晴れやかな休日
ある世界の、異世界近未来魔道都市、ここミズガルズは今日も朝を迎え、平和で騒がしい一日が幕を開けた。
「ふわぁ…おはようございます、永戸さん」
九尾の狐の神様、焔月神癒奈が目を覚ますと、ダボシャツと下着姿で起き上がり、隣で寝る男、陽宮永戸を起こす。
「…今日は休日だろ、ニチアサの特撮の時間まで寝させてくれよ…」
「もう…しょうがないですね、ちゃんと起きてきてくださいよ」
そう言っては寝込む永戸に、神癒奈はむすっとすると、起き上がって私服に着替える。
今日は彼らは休み、異世界管理組織イストリアの仕事は非番だった。神癒奈はまたあくびをして着替え終えると、リビングの方へと向かう。
「おはようございます♪ 神癒奈さん、本日も良き一日を過ごしましょう」
「おはようございます、フィアネリスさん、今日の朝ごはんは何ですか?」
永戸と神癒奈の守護天使、フィアネリスはいつものようににっこり笑いながら神癒奈と話す。
「鮭のムニエルとスープ、それとシーザーサラダです♪ 主食はパンにしますか? ご飯にしますか?」
「ごはんで」
神癒奈がご飯を選択すると、フィアネリスは炊飯器から米を出し、茶碗に乗せては神癒奈に出す。
「マスターはまだ起きないのですか?」
「ニチアサの時間まで寝てるって、呑気ですよねぇ」
「いいではありませんか、運命も退けたことですし、ゆっくりさせてあげても、寧ろ神癒奈さんが誠実すぎるくらいです」
「そう言われても何も出ませんよ」
お互いに笑顔で話しながら食事をする。テレビでは今日の都市の天気の様子が映し出されていた。
【本日の天気は晴れです。洗濯物がよく乾きやすい一日になるでしょう、都市での未来予知警戒情報は今の所ありません、本日は過ごしやすい一日になることでしょう、皆様、良き休日を】
「平和な一日になりそうですね」
「そうですね、本日の家事当番は私ですし、洗濯物をまとめて片付けますか」
フィアネリスは先に食事を終えると、洗濯物を洗いに洗面所へ向かう。反対に神癒奈はもぐもぐとご飯を食べていた。
「おはよう、みゆにゃん」
「おはようございます、渚さん、珍しく早いですね」
「そりゃあここ数日、ワールドエンドに関しての話でイストリアに詰められてたから、疲れて早めに寝ちゃって…」
「あはは……そうですね、渚さんは外部の組織の方ですからね」
起きてきた永戸の妹、陽宮渚がキッチンに並べられた皿を取っては並べ、むしゃむしゃと食べだす。ついでにテレビ番組も変え、ニチアサの少女向けのアニメ番組に変えた。
「いけー! プ○キュアー!」
「ご飯が飛ぶから食べながら叫ばないでください!」
行儀が悪いと神癒奈は渚に怒るが、お構いなしに渚はテレビを見る。はぁ…とそれにため息をつきつつ、神癒奈は食事を終えると、皿を洗い機にいれ、手を洗ってのんびりとした時間を過ごし始めた。
「〜」
今日は自分が家事がないからとリビングで背伸びしては座椅子に座って漫画本に手を伸ばす。
「おはよう、今日も皆元気そうじゃな…いつつ…」
「玉藻様、また二日酔いですか?」
「名前を端折るなたわけ、あぁそうじゃ、なんじゃったかのう、アルコール濃度99%の酒に挑戦したわ」
神癒奈の先祖、大妖怪の玉藻前が、酒瓶片手にやってくる。
「それスピリタスだよ、何でまたそんな劇物を?」
「妖怪仲間から勧められて試しに飲んだのじゃ、じゃが辛すぎてとても飲めん…あんなものは酒じゃない、ただの消毒薬じゃ、あやつら、こんな劇物を妾に勧めおって…次出会った時は喰らうてやるわ」
玉藻前がそんなことを言いつつもひんっ…と辛そうな表情で食事をとっていく。そうしていると、ようやく起きてきたのか、9時前に永戸がTシャツ姿で降りてきた。
「おはよう」
「おはようございます、永戸さん」
「久々の休みで今日はのんびりできそうだ」
「そうですね、私も今日はうんと羽を伸ばそうと思います」
永戸が食卓の席につくと、彼もご飯を食べ始める。そして9時になると始まった特撮番組に渚と二人で見入りはじめた。
『いけー! 仮面○イダー!』
「うるさいわ! 頭がガンガンする!」
二人で大人気なく特撮を見てる姿に、玉藻前がコャーッと威嚇する。それを神癒奈はあははと笑いながら見守る。今日、平和な一日が始まろうとしていた。
朝の食事を終えると、永戸はリビングで寝転がる。
「食べてから寝ると、牛になっちゃいますよー?」
「俺は狐だ」
「性質上は、でしょう?」
