試作装備テスト
「ここにきたのは理由があるのです」
家にあげて、漫画やラノベ、フィギュアとゲームが並ぶ薄暗い部屋にて、フィアネリスがハンバーガーを食べながらそういう。
「理由があるなら先に言ってよ、警察に謝る羽目になったじゃん…」
(それは迂闊な貴方が悪いのでは?)
フィアネリスが黙ってそう考えるが、アンフェリアは質問をした。
「で、その理由って何?」
「貴方に託された天使の次世代試作型装備のデバイス、そのテストを直近で行うのですよ、で、そのテストの日時を伝えにきました」
「ふぅん、で、いつ?」
「三日後、天界にて行われます」
ハンバーガーを食べながら、パソコンをいじるアンフェリアだが、天界と聞いてため息をついた。
「もう天界に行くのはごめんだね、あたしはその試験降りるから」
「ですがそうともいかないのです」
フィアネリスが装備の図を出すと彼女に説明しだした。
「貴方の装備、サイレンスハウルは貴方に合わせて作られた装備、他の天使が使っても、100%の力を発揮することができないのです」
「嫌というものは嫌、あたしは二度と天界なんて戻りたくもないし、天使たちのいる場所になんて行きたくない」
カチカチと小さな音を立てながら、アンフェリアは非常にもそう言う。だがフィアネリスは続けた。
「報酬がないわけではありません、テストの結果次第では報酬も上乗せされますし、何より、これからの世界を滅ぼす脅威に対する防衛手段として、新装備の開発は速やかに行わねばならないのです」
「嫌だって言ってるでしょ!」
アンフェリアはクッションをフィアネリスに投げた。フィアネリスはそれを避けるが、アンフェリアはふーっと怒りながら言う。
「言ったでしょ! あたしはもう嫌なの! あたしを勝手に作って、勝手に捨てた天界に戻るのは! 世界が滅ぶなんてそんなのどうでもいい! 勝手に滅んでしまえばいい! あたしはあたしがじっとできる空間さえあればそれでいいの!」
そう言ってはフィアネリスの言葉を否定するが、ここで、フィアネリスはある映像を出した。
「これを見て、本当にそれが言えますか?」
それは、オメガが世界を蹂躙する映像だった。都市を、全ての世界を飲み込み、破滅へと導く次元侵食生命体、その姿を見たアンフェリアは、口を押さえる。
「何……それ? 新しい映画の予告?」
「そうだとしたら、どれほど良かったでしょう。これは、やがてくるこの都市の、いいえ、全ての世界の破滅の予告です」
見せつけられる凄惨な映像に、アンフェリアは耐えられなくなり、洗い場に吐きにいく。フィアネリス達でさえ吐いた映像なのだ、一般人として暮らしていた、まだ天使として幼いアンフェリアが見るには衝撃の映像だろう、誰よりも長い時間吐き出して、彼女は戻ってくる。
「消して…」
「はい?」
「今すぐその気持ち悪い映像を消して!」
だがフィアネリスは消さない、同時に、彼女からいつもの笑顔が消え、ナイフのように鋭い目で彼女を見てきた。
「分からないのですか? あなたがじっとしていられる空間なんて、彼らからすれば容易く取り込んでしまえる、そんな地獄がこれから来るんです」
「だったら、逃げるところまで逃げて……」
「わかってないようですね。逃げ場は、どこにも、ないのですよ?」
フィアネリスのことばと、映像で繰り広げられる衝撃的な光景に、アンフェリアは頭を抱える。
「嘘だ……そんなの、B級映画みたいな、もっと悪く言えばサメの映画みたいな、ふざけた話に過ぎない。そんな事が起こる確証なんてないし、ましてやあたしが戦う理由なんて!」
「戦わなければ、我々は死に絶える」
その言葉に、アンフェリアは口から言葉が出なくなった。彼女は今、絶望的な選択を迫られていた。
「これでもまだ分からないようですね、この運命は必ずやってくるのです。次元を侵食してやってくる彼らは、やがてこの数多の異世界に辿り着くと、全てがなくなるまで貪り食うでしょう、そんな中、このまま滅びゆく世界を自分がこんな目にあうまで見続けるか、それとも華々しく最後まで戦ってミリ単位の生き残る可能性に賭けるか、選んでください」
