遥か遠くの破滅
それは、人類最後の楽園だった。
世界が滅ぶ中で人々が逃げ込み、作られたその楽園は、世界最後の人々の住処になると、永遠の平和が約束される、そのはずだった。
だが、その楽園はもうそこにはない。
あちこちで火の手があがり、そこに住んでいた最後の生存者達は、次々と化け物に飲み込まれていった。
そんな最後の楽園が虚しい末路を迎える中、一人の天使と一人の狐の少女は走る。
「予想より十年早かった! もうこの楽園は、終焉を待つのみです!」
少女の手を引っ張る天使は、小高い丘にある小さな家の中に入ると、ドアを施錠し、窓をありとあらゆる家具で塞ぐ。
「でもっ! フィーネ! フィーネなら何とかする方法を知ってるんだよね!」
狐の少女はフィーネと呼ばれた天使に、そう語りかける。すると天使は苦しそうな表情で答えた。
「残念ながら。状況は詰みに等しいです。我々に残された道は、破滅のみ」
「そんな……ここまで努力してきたのに、終わるって言うの⁉︎」
狐の少女は外から聞こえる悲鳴を聞きながら、その場で頭を抱える。
「こんな時……お父さんとお母さんがいてくれれば…!」
狐の少女はふと、壁にかけられた額縁の中の剣を見た。その剣は、光を失っていて、鈍く煌めくのみとなっていたが、どこか美しい見た目をした剣だった。
「……仕方がありません! 十年早いならば計画を早めるまで! 火乃香、貴方に…この剣を託します!」
天使が額縁を外すと、中から出てきた剣を抜き、狐の少女、火乃香にそれを渡した。
「でもこれ! お父さんの!」
「えぇ! 貴方が遺志を継ぐのです! 救われなかった我々の世界のようにならないために、貴方がその剣を掲げ、世界を救うのです!」
「でも! 私にはまだその力が、それに、それじゃあここに残るフィーネは!」
「……もう私は老朽化した人形に過ぎやしません、人形一つ壊れる程度、世界を救うことと比べたら、安いものですよ」
そう言うと天使は狐の少女に魔法陣を展開する。
「私が発明した最後の技術、次元転移魔法……これで貴方を、遥か遠くの次元の過去へと飛ばします。そこで貴方は、貴方の父親と母親に出会い、この最悪の運命を回避するよう尽力してください。その術は、向こうの私に託しています」
天使が魔法を使うと、狐の少女の体は浮き上がる。足先からの感覚が徐々になくなっていき、狐は違う次元へと飛ばされ始めた。
「フィーネ!」
狐の少女が泣きそうになりながら天使に手を伸ばすも、転移用の障壁に阻まれ、届かない。だが天使は、そんな少女を晴れやかな笑顔で送った。
「行ってらっしゃいませ。これからの貴方の旅路に、眩い陽と月の光があらんことを」
「フィーネ! だめっ! いやぁあああああ!」
そう言って天使はにっこり笑うと、狐の少女を送り出した。
そして次の瞬間、彼女の胸元が、化け物によって貫かれたのだった。
私達人類は、絶望も、機械の兵士も、地球の危機も、残酷な運命も、幾度となく繰り返されてきた危機を何度も乗り越えてきた。そして、そうやって人類の歴史は続いていくはずだった。
けれどその平和は次元の彼方からやってきた化け物によって容易く崩れ去った。
そして、最後に残った人類も滅ぼされ、私は独り、次元を彷徨うこととなった。これから先、どこにいくかもわからない、どんな運命が待ち受けてるかもわからない、けれど、私の胸の内は決まっていた。
ーこの不条理な運命を、必ず塗り替えてみせるー
その覚悟を胸に、私は泣くことをやめ、英雄達がまだ存在していた時代へと、向かうのだった。