「人間風情がなーに言ってんだか」と神癒奈は思いながら漫画本を読む。永戸は渚と一緒に携帯ゲーム機を持つと、一緒にぴこぴこ遊び始めた。
「おにぃちゃん先行きすぎ! モンスターにやられるよ?」
「やられるわけないだろう、俺のハンティングテクニックで倒してやるさ」
国民的ハンティングゲームをやりながら、二人はそんなことを言う。賑やかだなぁと思いつつ神癒奈は漫画本を読み進める。
「おにぃちゃんさぁ」
「何?」
「みゆにゃんと結婚しないの?」
『はぁ⁉︎』
思わず二人して声を上げてしまった。その途端、永戸のゲームにはモンスターにやられたのかゲームオーバーの文字が出て、神癒奈は漫画を落とす。
「ん? 二人とも結婚する気なかったの? というかおにぃちゃんゲーム中によそ見するなよ、負けちゃったじゃんか」
「ば、ばか言うんじゃないよ! 結婚とか、そういうのは、まず段階を踏んでだな…!」
「そうそう! 私達、まだ恋人になって二年ほどしか経ってませんし」
「もう二年だよ、そろそろ腹を括って二人仲良くイチャイチャしなよ」
渚がそう言うが、二人は顔を合わせると、顔を真っ赤にして互いに目を逸らした。
「もー、二人で熱いべろちゅーして仲良くした仲なんでしょ、そんなに遅れてていいの?」
「よくない! けど…」
「私たちはまだ互いについて知らない事だらけですし!」
「お互いの指輪のサイズとかも知ってるのに?」
渚にジト目でそう言われ、もう言い返せなくなる二人。それを見ると渚はため息をついた。
「はぁ、おにぃちゃんもみゆにゃんもそんなに奥手だと、相手取られちゃうよ? いいの?」
『よくない!』
「じゃあ結婚しなよ、同じ家同じ部屋同じベッドで過ごす仲じゃん、どうせボクの見てないところでイチャイチャしてるんでしょ」
それを言われると二人は黙って顔を赤くしてまた目を逸らした。「わかりやすいなーこいつら」と渚は軽く嫉妬する。
「とにかく結婚の話はまた今度だ! もしそんな事玉藻に聞かれたら…」
「妾に聞かれたら、何じゃ? ほれ、言うてみぃ」
ビクッとなって永戸と神癒奈はギシギシとぎこちなく振り返る。するとそこにはこちらもジト目になった玉藻前が立っていた。
「お主ら、まぐわってもおきながらまーだ結婚する覚悟をしておらんかったのか、二人揃って鈍感じゃのう」
「玉藻様違うんです! 私はただ永戸さんのことを思って」
「黙れ、何も違わぬ、いい加減腹をくくれ」
どこかの鬼の長みたいなことを言ってはふんっとそっぽを向く玉藻前、(不味い…外堀を埋められた)と二人は思う」
「だから結婚の話は!」
そう言ってると、外から、具体的には庭の方から何か聞こえてきた。
「きゃあああああ!」
何かが落下してきたのか、窓の外で上から下に落ちる物が見える。
「なんだ⁉︎」
「今何かが⁉︎」
『おい、結婚の話は?』
永戸と神癒奈は話をはぐらかすように外を見る、玉藻前の渚の二人から冷たい目線を向けられるが、次の瞬間、そんなことも忘れた。
「……あれ? 痛くない……ここは……どこ?」
落ちてきたのは何と少女で、着地前にブレーキがかかったのか、何とかトマトケチャップになるのは防げたようだ。
だが永戸達はそんなことを気にしてなかった。その少女の姿を見て、言葉をなくしたのだ。
その少女は、金髪で碧眼、そして狐の耳と尻尾と、神癒奈にとてもよく似た姿をした少女だった。
同時に、彼女は鈍く輝く剣を持っていた、その剣に対して、永戸は見覚えがあった。
神癒奈は静かに、彼女に聞く。
「……ええと、貴方は?」
「…その声…お母さん?」
『お母さん?』
その場にいた全員が思わず口にする。『今、神癒奈のことお母さんと呼んだ?』と。
「お母さんだ! お母さんの時代に来れたんだ!」
「わっわっ!」
そう言っては神癒奈に抱きつく少女。神癒奈は抱きつかれて室内に倒れ込んでしまう。神癒奈を愛おしそうにすりすりする少女だが、今度は永戸を見るとこんな事を言い出した。
「……あっ…お父さん?」
『お父さん⁉︎』
次々と急変する状況に、一同はついていけなかった。
「お父さんだ! わぁい!」
神癒奈と永戸を親だと呼称する少女は、立ち上がると今度は永戸にすりすりとした。
「なぁ、お父さんだのお母さんだのわけわかんないんだけど、お前、誰だ?」
そう聞くと少女ははっ! となり、永戸から離れては一同に向いてこう言った。
「私は焔月 火乃香! 焔月一族の次期当主にして、お父さんとお母さんの娘!」
『……はい?』
突然の展開に永戸達二人は愚か、その場の全員が思わず硬直したのだった。




