欠陥品同士の付き合い
アンフェリアが天界から帰る途中だった。
(あいつ…常にニコニコしてて、気持ち悪かったな、ファーストってあんなかんじなんだ)
そんなことを考えながら歩くと、フードで隠れてたのが仇になったのか目の前の天使とぶつかる。
「あっごめ……ひぇあっ⁉︎」
そうしてぶつかった相手に謝ろうとすると、アンフェリアは声を上げた。先に帰ったはずがいつのまにか来ていたフィアネリスだったからだ。
「なっえっ⁉︎ びっくりして萌えキャラみたいな声出たじゃん。一体いつの間に回りこんで…」
「なに、ここの構造は私の方が詳しいので、貴方を少し追いかけて来ました」
いつものニコニコ笑顔のフィアネリスに、アンフェリアが気味が悪そうに見る。
「一体あたしに何の用?」
「これからバディとなるんです、お茶会にでも誘おうかと」
「……はい?」
きょとんとした顔でアンフェリアはフィアネリスを見る。するとフィアネリスは笑顔でこう言った。
「今のはいは肯定の意味と捉えてよろしいですね! ではいきましょう!」
「ちょっ! 待っ!」
アンフェリアが何か言う前に、フィアネリスは転移魔法を発動させ彼女達は光の中に消えるのだった。
ーーー
光から解放されると、アンフェリアは、落ち着いた書斎に立っていた。壁一面…いや、あらゆるところに本棚があり、天井にも吊るされていた。
「…ようこそ、私の領域である書斎に」
そう言ってフィアネリスはアンフェリアを迎える。チルい暖炉に陶器の茶器、古びたレコードとかなりアンティークな空間にも思えた。
「ババァなの…?」
「失礼な、ただ貴方より稼働年数が千年多いだけです」
「千年って聞くだけで気が遠くなりそうなんだけど?」
「まぁそれはそれ」
そんなことを言いつつ、フィアネリスはお茶を沸かしながらソファーに座ってゆったりと読書を始める。
アンフェリアは付き合ってられないと転移魔法を発動させようとしたが、フィアネリスが指を振ると詠唱が破棄された。
「ちょっ!」
「貴方のその稚拙な詠唱など、私が指を振るだけで簡単に破棄できます。さっさと帰ろうだなんて考えない方がいいですよ」
「うーわ…だるっ、じゃああたしになにをしろって言うの?」
「何も? お茶会だと言ったでしょう?」
「何よそれ」
おかしなことだと思いつつ、アンフェリアは一面の蔵書から本を探し出す。
「ん…これって」
ある本を見つけ出し、アンフェリアは壁からスッと引き抜く。それは、どこにでもあるような異世界もののラノベだった。
「あぁその本ですか、異世界転生した主人公が残酷な運命を変えるべく、己の知識で立ち向かう作品でしたね」
「うん…あんた、そういう本も読むの?」
「えぇ、私はそう言った異世界の物語の本を集めるのが趣味でして」
「ふーん……いい趣味してるね」
今、褒められたのだろうかとフィアネリスは思う。アンフェリアが立ち読みしていたので座らせると、二人で本を読む。すると、お茶が沸いた。
「ティータイムにもしましょうか。本日は異世界より取り寄せた高級茶葉を用意しました。滅多に飲めない代物ですよ」
「異世界って、ファーストはいろんな異世界にも行ってるの?」
「えぇ、仕事柄でもありますし、私の趣味でもありますので」
お茶を淹れると、アンフェリアにカップを差し出した。まぁひとまず飲んでみてくださいと差し出され、アンフェリアは紅茶を飲む。
「……美味しい、あたしミルクティー派だけど、こんな美味しい紅茶は初めて」
「おや、ミルクと砂糖を入れた方がよかったでしょうか? ですが気に入ってもらえて何よりです、菓子もありますよ」
どうぞどうぞと今度は都市の一等地に建つスイーツ店で買えるマカロンを出す。それも口に入れると、アンフェリアは顔が綻んだ。
「こんな贅沢……普段の暮らしではできないなぁ」
「普段はどのような暮らしをしているのですか?」
「冒険者ギルドでバイト、戦わず、受付嬢やウェイトレスなんかして稼いでる」
「ふーん」
アンフェリアは次々と自分の情報が暴かれてることに気づき、いけないと口を塞ぐ。
(こいつと一緒にいるのは単に帰れなくなっただけ! 馴れ合いのつもりじゃない!)
「私と一緒にいるのは帰れなくなっただけ、馴れ合いのつもりじゃない、そう考えてますね?」
(っ! 読まれてる⁉︎ さっきの仕返しのつもり⁉︎)
自身が手玉に取られているような感覚に、アンフェリアは恐怖する。
「ファースト! さっきから、一体あたしに何の目的でこんなことをするの!」
ガタンと茶器を揺らしながら、アンフェリアは立ち上がる。だがフィアネリスは底の見えない笑顔を見せながら、再びこう告げる。
「別に何も、楽しい楽しいお茶会だと言ったでしょう?」
フィアネリスの悪魔のような天使の笑みに、アンフェリアはゾクっとする。この天使に逆らうのは本能的にまずいと。それを察すると借りて来た猫のように大人しくなった。
「よろしい、お茶会は楽しくなければいけませんからね」
「もうどうとでもしなよ…」
アンフェリアは呆れて本を読むが、腹が立つ事にこの本もまた面白い、部屋のセンスは終わってるが本を選ぶセンスはかなりミーハーだ。
部屋も部屋だ。暖炉のパチパチとゆらめく優しい炎にレコードから流れるチルい曲、深々と座れるソファー、美味しいお菓子にお茶…。
まずい、このままだと彼女のペースに飲み込まれる。アンフェリアはそう思った。
「…あのさ」
「はい?」
「ひとつ聞いていい?」
「どうぞ」
もう諦めるかのように彼女はため息をつくと、フィアネリスに聞いた。
「ファーストって、これまで沢山戦いを経験したんでしょ、怖いとかいう感情とかなかったの?」
「それは否定できませんね、私にも怖いと思った時は何度かございます」
「あるんだ、それって、どんな時」
「…そうですね、分かりやすいものと言えば、絶望、でしょうか」
絶望と聞いてアンフェリアはどんなものだったかと考える。彼女が絶望について知るはずがない、何故ならば都市のほぼすべての住民が記憶を消され、関係者以外口外禁止とされた情報だからだ。
だがアンフェリアには知る権利があった。彼女は天界に戻された天使で、この出来事を知る必要がある。フィアネリスは絶望について語れるだけ語った。
「ふぅん、世界の破滅……そんな壮大な話があったんだ」
「恐怖しないのですか?」
「別に……あたしにとって世界なんて、いつ終わってもいい、ふざけたものだから」
その言葉を聞いて、フィアネリスは彼女を憐れむ。天界から捨てられた身で、人間界で独りで生きてきた彼女なら、そう考えてもおかしくないと。
「別に同情とか貰う気はないから」
フィアネリスの感情を察したのか、アンフェリアは紅茶を飲み切ると立ち上がっては本を戻し、転移魔法を使う。
「…そろそろ帰してくれる?」
「ええ、帰宅を許しましょう、いい加減帰さないと監禁魔とかまた不条理なあだ名をつけられそうですしね」
「事実じゃん」
アンフェリアはそういい、転移ゲートを作ると、入る前にこう言った。
「……悪くない時間だった、ありがとう」
そう言っては転移して去っていくアンフェリア。それを聞くとフィアネリスはこう思った。
(堕ちましたね)
計画通りとゲスい笑みを浮かべながら、次は何をしようかと思案を巡らせるのだった。




