山積みの宿題
「お二方……学園生活初日、大層楽しんだようですね?」
ゴゴゴゴとニコニコ笑顔のフィアネリスが二人に迫る。土下座させられた二人は今、学校で授業を受けずにサボっていたことをフィアネリスに詰められていた。
「やばいよフィーネめっちゃ怒ってる」
「あーこれガチなやつだ、センパイの笑顔気味悪いしなぁ」
「二人とも、聞こえてますよ?」
『ひゃいっ!』
二人して萌えキャラみたいな声を上げては、弁明する。
「いや、これは違くて……お日様がポカポカしてたから、のんびりしちゃって」
「授業の内容、覚えてますか?」
「な、なんだったかなー! 夢の中では勉強してたの!」
「そうですかそうですか」
火乃香が汗ダラダラでそう答える。チラリと目線を横に向けると、アンフェリアも冷や汗をかいていた。
「あたしも、授業は聞いてたから…」
「ならば今日習った数学の公式言えますよね?」
「そっそれは……ええと、なんだったっけ」
こちらも息が詰まる。それをニコニコとした表情で眺めるフィアネリス。しかしよく見ると青筋が立っていて下手なことを言うと何されるかわからない状況であることを知る。この顔のフィアネリスはまずいことを火乃香とアンフェリアは知っていた。
「はぁ、お二方の成長を促そうとしたのですが、これでは全くダメですね、仕方がありません、私も心を鬼にしますか」
するとフィアネリスは二人の前に山積みの紙を出した。
「この紙に書かれたことを一週間以内に勉強してください、職務中に触れることも許しますので
「ごめんなさいー!」
「…ウス」
火乃香が泣き出し、アンフェリアも沈黙する。
二人はそういうわけで宿題をすることになったのだった。
「この問題は……ここの公式に当てはめるんだよね?」
「適当に書いて提出しちゃおう?」
「お二方? 真面目にやらないと宿題を倍に増やしますからね?」
『…ひゃい』
フィアネリスに指導される中、二人は宿題を進めていく。一方で、永戸達は書類仕事をしながらそれを見ていた。
「学生生活とか、青春だなぁ」
「永戸さんは学校は行ったことあるのですか?」
「俺はまぁ、転生先で孤児院で学習してたな」
「孤児院って、そう言えば永戸さんって転生した当時どんな暮らしをしてたんですか?」
「言ってなかったっけ?」
永戸はコーヒーを一飲みすると、神癒奈に答えた。
「大戦が始まるまでは孤児院で暮らしてた、福利厚生がしっかりした孤児院でね、毎日美味しいご飯が食べれて、しっかり勉強ができて、遊べた生活を送ってた。けど大戦が始まると徴兵され、少年兵として戦い、功績が認められて404へ移籍、そっからはみんな知っての通りさ」
ほーっと神癒奈は永戸の経歴を知る。
「渚さんとは一緒じゃなかったんですよね?」
「あぁ、あいつも孤児院暮らしだったらしいが、俺とは別々の世界で暮らしてたらしい。イストリアができてからは俺はミズガルズに移住し、仕事に追われる毎日を送ったってわけ」
「四課の創立メンバーですもんね?最初は課長とフィアネリスさんと三人だったんですか?」
「あぁ、当時はまだ課の活動方針も定まってなくて、ボランティアとかも大戦の後片付けの手伝いや募金くらいしかできることはなかった。ライやコリー、エイルと人が集まってから、俺たちはようやく四課として始動し始めたのさ」
三人だけから始まるとは、よほど人員に恵まれなかったのだろうと神癒奈は考える。だが気になることがあった。
「他に404から抜擢されたメンバーはいなかったのですか?」
「いないさ、ケイが死んでから、404そのものは歴史の表舞台から退場、実質解散して、残った課長とフィーネと俺だけがチームを組んで残党として戦ったようなものだからな」
「404の他の人たちは今どうしてるんですか?」
「死んだ奴もいれば、結婚して家庭を作った奴もいる。ジェフリーさんだって闇ギルドのナハトヴォルフ作って暮らしてるし、四課に来るやつなんているわけかなかったんだよ、戦争が終わった後もなお戦い続ける変なやつなんて俺たちくらいしかなかった」
それを聞いて神癒奈は納得した。確かに言われてみれば、戦争を終えてそれでもなお戦いを続けたがる人など狂人の領域だろうと。
だが四課が、イストリアが生まれたのはもう二度とあのような大戦が起こらないようにするため、そう考えると今なお戦っている永戸がかっこよく思えた。
「本当に英雄なんですね、永戸さんは」
「まぁな」
永戸は自慢げに誇る中、宿題は続く。
「センパイ、仕事に戻りたいんで答え教えてくださいよ」
「遠回しにこの量の宿題を回避しようとしてますね、ダメです♪」
「ねー、フィーネ、おねがーい」
「ダメなものはダメです」
くそ、この天使手強いと火乃香とアンフェリアは思う。教科書と宿題の用紙を何度も目線を往復しながら、二人は問題を解いていく。結局その日は宿題は全部終わらず、休みの日を使ってまで、宿題を終わらせる羽目になるのだった。
ーーー
そんなある日の休み。アンフェリアのバイト先だったギルド、『エルデバの酒場』にて、火乃香とアンフェリアは宿題をする。
「アン、宿題は順調?」
「全然、勉強なんてしたことないから、問題を解くのが難しい」
先輩のギルド受付嬢からそう言われながら、アンフェリアは問題を解く。
「しかし意外だなぁ。アンがここを辞めてイストリアに入るだなんて、しかも華の特査に」
「どっちみちここへは冒険者としてきてるから、今までと変わらないよ、先輩、それに特査と言ったって、あたしまだ仕事全然してないし、マジ椅子に座ってるだけなんで、だからこうやって二人で勉強に来ました」
コーヒーとお茶を頂きながら、周りの喧騒を無視しつつ、二人は勉強に励む。
「勉強しに来て偉い、ギルドマスターのエルデバさんも喜ぶと思うよ」
「そういやギルマスは?」
「今日は来てない、来てたら笑われてただろうね」
「やめてくださいよ先輩、こんな姿ギルマスには見せられないんで」
そんな会話をするがら火乃香はふと気になったことを聞いた。
「ここって冒険者ギルドでしょ? なんで私達ここで勉強してるの?」
「ここはあたしの元バ先、ギルドだけど見ての通り隣は酒場で飲めるし縁があるから来たの、ここのステーキ超美味しいから」
「私はいいけどアンお金ないんじゃ?」
「クーポン持ってるから食べれるよ」
そう言ってると、ステーキが運ばれてくる。
「はい、お待ちかねのステーキ、オマケにポテトもつけておいたよ、ポテトはタダにしておくから」
「ありがとう、先輩」
「ありがとうございます!」
そうして二人は勉強を一時やめ、ステーキにがっつく。
「美味しい!」
「でしょ、ここのステーキ、SNS映えもするんだ」
(のんきなものですねぇ)
二人が勉強を休憩してステーキにがっつくのを、フィアネリスは映像で眺める。だが、二人が楽しそうならいいかと、二人の勉強をそのまま見守るのだった。




