会敵
「炊き出しでーす」
そういうわけで、四課の臨時隊員となった火乃香は、早速四課の任務に着いた。
「こちらで炊き出しやってますよー」
都市の外郭でお決まりの炊き出しをする永戸達、だが、そのゆるい仕事さに置いてかれる火乃香。一体何を想像したのだろうか。
「ええと…」
「火乃香殿、手が止まっておりますぞ」
「フローレアさん、あの。私たち、一体何をしてるんですか?」
「ふっふっふ、聞いて驚くな、これは、ボランティアだ!」
そんなの見てたらわかるよと火乃香はジト目になる。すると永戸はこう言った。
「いくらオメガが次元を侵食する危険生命体と言ったって、いつくるかも、どこにくるかも分からない。そんな状態じゃ何もできない、まずは火乃香には四課流のやり方を学んでもらわなければならない」
「それが、この炊き出し?」
「ザッツライト、そういうことだ」
そう言われても意味がわからないと火乃香は思い、鍋に入れる野菜を刻む、
「…にしても手慣れてるな? 料理、教わった事があるのか?」
「うん、フィーネとよく一緒にご飯作ってたの、フィーネは私にとって育ての親で、私によく物語を聞かせてくれたの」
「…そうか」
永戸はそう聞くと、向こうのフィーネも似たような性格だったんだなと思う。
料理が出来上がると、炊き出しが配られ始め、食料が行き渡っていく。
「ねぇ、どうしてここにいる人たちは都市に入れてあげないの? 都市って安全なんでしょ?」
「……そうだな、でも、入れられないんだ、都市に入れようとすると、お金とか、権利とか、色々必要になる、お前みたいに勝手に転移してきた者なんかは、普通は都市に入れちゃいけないんだ」
「じゃあ、ここにいる人たちをみんな入れてあげることはできないの?」
「残念ながら、な」
そういえば、こんな話、前に神癒奈と外郭でしたっけ、などと永戸は思う。すると、火乃香の頭を撫でた。
「ん…お父さん?」
「ぁ…あぁいや! これは違くてだな、お前が、神癒奈とそっくりだから、つい…撫でたくなった」
「そっか……」
すると火乃香は嬉しそうにすると、頭をすりすりと永戸に押し付けた。
「こら、仕事に集中する」
「ごめんごめん、でも今の、向こうの世界の、お父さんみたいだった」
「……そうか」
火乃香の嬉しそうな表情に、永戸も表情が綻ぶと、こんなことを聞く。
「なぁ、火乃香、向こうの俺って、どんな感じだった?」
「家族思いで、優しくて、大きな背中をしてた。あの背中は、いつもフィーネが聴かせてくれた英雄譚のそれで、憧れだった」
「……憧れ……か、なら俺も、お前の父親らしいとこ見せないとな」
「…えへへ」
再び火乃香を撫でて、火乃香は喜ぶ。この時間は、不思議と、永戸も悪い感じはしないのだった。
ーーー
「今日も炊き出し頑張ったな」
「あぁ、そうだな」
夕暮れ時に、永戸達はイストリアの基地へと帰る。クレスが運転する中、永戸は助手席で座っていて、後部座席では皆眠っていた。
「起こさなくていいのか?」
「少しは寝かせてやろう、フォーチュンとの戦いに続いて今度はオメガなんていう生命体まで出るんだ、少しは休息の時間くらい与えたい」
「優しいなぁ、隊長さんは、普段は鬼のように無茶振りをしてくる癖して」
「そうぼやくなよ、俺だって皆のことを考える時くらいはある」
そうして信号で止まり都市の景観を見る。すると、都市の街中に、以前見た人型ロボットが立っているのが見えた。
「おっあれってこの前俺たちが乗ったバトルフレームって奴じゃないのか?」
「あぁ、フェレッタの奴が俺たちが取った戦闘データから改めて制作して正式量産型を作ったらしい」
正式量産されたバトルフレームは、多少簡素な見た目にこそなっているが、ロボットらしくかっこいい姿で都市に立っていた。
「装備が多少しょぼくなってるが、ああして立ってるのを見ると、都市の戦力も立派になってきたな」
「そうだな。都市の技術も進歩している、気がつくと、俺たちがいらなくなる時代もくる…はず…」
永戸がそう言って空を見た時、何か黒いもやのようなものが見えた。
「なぁ、クレス、あれってなんだ?」
「あれ? あれって……なんだアレ?」
