セカンドチルドレン
ある日、フィアネリスが目を覚まし、家の家事をと考えつつ、ポストの中を確認した時だった。ぱらりと物々しい包装をした手紙が落ちてきた。もうこの包装の手紙には何度も覚えがある。
「ほげー…! アホの天界からです」
どこぞのギャグ漫画みたいなノリでフィアネリスは手紙を開く、そこにはこう書かれていた。
【天使フィアネリス、天使長ミカエル様が貴方をお呼び出ししました。過給的速やかに天界に帰投をお願いします】
それを見るとフィアネリスは思わずビリビリに手紙を破いてしまいそうになるが、天使の最高位にして、自分にとっては腐れ縁のミカエルの呼び出しならば、断れない。
「フィアネリスさん、どうしました?」
「フィーネ、何かあったの?」
神癒奈が火乃香を連れてやってくる。あれから火乃香は永戸と神癒奈の部屋で寝るようになり、同じベッドで三人で過ごすことになったが、永戸からは「暑い…」と不評だった。
そんな二人がフィアネリスに聞く。
「あぁ、それが…」
二人に事情を話すと、神癒奈の方は納得した。
「ミカエルさん、と言えば、確かフィアネリスさんの元となった天使さんでしたっけ」
「そうですね、私は彼女を模した決戦兵器、一体また彼女が私に何の用なのでしょうか」
フィアネリスはため息をつきながら手紙を見る。以前天界に呼び出された時は騙されて危うく自分の自我を消されかけた。今度は一体何の呼び出しだろうかとフィアネリスは思う。
「とりあえず、行くだけ行ってみては?」
「神癒奈さん、軽々しく言ってくれますけど私が天界嫌いなの知ってて言ってるのですか?」
「フィアネリスさんはなんだかんだ言って裏切らない主義だと信じてますので」
「もうっ、貴方の信じ込むところ、よくないですよ」
だが天界用の転移ゲートを開くとフィアネリスは出かけようとする。すると火乃香が言った。
「行ってらっしゃい、フィーネ」
「はい、行ってきます、火乃香」
そうして、フィアネリスは天界へと転移して行くのだった。
ーーー
天界に着き、フィアネリスは地面に降り立ち、ゆっくり歩く。流石に何度も世界を救っているとフィアネリスに対して周囲は何も言えなくなるのか無言になっていた。
「ワールドエンドのことは知らないとは言え、皆わかりやすいですねぇ」
以前は歩いていたらヒソヒソ話されてたのが嘘のように静かだ。そうして、ミカエルのいる建物に入って行く。そこは相変わらず天使達の憩いの場で、さまざまな噂が飛び交っていた。
「聞いた? セカンドチルドレンが天界に戻ってきてるって」
「聞いたわ、物騒よね、ファーストがただでさえ問題児なのに、セカンドはもっと問題児なんでしょ?」
そんな話を聞く。ファースト? セカンド? とフィアネリスが疑問に思う。
「あぁ、フィアネリス、戻って来てたのですね」
「んげ…その声は天使長ミカエル」
「ミカエルでよろしいですよ、そう堅い表情にならなくても」
「貴方だから固くなるんですよ、私のコピー元」
フィアネリスはそうぶつくさ言うと、ミカエルと一緒に歩く。こうして歩いていると同じ顔をした双子に見える。
「先ほど聞いたのですが、ファーストだのセカンドだの、アレは一体なんですか? 国民的汎用人型決戦兵器アニメのキャラクターとでも?」
「それにならって皆言っているだけですよ。まずファーストは貴方、フィアネリスの事です」
「はぁ、私……ん? ちょっと待ってください、と言うことはセカンドは…」
「察しがいいですね」とミカエルが言うと部屋の扉を開く、中に入ると、すでに天使が入っていた。
「あら、もう来てたのですね」
「……ん」
フードを被った天使は、こくりと頷くとミカエルとフィアネリスの方に向く。そしてフードを取ると、ガムを口でくちゃくちゃさせながらフィアネリスをみた。その天使は、フィアネリスとは顔の形は全然違っていた。だが、琥珀色の瞳は同じで、オレンジ色の髪をたなびかせると、ミカエルが紹介する。
