍てつく大地にいた。
「本当にこんなところに勇者がいるのかよ! もう帰りたい!」
永戸があまりの寒さにギブアップしたがるも、仕事だから許されはしない、と、その時だった。
「前見てください! 何か建物のようなものが見えますよ!」
一同はその方へ必死に歩き出す。そうして進んでいくと、ちょっとした大きな城が見えたのだった。
「こんな所に…」
「お城?」
あまりの場違いさに二人はきょとんとする。城の門はしまっていて、開けられそうにもなかった。
ひとまず永戸はどんどんと勢いよくノックする。
「そこに誰かいるかー⁉︎」
永戸が叫んでも、悲しいかな吹雪の音でそれが掻き消えてしまう。だが、反応はあったのか、ガチャリと門の鍵が開けられ、中から男の人が出てきた。
「君達は?」
「い、いいいイストリア異世界特別調査隊四課の者だ! 勇者達からの依頼を受けてここにきたが何か知っているか?」
震えながら永戸は手帳を見せる。するとその者は顔を明るくすると永戸達を手招きした。
「イストリアの人だ! よく来てくれました! この僻地の吹雪は寒かったでしょう! どうぞ中へ!」
「本当に⁉︎ 助かったぁ!」
どうやら依頼主達のいる場所だったようで、永戸達は寒さから逃げるべく、駆け込むように城の中へ入ったのだった。
城の中は石造りであるにもかかわらず、各所で焚き火がされており、寒さは和らいだ。
「まずはスープでも飲んで、体を温めてください」
「た、たすかる……」
永戸達はスープを受け取ると、少しずつ飲んだ。味は薄いが、まろやかな風味で、親しみやすい味をしたスープだ。
「…なぜこのような所に住んでいらっしゃるのですか?」
まず出てきた質問がそれだった。フィアネリスもこの寒さには応えたのか、因縁をつけるように聞いた。
「それは……ひとまず、天使様を呼んでくるので、少々お待ちを」
そう言うと、男は城の奥へと行ってしまった。
「流石に寒そうですし、もう少し温めてあげますよ、『狐火』」
『はぁ…温まる…』
ぽっぽっと狐の焔が現れると、永戸やフィアネリス、アンフェリアの前まで行っては彼らを温めた。外は相変わらず吹雪が横薙ぎに吹いているが、今この場では暖かく落ち着けそうだった。
すると、男は先ほど言っていた天使を連れてやってきた…が、その天使の姿は、彼らの予想とははるかに違っていた。
「貴方達が、ええと……私達を助けにきてくれたイストリアの方々なのですね? ボクはイリエル。ここの勇者達の啓示を担当しています……」
その天使の姿は、フィアネリス達とは違う、とても見窄らしい格好をした天使なのだった。