「…………」
フィアネリスの冷たい瞳が、運命を選べと彼女に突き立てられる。非情だが、そうするしか、彼女を戦いの場に赴かせる方法はなかった。そして、彼女は選択する。
「分かった……分かったよ、あたしは自分の持つ力を駆使して戦う。だからもう、その映像を見せないで!」
「はい、かしこまりました」
フィアネリスがいつもの笑顔に戻ると映像が消える。緊張した空間がとけ、元の生活感へと戻るが、アンフェリアは彼女から、ただならぬ気を感じた。
「ファースト…前にも聞いたけど、あんたは怖くないの? そんな奴らと戦うことになって」
「えぇ、怖いですよ、ですが、誰かがこの戦いをしなければ、やがて全てが滅ぶ、その為ならば私はこの身が朽ち果てるまで戦いましょう」
「狂ってる……こんな戦いに、はいそうですかと戦いに行けるだなんて」
「……えぇ、私は狂ってるのでしょうね」
フィアネリスは否定はしない。彼女は自分が狂っていると自覚していた。大戦や絶望など、数多の戦いを経てきた彼女と、その戦いを知らず、都市で今まで悠々と暮らしてきたアンフェリア、生まれた時期と積まれた経験の差、その差がはるかに違い、二人の生存への覚悟の差を感じ取られた。
「では、三日後に、また会いましょう、正直に言えば私も天界には戻りたくはないのですが、仕事ですので」
そう言ってはフィアネリスはダイナーで買ったハンバーガーの袋を残し、部屋から去って行った。
「なによ…なんなのよ! くそっ!」
アンフェリアは悔し紛れに机を叩く。ドスンと音がなり、ハンバーガーのセットのジュースが倒れかけるが、そんなことも気にせず、彼女は、戦う運命を押し付けられた事に、歯噛みするのだった。
ーーー
三日後、天界のカタパルトデッキにて、二人の天使が並ぶ。
「きてくれたのですね、二人とも」
「えぇ、仕事ですので」
「……」
フィアネリスは笑顔でミカエルと挨拶し、アンフェリアは静かに頷いた。
「フィアネリス、よくぞアンフェリアを説得してくれました」
「いえいえ、あなた方に頼まれた面倒ごとを片付けただけに過ぎやしませんので」
そうは言いつつも、ようやく後輩と飛べることが嬉しいのか、フィアネリスは少し喜ばしげにしていた。
「アンフェリア、わかってますね」
「うん、化け物が来るからその対策としてあたしが戦う、そのために今日テストを行うんでしょ?」
「その通りです。表では話は出回ってませんが、連絡でフィアネリスから神癒奈様を通じて話を聞かされた時、私もフィクションではないかと疑いました。ですが、神々が審判を下した結果、その未来は現実になると言うことが分かりましたので、こうして、貴方を戦う事にさせたのです。こんな無理難題を押し付けて、まずは謝罪をさせてください」
ミカエルはペコリと頭を軽く下げるが、アンフェリアはそれをどこ吹く風で見ると。彼女に言った。
「あたしは、天界のためとか、世界のために戦うんじゃない、あたしの、平和な暮らしを守るために戦う。理由はただそれだけ」
「それでも、戦ってくれる事に嬉しく思います、では、テストを始めましょう」
フィアネリスとアンフェリアは、片手に握られていたデバイスを手に持ち、カタパルトに移動する。
「えっと……フォースシールドビット、全ユニットコネクトオールグリーン、FCS、正常、IFF、確認、全武装、セーフティ解除、システムブートアップ、サイレンスハウル起動」
フィアネリスは慣れた手つきでシステムチェックをし、装備を装着するが、アンフェリアは初めての天使用装備の装着のため、システムの起動に手間取った。
装備が装着されると、フィアネリス、アンフェリアともに純白の装備が身に纏われる。
そして、カタパルトが起動し、いつでも射出できるようになった。
「フィアネリス、カーテンコール、出ます!」
「ええと! アンフェリア、サイレンスハウル、出撃する!」
次の瞬間、電磁カタパルトで射出され、二人は雲海を切り裂き、空を飛んでいくのだった。




