エレメント
片翼が破損したアンフェリアと、フィアネリスが天界へと帰還する。カタパルトデッキが変形し、着陸体勢になると、フィアネリスは武装デバイスを解除し、二人で降り立ったのだった。
「医療班! すぐに治療を!」
がくりと崩れるアンフェリアをフィアネリスが支えて、医療班が止血帯を持ってくると、すぐにアンフェリアの損傷した翼に巻く。
「……あたし、生きてる?」
「何バカなこと言ってるんですか、生きてますよ」
輸血パックに回復薬も使用され、アンフェリアのバイタルは回復する。
「そっか…」
彼女はほっとすると武装を解除し、近くの壁にもたれかかって座っては、回復を待つ。その間、フィアネリスは外に行くと、ジュースを持ってはやってくる。
「はい、これ」
「えっ?」
「帰ったら奢ると約束したでしょう? 約束のジュースですよ」
「あぁ、そか…ありがと……」
そう言ってはアンフェリアは瓶の蓋を開け、ジュースを飲む。すると口の中に芳醇なリンゴの味が広がった。
「なにこれうまっ、どこで買ったのこれ」
「近くの売店です、エデンの園で採れたリンゴの果実が使われてるのですよ、希少ですので通常より高価です、よく味わって飲んでください」
「ふぅん……」
アンフェリアはごくごくとリンゴジュースを飲む。エデンの園と言えば、プロジェクトエデンの名前の元となった楽園の名前で、かつてフィアネリスが守護していた場所だ。
「あの場所のリンゴはとても美味しくてですね、昔は友達と一緒に時々盗み食いをしたものですよ」
「それ職務違反じゃ…」
「バレなかったので時効です」
フィアネリスは笑いながらリンゴジュースを飲む。すると、アンフェリアがこんなことを言い出した。
「これから、あんな奴らと戦うの?」
「えぇ、そうですね、怖くなりましたか?」
「うん、まぁ…」
以前自分がした質問に正直に答えるアンフェリア、だがフィアネリスは先ほどの戦闘の映像の記録を見返すと、彼女に言った。
「ですが、初戦で二体撃墜はツイてますね、しかも片翼を失った状態での帰還、これには装備にトレードマークを描かねばなりませんね」
「トレードマーク?」
「えぇ、貴方のそのオレンジの髪に合わせて、今回の戦闘で失った翼の方をオレンジ色を塗るのですよ、似合うでしょう?」
「それは…確かに、そうだけど」
アンフェリアは恥ずかしそうにしながら答える。フィアネリスはそれに笑顔で言った。
「先程ミカエルの部屋の前を通ったのですが、こんな話を耳にしました。貴方を私のエレメントに正式に迎えると」
「それってつまり?」
「貴方は私の後ろを飛ぶ存在、二番機を任されたということです」
「ファーストの後ろを……」
そう聞くとアンフェリアは、どこか嬉しくなった。自分を見捨てた天界が、初めて自分を認めてくれたことに。
「これからよろしくお願いしますね、"アン"」
「アンって、あたしのあだ名…どうして?」
「貴方がギルドでバイトしてた時、聞いてました」
「やっぱファーストと一緒はやだ」
そんなぁとフィアネリスがしくしくとなく素振りをする。だがそこで、でもと、アンフェリアは言った。
「でも……一人で戦うことより、あんたの背中についてくことなら、できそうかも、その方が、生き残れそうだし」
「……素直じゃない後輩ですねぇ」
「どうとでも言ってくださいよ、"センパイ"」
今、アンフェリアが初めてフィアネリスの事を先輩と呼んだ。そのことにフィアネリスは嬉しく思うと、彼女にもう一度聞く。
「んー?聴覚の故障でしょうか、耳が遠くなりましたね、もう一度聞かせてください、アーン?」
「あーうざいうざい、そう言うだる絡みはいいんで」
自然と、アンフェリアの口調も、優しくなっていた。
「改めて、あたしはアンフェリア、あんたとは違う、アンフェアと皮肉を込めてつけた名前、よろしく、センパイ」
「こちらこそ、よろしくお願いしますね、アン」
そうして二人は、互いに認め合い、ペアを組んで戦うことが決まったのだった…。
「所で、貴方の受け入れ先を用意しなければなりませんね? 後日四課に席を空けておきますので来てください」
「…はい?」
ーーー
後日……。
「と言うわけでよろしく頼むよ、アンフェリア君」
「……はい?」
目を点にしてきょとんとするアンフェリア。それもそのはず、フィアネリスが過程をすっ飛ばして四課に入隊させたのだ、テストを受けさせても学力も実技も申し分ない腕を見せ、彼女は四課に入隊することになった、なっちゃったのである。
「所で…君は四課についてどう思うかね?」
「………はい?」
いつもの圧迫面接をしても気の抜けた返事しか見せないアンフェリアに、ユリウスがフィアネリスに苦言を申す。
「フィアネリス君、果たして彼女は大丈夫なのかね? ここに来てからずっと上の空だよ?」
「使えなくては困ります、何、指導は私がしておくので」
「はいー?」
アンフェリアの戦いと苦難は、ここから始まったのだった。