そんな会話をしてると、信号が青になっていたのか、後ろの車からクラクションが鳴らされる、それで火乃香が起きた。
「あれ、もうついたの?」
「いや…アレが、なんなんだろうなって」
車が走り出すが、火乃香がそれを見た時、彼女は顔を真っ青にした。
「あれは次元転移の予兆だよ! でもアレほどの大きさとなると、私たちみたいな人間サイズじゃない!」
「…つまり?」
「…オメガだ、オメガが、ここにきてしまったの!」
火乃香のその言葉で、永戸は車に備え付けられた通信機で、周辺一帯のイストリアの兵士に声をかけた。
「総員! 戦闘配置! 空の謎の黒いもやから敵が出てくるぞ!」
【敵⁉︎ それは一体どんな!】
「説明している暇はない、そこに全火力を集中しろ!」
そうして永戸達は黒いもやを兵士たちやバトルフレームに攻撃させる。弾丸はすり抜けずもやの中に入って行く。一通り弾幕を浴びせると、しん…と静かになった。
「……やったか?」
「バカッ! それは言っちゃいけないお約束だ!」
永戸がクレスにそうわめくと、空から突然、ゲル状の生命体が一体落ちてきた。永戸達の目の前に落ちてきたそれは、ウヨウヨと蠢くと、周囲の物を取り込み出す。
「バトルフレーム隊だ!」
ちょうどいい時に、バトルフレームが列をなしてやってきた。
【なっなんだ⁉︎ この生き物は⁉︎】
「構うな! そいつを全力で排除しろ!」
バトルフレームが攻撃しても、オメガにはあまり効果が無く、オメガはこちらを見るかのように蠢いた。
【攻撃しても、効果がありません!】
「前!」
【何⁉︎ うわぁあああっ!】
オメガがバトルフレームに取り付くと、それを飲み込むかのように蠢き、取り込んでいく。
【い、嫌だ、こんなスライムみたいなやつに、殺されたくはな、ぎゃあああああ!】
「脱出しろ! 早く!」
しかし、永戸が言っても遅く、バトルフレームの一機は、完全に取り込まれてしまった。そして、オメガが姿を変えると、黒いバトルフレームへと形を変える。そしてそのバトルフレームは、こちらの車に銃口を向けてきた。
「まずいまずいまずい⁉︎」
「アクセルを踏んで!」
「はぁ⁉︎ 取り込まれるんじゃ⁉︎」
「いいから踏む!」
「いでででで!」
火乃香に足を踏まれ、クレスが足を痛めるが、アクセルが踏まれて車は急発進し、バトルフレームとぶつかった、その衝撃で皆目を覚ます。
「何ですか⁉︎」
「オメガだ! オメガが攻めてきた!」
「っ!」
オメガと聞いて神癒奈達は車の真正面を見る。
アクセルを全力でベタ踏みしていることで、オメガのバトルフレームは押されていたが、向こうがローラーダッシュをし出すと、押し返される。
「奴に何か弱点はないのか⁉︎」
「一つだけある!」
「それは⁉︎」
「奴らは、ゲル状で何かを取り込むまでは無敵の存在、攻撃しても無駄なだけ!」
そう言ってる間に永戸達は車が今も押されていた。炊き出し用の荷車を牽引するトラックを押し返すほどのパワーだ、オメガがそのものの力を最大限に引き出して戦うというのはあながち嘘ではないだろう。
「じゃあどうすれば!」
「けど、オメガは一度何かを取り込んで変身すると、形を形成して、何かを取り込むことがなくなり、その姿を保つ為の核が生まれる! そして、その核はなり損ないと同様に、白銀で貫けば壊せて奴らは霧散する!」
「っ! そういうことなら!」
永戸は後部座席に移動すると、煉禍のパイルソードを手に取ると、トラックのルーフを開け、トラックの上に立ち、フィアネリスに聞いた。
「フィーネ! こいつの核は!」
「敵の中央部、コックピットです!」
「よし!」
オメガが銃を永戸に向け、発砲するが、永戸はそれを避けると、オメガに近づいた。
「これでも喰らいやがれ! スライムの化け物が!」
轟音と共にパイルソードが射出され、装甲の隙間からコックピットに突き刺さると、綺麗に核へと突き刺さり、オメガが形どったバトルフレームは霧散したのだった。
「……やったんだよな?」
「うん、今度こそやったよ?」
フロントのボンネットにずるりとすべる永戸は、勝利にホッとすると同時に、はははと乾いた笑いをする。これからこんな奴らと、戦わなければならないのか…と。




