偶然を装った遭遇
「〜♪」
アンフェリアがヘイローと翼を隠し、都市の街中を歩く、向かう先はアニメショップで、今日はバイトで貯めたお小遣いを使う日だった。
アニメショップにつくと、漫画やラノベを見ていっては気になる作品を手に取る。
「今日はこれを買おうかな」
手に取ったものは異世界ラノベで、作風が少し尖ったものだった。
「あぁその作品ですか、いいですよね、主人公が仲間の為に命懸けで戦う物語で」
「そうそうって…ひゃいっ⁉︎」
唐突に声をかけられて、アンフェリアは萌えキャラみたいな声を上げる。
「びっくりした、ファースト、何でこんなところにいるの?」
「おや、単なる偶然ですよ、私もここに用があってたまたま寄ったら、たまたまあなたがいただけです」
そう言っては棚に並ぶ本を一つずつ手に取ってはカゴへとぶち込んでいくフィアネリス。その姿にアンフェリアは疑心暗鬼になった。
もちろんたまたまというのは嘘である。アンフェリアがここに来るという未来を予測して、偶然居合わせたようにして出くわし、彼女との距離を縮めるのが作戦だった。
だが、買い物に来たというのは本当のようで、カゴを持ってはレジまで一緒に向かう。
適当にレジを済ませ、アンフェリアはフィアネリスを待つが、その時、フィアネリスが取り出したカードを見て思った。
(そのカード! 限定会員が使える特別なカード⁉︎ 彼女って何者⁉︎)
「おやフィアネリスさん、今日も来てくれてありがとう」
「えぇ、今日は新刊の発売日ですからね、ポイント使ってよろしいですか?」
「はい!」
「…はい?」
目の前で彼女の意外な一面を見せつけられ、アンフェリアは宇宙を感じた猫みたいな表情になる。天使もアニメショップに寄ることがあるんだ…と。
「意外ですか?」
「意外も何も、天使がアニメショップとかまず行かないでしょ」
「それは自虐で言っているのですか?」
買い物を終え、二人で街中を歩きながらそんなことを話す。次に寄ったのは有名なコーヒーチェーンだった。アンフェリアが普通にコーヒーを頼む中、フィアネリスは追加オーダーたっぷりのフラペチーノを頼む。
「天使もコーヒーショップでフラペチーノ頼むんだ…」
「最近の天使は皆そうしてます。下界に降りてきては普通に満喫することもあるらしいですよ? 貴方みたいに身分を隠して」
フィアネリスはそう言いつつフラペチーノをかき混ぜては飲む。それを聞くとアンフェリアはため息をつき、フィアネリスを見た。
「ファーストって完全無欠な冷たい決戦兵器みたいな印象を持ってた」
「まさか、私も一介の天使です。他の天使と何ら違いはございません」
「体が人工でできていたとしても?」
「それでも私は天使だと胸を張って言います。それが、私とある友達との約束ですので」
「友達…ね……」
アンフェリアが友達と聞いてほんの少し寂しそうな表情をすると、フィアネリスは思った。
(貴方には、私のように大切な友達がいなかったのですね…)
陽当たりの関係か、フィアネリスとアンフェリアが光と影のように写る。
あぁやめだとアンフェリアが首を振ると、言った。
「兎も角、あんたとは仕事以外で会いたくないから」
「仕事をする自覚はあるのですね」
「でないと私はまた捨てられる、戦うしかないの」
そんな言葉を残し、アンフェリアはコーヒーを飲み込むと、去っていったのだった。それを見ていたフィアネリスは、フラペチーノのをずずずと飲みながら考える。
「彼女との交流はもっと増やすべきですね」
ーーー
別の日、この日はアンフェリアはギルドのバイトだった。
「アン、テーブルの片付けをしてきて」
「はーい」
アンと愛称がつけられたアンフェリアは、ギルドの衣装を着ながらテーブルの片付けや接客をする。
(っぱ落ち着くなぁ、バイトの時間は)
テーブルを拭き取りながら、そんなことを考えたアンフェリアだが、ここで新たに客が来たことに気づく。
「いらっしゃいませー、クエストを受けたいならそちらのカウンターで…」
「来ちゃいました♡」
「ってひえぇ! ま、またあんた⁉︎ 何であたしのバ先知ってんの⁉︎」
「それは、全知ですので♪」
全知とか無茶苦茶をほざくフィアネリスに対しアンフェリアは恐怖を感じ始めた。ここまでくると一種のストーカーだ。
「クエストとかはいいので貴方の職務を見に来ました」
「何勝手に観察しようとしてんの! キモいからやめてよ」
「どうぞお構いなく」
「構うわ! この変人クソストーカー天使め!」
アンフェリアが怒鳴るが、他のギルドで働く人たちがアンフェリアをなだめる。
「アン、こちらはイストリアのお役人さんよ、丁寧に接しないと大変なんだから。ギルドマスターが怒られちゃう」
「イストリア…? ファーストはそんな所で働いてるの?」
「おや、言ってませんでしたっけ?」
「言ってない聞いてない知りたくもない、性格が無茶苦茶なら経歴まで無茶苦茶なのか」
ただの天使ならどれほど良かっただろう。イストリアの役人となってくると逆らえなくなる。アンフェリアは冷や汗をかく。
そうしてフィアネリスは酒場の方の席へと座り、アンフェリアが向かう。
「ご、ご注文はお決まりでしょうか?」
「えぇ、ビールとこのステーキ、それとスープを、ああそれと、スマイルを一つ♪」
「ご注文、承りました」
ピシピシと怒りを感じさせながら、アンフェリアはスマイルをする。対してフィアネリスからは「顔が硬いですよ♪」と言われた。そう言われてアンフェリアは厨房の方へと向かい、注文を伝えた。
「アン、大丈夫?」
「大丈夫っす、いやちょっと職場の上司がダル絡みに来たから疲れてるだけで、バリバリいけます」
「本当に? 顔がすごいやつれてるよ?」
「あははやだなーもうそんなわけ……」
ーーー
「そんなわけあるに決まってんでしょ!」
家に帰ってきたアンフェリアが、枕に顔を埋めてはそう叫ぶ。無理もないだろう、ここ最近はフィアネリスにずっと追いかけ回されてるのだから。行く先行く先で彼女と出会う。その度に彼女は「たまたま」だの「後輩の顔が見たくて」だのはぐらかすが、もうアンフェリアは限界だった。
「もう無理! 天使なんて嫌い! 天界なんて嫌い! バイト以外二度と家から出てやるもんか!」
そう言っては引きこもろうとゲームをするが、ここでピンポーンとインターホンが鳴った。
「あれ…今日何かアーマーゾーンで注文してたっけ」
アンフェリアが気を抜いて玄関まで行く。だが、その気の緩みが命取りだった。
「どなたですかー?」
「ハロー♪」
バタンと速攻閉めた。とうとうあの天使、自宅まで追い込んできたと。アンフェリアは都市の警察に連絡する。
「もしもし、実は今ストーカー被害を受けてまして」
「冗談です! ハンバーガー買ってきたから二人で食べようと思いまして! ですので中に入れてください警察への連絡だけは勘弁してください!」
フィアネリスの必死の説得により、結局、アンフェリアは彼女を家にあげるしかなくなったのだった。




