天界よりの奇襲
突如響いた轟音に、ビルに大穴があき、四課のオフィスはボロボロになる。頭を下げていた四課の者達は顔を上げると、先ほどまで生きていた粛清騎士の首から上が見事に潰れていて、死んでいた。
ここまで損傷が酷いとオーバードーズによる蘇生も不可だろう。
では、いったい誰がやったかと、その場にいた彼らは全員で振り返る。そこには、雄々しき体をした、褐色の六本腕の女神がビルの外で浮かんでいた。
「アァ? 死んだのはゲロりそうになった裏切り者だけか? クソつまらねぇ、キツネどももまとめて死んどけばいいものを」
「……貴方は?」
神癒奈が警戒心全開で尻尾の毛を逆立てながら、目の前に立つ存在に聞く。同時に、彼女は後ろに回した手で指示を出し、四課のメンバーを逃がした。
「ほーう? 自分だけ残って他を逃がす気か? 随分と高潔な事だな、全能神サマ?」
考えていた事が読まれていた。だがどうやら、四課のメンバーは逃がしてくれるらしくユリウス達は簡単に逃げられた。だが…。
「おっと、キツネども、テメーらはダメだ、テメーらはここで死ぬんだからな」
「ひっ!」
「……お主、ただの神ではないな、何奴じゃ?」
衝撃波を真横に受け、火乃香は泡を吹いてたおれそうになるが、たまたま残っていたフィアネリスに支えられる。奴から感じられるただならぬ気配に、玉藻前は威嚇の構えを取った。
「死ぬ奴に語って何になる、オレはそんな手間かけんのだりぃんだよ」
「マイルズ、狩の女神、それが、奴の名前と与えられた権能です」
「ア? 誰だテメェ」
名前と権能を言われ、目の前の女神、マイルズがフィアネリスにガンを飛ばす。だがフィアネリスは火乃香を支えながらも落ち着いて前に立ち、神癒奈を守る。
「では僭越ながら自己紹介を、私の名は…」
「うるせぇ、黙っとけ」
マイルズから更に衝撃波が飛ばされてくるが、フィアネリスはそれを盾で防いだ。だが、今の一撃で、盾を持っていた左腕がひずみ、血が垂れる。
「ぁっ…フィーネ!」
目を覚ました火乃香が心配するが、フィアネリスは冷や汗を垂らしながら答える。
「熾の天使、フィアネリスでございます」
片腕を垂らしながら残った手でスカートをつまみ上げると礼をする。するとマイルズは言った。
「ア? あーあーテメーアレか、ラグナロクプロジェクトで作られた欠陥品の決戦兵器か、オレの攻撃を防ぐたぁ大した体してやがるな、だが次は待つか?」
しつこく衝撃波が放たれる。流石にフィアネリスは今度は防げないと思った。だが次の瞬間、神癒奈と玉藻前が前に出ては境界線の停止の力場を同時に発生させ防いだ。
「チッ……獣が。狩人を前にして牙を立てるんじゃねぇ、獣なら獣らしく、ドタマぶち抜かれてればいいんだ」
「さっきから狐だの獣だの、私達のこと名前で呼んでくれないじゃないですか」
「獣の名前なんざ獣で十分だ、まぁ、一羽手負いの鳥が混ざってはいるが、テメーらの名前なんざ覚えなくてもいいね」
そう言うと、彼女は手を挙げた、すると、空から大量の天使達が武器を持っては降りて来た。
「あれは、汎用量産型の『ストライクボマー』です、天界では旧式の装備なのでごく一部のエリートの天使しか使用してませんが、それがなぜあんなに?」
「知らねーのも無理はねーよな? オレはテメーらとは違う天界、ゼウス様の管轄ではない末端の天界にいたものだからよ?」
「別の……天界?」
神癒奈は他に天界があった事に驚く。その表情を見るとマイルズは苛立たしい表情を見せた。