「それでは、紹介しますね、こちらが、貴方の先輩、ファーストチルドレンのフィアネリス、そしてこちらが、フィアネリス、貴方の後輩になるセカンドチルドレン、名前は…」
「アンフェリア」
ボソッと呟くようにそう言うと、その天使はよその方を向き、ポケットに手を突っ込みながらガムを噛み続ける。
「…アンフェリア、彼女は仮にも貴方の先輩になる天使なのですよ、そんな無愛想な態度を取ってはいけません」
「知らない、天使のそんな堅苦しいルールなんて。どうせ、ここに戻されたのだって、そこのファーストと同じく、利用して使い潰すために、でしょ」
そういってはぷいっと顔を背ける。
(随分と舐めた態度の後輩ですね)
フィアネリスはニコニコしながらもそう心の内で思い、闘志を燃やすが、彼女のそんな笑顔に、天使、アンフェリアは反応する。
「…気持ち悪い笑顔」
おもっくそ嫌悪感を抱かれていて、フィアネリスはこいつをスクラップにしてやろうかと一瞬考える。だがその感情すらも読まれたのか、こう言われる。
「ムキになった? ファーストって、案外分かりやすいんだね」
「アンフェリア! いい加減にしなさい!」
珍しくミカエルが声を荒げるところを見た。自分を思ってくれてるのは正直微妙な気持ちなのだが、今だけはその気持ちを受け取っておこうとフィアネリスは思う。
「ふんっ、天使も、人形も、結局は感情に任せてあたしを制御しようってわけ? くだらない」
そう言うとアンフェリアは一人部屋から去っていった。彼女が去ってから、フィアネリスは言う。
「ミカエル、彼女はやはり…」
「ええ、貴方同様、ラグナロクプロジェクトによって作られた決戦兵器にしてそのロストナンバー、ネアゼルの工廠で見つけた試作型天使の遺された一機です」
ネアゼルとは、かつてフィアネリスを作った開発者のことで、フィアネリスは決戦兵器を作るべく、ラグナロクプロジェクトによって生まれた。が、最終的に天界でネアゼルはフィアネリスを洗脳し、自分の作った量産型天使と共にクーデターを起こし、その後、我に帰ったフィアネリスの手で抹殺された。そんなネアゼルの工廠で見つかったアンフェリアだが、一つ気になる要素があった。
「ロストナンバー?」
「"欠陥品"と言うことです。彼女は既に漂白された魂が入っていた状態で発見され、暴走する危険性を感じた天界は破棄を決定、一度は堕天させました。しかし、昨今の運命との戦いにより、奥の手として投入されたラストダンサーだけでは戦力不足と判断され、彼女の堕天を解除、天界へと帰還させました」
またそんな無責任な真似を…とフィアネリスは思う。同時に、彼女のあの擦れた性格はそう言うところから来ているのかと察した。
「彼女は生まれてまだ間もない赤子みたいなものです。一応起動時にある程度学習された状態で目覚めたそうですが、堕天させてからと言うもの、人間界の俗物に触れてからはあの感じで」
「で、同じ決戦兵器の私にバディを組ませて、その性格を矯正しよう、と言うわけですか」
「嫌がると思うけど、やってくれますか?」
「しょうがないですねぇ、腐れ縁の頼みなら断れません、いいですよ、手伝ってあげましょう」
「ありがとうございます。これ、彼女の住所と連絡先です」
ぴらりと紙を受け取ると、フィアネリスはほう…と笑顔になる。
「くれぐれも、彼女を慎重に扱うようにお願いします。彼女は、現在次世代型の試作兵装を装備してます。刺激して街中で撃たれると危険ですので」
「かしこまりました、まぁ、私に任せてください」
そうして、フィアネリスはミカエルに手を振ると、部屋から出て、アンフェリアとの付き合い方を考えるのだった。




