次元の病原菌と楽園崩壊
「危険生命体…オメガ」
永戸達はフィアネリスの話を聞き、うんうん唸る。彼女がする話だ、嘘とは信じられない。彼女がこんなぶっ飛んだことを話すことはまずない。とはいえ、それがどんな生命体か永戸達には想像がつかなかった。
「そうですね、話すより、見た方が早いかと、こちらをご覧ください」
フィアネリスが、今度は映像を出した。その映像には、ゲル状の生命体が侵略してきては、あらゆる物を飲み込む映像が流れてた。
「何…これ?」
「ボク達の…都市が」
「取り込まれておる」
流れたあまりにも無惨な光景に、神癒奈や渚、玉藻前は言葉をなくす。だが、その光景はそれだけでは終わらなかった。
「見て! 取り込んだものに変身してる!」
渚が言うところを見ると、ゲル状の生命体が人間を取り込んだあと…その人間に変貌し、武器を持っては恐るべき動きで暴れ出す光景を見た。その姿に。神癒奈達はえずくと、全員で洗い場に行って吐き出す。
「これが…オメガだよ、私たちの世界を滅ぼした」
「……これが、オメガ」
永戸もショッキングな光景に、吐き出しそうになる。だがそれを堪えてフィアネリスの話を聞いた。
「オメガは、有機物、無機物関係なくそれを取り込み、取り込んだものの姿に変貌し、そのものの最大限の力で暴れ出す生命体です。そしてそれは、じわじわと他の次元を侵食しながら、こちら側に近づいてます。早いうちには一週間」
「ううん、時間なんて関係ない、あいつらは、こっちの想像を上回る早さで侵食してくる。実際に、私達の楽園も、予想より十年早く侵食され、滅ぼされた」
「なぁその、エデンって何だ?」
永戸はふと興味を抱いた質問をする。すると火乃香は説明し出した。
「向こうの人類が最後に暮らした箱庭の世界だよ、ある神様が、プロジェクト楽園と言っては、私達の次元の隔離されたところに、小さな世界を作ったの、それがエデン」
ほーんと永戸達は頷く。だが、聞き捨てならない事があった。
「"次元的に隔離されてた"世界なんだろう、それでも、奴らの侵略を防ぎ切ることはできなかったのか?」
「うん、あくまでプロジェクトエデンは、人類が生き残る為の延命処置に過ぎやしなかった。向こうのフィーネの予測だと、あと十年経てばそこまで侵略の手が届く、はずだった」
「ところが…侵略は予想より早くきたと」
「うん、だけど、私たちにも反撃する手はあったよ」
すると火乃香はあるものを取り出す。それは、鈍く輝く剣で、色合いこそ落ちていれど、形には見覚えがあった。
「それは、聖剣イクセリオス?」
「うん、正確には霊剣イクセリオス。侵食によってもう元の使い手がいなくなり、力をなくした剣」
「ちょっと待った、今なんて言った? 侵食によって元の使い手を無くした?」
それを聞くと火乃香はうんと頷き、こんなことを言い出した。
「元の使い手、陽宮永戸は、お父さんとお母さんは、向こうの世界では、侵食されて死んだ」
「……嘘だろう?」
永戸は先ほどの映像を想像し、それが自分に降りかかった時のことを考えると、恐ろしいと考えた。だが、手はあると言った火乃香の言葉を信じて、彼女の話を聞く。
「悪い、それで、反撃する手立てってなんだ?」
「反撃する手立て、それは、かつての英雄達の子孫を別の次元へと送り、危機を予知させ、オメガの侵略の前に反撃の体制を整えること、それを、フィーネが考えたの」
「私が? あぁ、いいえ、向こうの私が、ですか」
フィアネリスは納得する。確かに、侵略を予測してたのなら、自分なら何の対策も立てずに死ぬはずがないと考えた。それで? とフィアネリスは聞く。
「それで、あなた以外の英雄達の子孫は、何人送り出せたのですか?」
「……分からない、フィーネが開発した次元転移魔法が実行に移されたかは、私も分からない、私一人だけかもしれないし、この次元に、他の転移者もいるかもしれない」
「結局分からずじまい、か」
永戸は天井を見て考える。こうして考えていても、何も答えが得られないだけだ。
「仕方ない。明日、ユリウス課長に聞いてみるしかないか、イストリアも資料を提出すると動き出すだろう」
「では、私のログを記録媒体に移し替えておきますね」
そうして話は早々と進み、永戸達は明日、イストリアにて今日起きた全てを話すこととした。
ーーー
翌日、永戸達は都市を歩いては、イストリアへと向かうが、そんな出社の最中、電車の中で、火乃香は周りの景色を見て懐かしそうにした。
「懐かしいなぁ、ミズガルズ」
「向こうの次元のミズガルズも知ってるのか?」
「うん、ここと全く同じ光景だった」
「ふーん」
永戸は、向こうの自分も、こうして街の景色を眺めてたんだろうかと考える。そうして、イストリアに着き、四課のオフィスに入り、事情を説明した。
「隊長さんと⁉︎」
「神癒奈殿の⁉︎」
「娘で…⁉︎」
「別の次元の未来から」
「やってきた⁉︎」
まぁ、全員驚くだろう。ひとまず一通り昨日話したことは伝えてみた。するとユリウスはこう言った。
「ふむ…次元を超えてやってくる侵略者、また難儀なものだね」
「信じてくれるんですか?」
「ほっほっほ、大戦も絶望も経験してると、この程度で驚くわけ…」
だがユリウスの手は紅茶を握ったままカタカタと震えていた。
「ふぅ…ひとまず、事情は聞いたよ、私が上層部に掛け合って、警戒を強めるとしよう」
「ありがとうございます!」
火乃香は神癒奈譲りの笑顔を見せると、ユリウスはどこか朗らかな笑顔になった。
「して、火乃香くん、君はこれからどうしたい?」
そんなことを、ユリウスが聞く。
「世界を、救いたい。オメガを倒して。この世界を、私達の世界のようにさせたくない!」
「……覚悟は本物のようだね」
火乃香の瞳を見て、ユリウスは品定めした。どうやらユリウスの感じだと、恒例の圧迫面接はなく、火乃香を四課で受け入れる気らしい。
「よし、では今日から君を四課の臨時隊員として認めよう、焔月火乃香君」
「四課の…隊員?」
「あぁ、これから君は、君の父と母と共に、人類のために戦うのだよ」
それを聞くと、火乃香はうんっと頷き、ユリウスと握手する。
「よろしくお願いします! ユリウスさん!」
「うむ、よろしく頼むよ」
「また新しい隊員か」
「しかも私達の娘、ですか」
永戸達は、自分たちの娘である火乃香を四課の臨時隊員として受け入れ、共に戦う事が決まったのだった。




