時を駆ける狐
ありのまま起きたことを話すぜ…妹と先祖から結婚しろと言われたら、いつのまにか娘ができてて、娘の方からやってきた。何を言ってるかはわからねぇが…となりながら、ひとまず永戸達は自称永戸と神癒奈の娘という少女、火乃香を家に迎え入れる。
「で…おにぃちゃん、みゆにゃん、ボク達のいない間に、いつのまに娘作ってたの?」
『作ってるわけないだろ!(でしょ!)』
思わず二人は渚にこう叫ぶ、二人の頭の中は休日モードから一気にパニック状態へと陥っていた。
「あっははは、いきなりお父さんとお母さんと言われるとびっくりしちゃうよね、改めて、私は焔月火乃香、こことは違う次元の、未来からやってきたんだ」
「違う次元の」
「未来?」
思わず永戸と神癒奈は首を傾げる。だめだ、突拍子のない話ばかりで全く先に進まない。こういう時は…と二人はお助けキャラの名前を呼んだ。
『助けてフィネえもーん!』
「やぁやぁどうしたんだいマスター、神癒奈さん♪ って……おや?」
やってきたお助けキャラ、フィアネリスが火乃香を見るが、その時、火乃香が言った。
「あっフィーネだ!」
「……ふむ」
フィアネリスを見ては、一瞬涙ぐむが、ぱぁっとした表情になる火乃香に、フィアネリスはまるで未知の物を見るような目で火乃香を見つめる。
「遺伝子配列、血統、外見、肉体の構成……これらから察するに…マスターと、神癒奈さんの娘様でいらっしゃりますか?」
「さっすがフィーネ! この次元でもよく分かってる!」
『本当なの⁉︎ その話!』
火乃香がサムズアップを送る中、フィアネリスは察したように笑うが、全員衝撃を受けていた。
「フィーネ、お前、頭やられてないよな、お前に限ってまさかそんなおかしな冗談は言わないよな⁉︎」
「フィアネリスさん、疲れてませんか? 辛い事があるなら話に乗りますよ?」
「おや、失礼な、私は至って正常ですし、冗談でもなく、辛い事もございません、彼女は正真正銘マスターと神癒奈さんの娘です」
そう言われて永戸達一家は一斉に振り返る。椅子にはお茶を飲んでにぱーっとした火乃香がすわっていた。
永戸達もひとまず席に戻る。
「彼女はおそらく、こことは違う時間の流れを通った別の次元、そして、遥か遠い未来からやってきた、マスター達の娘です」
「何でそう簡単に信じられるんだよ」
「それは……少し前に遡りますね」
話はほんの少し前に遡る、フィアネリスがのほほんと朝の洗濯をしている頃の時だった。
「……いつっ!」
突然、フィアネリスに電気信号が流れた。突然の感覚にフィアネリスは戸惑うも、電気信号からあることを受信する。
「遥か未来……人類は、滅亡する……? 未知の侵略者……オメガ?」
そう受け取ると、フィアネリスは目を見開く。それは、最後に送られてきた映像だった。膨大なデータによって流れてきたその映像は、別の次元の未来で起きた出来事で、都市が、いや、全ての異世界が未知の生命体によって蹂躙されるという光景だった。
「これが……オメガ? 貴方は一体……」
フィアネリスは思わず手を伸ばして情報を掴もうとする。その時、その送り主の最後の言葉が聞こえてきた。
【あとは頼みましたよ、私】
「私……?」
その記録を最後に、フィアネリスに流れた電気信号が途切れる。
ゴウンゴウンと洗濯機が動く中、フィアネリスはここより未来で起きた出来事を想像すると、洗面台に吐き出した。
それは、とてもおぞましい光景だった。生き物か何なのかわからないゲル状の存在が、人や動物、魔物に機械までもを飲み込むと、それに変貌し、世界を破壊し始めるという光景だった。その光景は、かつて見た絶望とはまた違う、もっと本能的な、生命の恐怖を感じる物だった。
「私……これを送ったのは、別の私だと言うのですか?」
フィアネリスは鏡に映る自分を見つめる。写っているのは自分だが、彼女の瞳には、遠い世界の別の自分が写っているように思えた。
「これから、この存在が、こちらにやってくると言うのですね? どう言う因果かは分かりませんが、自分の頼みならば、その未来、変えるよう尽力しましょう」
そうして、時はいまに至る。フィアネリスが全て話すと、永戸達は疑問に思った。
「オメガ?」
「また抽象的な名前ですね」
「なんかファイナルでファンタジーなゲームに出てきそう」
「して、そのおめがとやらが本当に妾達を滅ぼしに来るのかえ?」
「仮定ですが、恐らく」
普通ならにわかには信じられない話だが、あの博識のフィアネリスの言うことだ、信じるしかないと、永戸達は思った。
「そう、オメガ、それが私たちの世界を滅ぼし、最後に残った人類の住処、楽園さえも滅ぼしたの。んで、私はその運命を変えるべく、別の次元の未来からやってきたの」
火乃香がそう言う。
「仮に本当にそうだとして、そいつはいつ来るんだ? 大体オメガってなんなんだ、そんなSFみたいな話をいきなりされてもな」
「それは…」
火乃香はそれを言われてもと俯いたしまった。どうやらこの子はオメガの襲撃時期までは知らないらしい。
その時、フィアネリスがこう呟いた。
「次元侵食生命体…」
「なんだって?」
「それが、彼らにつけられた正式名称だそうです。ログにはそう…」
次元侵食生命体…これまたフィクションみたいな話が飛び出てきた。まずそもそも次元というものがまず何か、永戸達には理解できなかった。するとフィアネリスはこう説明しだす。
「次元とは、多数に連なる無数の可能性と言いましょうか、そうですね、いま私たちが辿っている運命とはifの選択肢をとった世界、と言いましょうか」
「難しいこと言うなよ、分かりやすく言ってくれ」
「そうですね、たとえばですが、マスターが神癒奈さんを最初拾わなかった世界があったと仮定しましょうか?」
フィアネリスがわかりやすいよう空中に図面を出す。そこには、永戸と神癒奈が別々に進んだ図が描かれていた。
「神癒奈さんはマスターと出会わないので、月の国へは戻ることはできず、神に至ることなく何らかの理由で死ぬでしょう。マスターも、神癒奈さんと出会わないことで、絶望に立ち向かう力がなく、四課は全滅しているでしょう。そう言った別の運命を辿ったifの世界、それが別次元です」
図面には別々の道を通った永戸と神癒奈がいて、それぞれ別の地点で倒れた。なるほど、と全員が納得する、実にわかりやすい。それでとフィアネリスはこう言った。
「そして、火乃香さんは…」
「火乃香でいいよ」
「失礼、火乃香は、その別次元のマスター達が産んだ娘で、遠い未来からやってきたと言うことです」
これでようやく話が通じたのか、永戸達はうんうんと頷いては納得した。それを踏まえて、フィアネリスは言った。
「次元侵食生命体、オメガはその名前の通り、次元を渡っては侵食し、次元をどんどん食い荒らして行く存在、放置しておけば、遅かれ早かれ、我々の次元に侵略してくる危険生命体です」
それを聞くと、永戸達は息を呑んだのだった。