「なんだぁそのツラ? ゼウス様の庇護下でぬくぬく育った獣は知らねぇのか、オレ達は、ゼウス様からの助けが得られず、それでも世界を必死に管理してきた鼻つまみ者さ」
皮肉るかのように鼻で笑いながら、マイルズは言う。それに神癒奈は叫んだ。
「それなら一体、何が目的で私を襲うんですか!」
「決まってんだろ、下剋上だ」
「下剋上?」
「わかんねーのか?狩の女神が、全能の獣の神を殺せば、それだけ力があると証明される、そうすりゃゼウス様もオレを認めて直轄の天界に呼んでくれるってわけさ」
狂っていると、神癒奈は思った。そんなことを仮にしたとして、ゼウスの怒りを買わないではないのかと。だが、その意図を読んだかのようにマイルズは続けて言った。
「下剋上だと、そう言ったよな? オレはテメーを殺してゼウス様のいる天界に舞い戻ったら、今度はゼウス様を殺して権能を手に入れ、神の座に座って天界を極楽気分で眺めるんだ」
「なっ……⁉︎」
彼女がやろうとしていること、それは、天界への反逆行為であると、神癒奈は思う。そんな真似がもしバレたら、天界を追放どころではすまない、神格の剥奪、最悪地獄送りだ。だがマイルズは恐れるものがないような表情をした。
「アー? こりゃわかってねーな? しゃーねぇ、特別に教えてやるよ、オレはな、かつて天界から末端まで追放された、魔神だよ」
「魔神…!」
そう聞くと、神癒奈は警戒態勢を取る。ここでフィアネリスが一言添えた。
「魔神とはまた、難儀な存在ですね…そんなのが、神の座を狙っているのいうのですか?」
フィアネリスがそう言った途端、彼女はちらりと、盾を持った片腕を神癒奈に見せた。ナノマシンによる再生が既に終わっている。神癒奈は頷きはしないが、言いたいことを察して無言で目線を戻した。
「ならば、貴方をここで止めます。私たちは獣じゃない、狩人です」
「どー見たって獣だろ、笑わせる。ふん、まーいい、どっちにしろ、殺せば全て解決する。まずはそうだな、一番前のテメーからだ!」
そう言ってマイルズは、"一番後ろ"の火乃香を狙って、衝撃波を放った。さっきの衝撃波とは違う、鋭く、速い衝撃波だ、見てからでは間に合わない。神癒奈はしまったと思い、火乃香の方に振り向く。
衝撃波が激突し、煙が舞うが、少し経つと、煙が晴れ、無傷の火乃香が現れる
「何?」
「ほう、言葉で嘘をついて、無邪気でか弱い存在を狙うか、狩の女神とか言ったかえ?その権能を持つ女神にしては、随分と姑息な手を取るのう?」
「玉藻様!」
なんと、火乃香への攻撃は、玉藻前が一人で防いでみせた。鉄扇を二枚重ねて、盾のように使うと、境界線の力も使用して、単独で衝撃波を防ぐ。
「妾もこのご時世、さぶかるちゃあとやらを嗜むようになってのう、何じゃったかのう、ほれ、チェンソーの男が悪魔を狩る漫画でこんな言葉を知ったんじゃ、獣が狩人の言葉を信じるなと」
玉藻前から溢れ出る妖気に、神癒奈はいつもの玉藻前とは似て違う物を感じ取る。いつもなら神癒奈からの魔力供給をあまりしない省エネの子供姿だ、だが、今神癒奈の体から魔力が彼女に向けて供給が行われていた。そして、彼女の姿をしっかりと見て、確信した。
「こんな言葉もあったのう、追い込まれた狐はじゃっかるより凶暴じゃと、ならば、獣なら獣らしく、最後まで抗わせてもらおう、行くぞ、魔の女神よ」
そこに立っていたのは全盛期と同じ姿の、神癒奈とよく似た姿をした玉藻前だった。




