第51話 カリスマ主夫大公に邂逅し、伝説の武器を手に入れる⑨
重い空気を払拭するように、寿楽は烈に向き直った。
「それでだ、現皇后よ。か弱い皇帝を守るためには強力な武器が必要であろう。この機会に、寿楽棍はそなたに授与しようと思う。持ち主になれば、棍の真の力が解放されるのでな」
「本当に……? やった! 今後も使おうと思っていたから助かる」
烈は、寿楽棍が貰えることを単純に喜んだ。
寿楽は微笑むと、右手を持ち上げ、手招きするように前後に動かした。
すると壁の留め具に収まっていた寿楽棍が、青白い光を放ちながら宙に浮かびあがった。
空中をふわふわと移動し、高座の前まで来ると、烈の膝の上に降りてきた。
烈は、両手でしっかりと棍を受け止めた。
寿楽は棍の説明を始めた。
「これは万能棍でな。本来は武器であるが、家庭でも大活躍する逸品である。わしもこれを使い倒したがゆえに、カリスマ主夫の名を不動のものにしたのだ」
寿楽は南西諸国の皇子の生まれで、幼いころから武芸と大好きな家事に勤しむ生活を送った。
子供も好きだったので、暁に輿入れして女帝と結婚し、後宮という家庭に入れたのは願ってもないことだった。家内を切り盛りする主夫は、彼にとって天職であった。
婿入りしてからは、バリキャリで多忙な女帝を支えるべく、日々家事育児に励んだ。
昼間はぐずる赤ん坊をおぶってあやしながら完璧に家事をこなし、夜は通ってくる女帝を栄養バランスのとれた手料理でもてなした。按摩師の資格までとって妻に尽くしたため、女帝からも愛された。
家事育児の合間には、料理本や編み物本を執筆してベストセラーになるというカリスマ主夫皇配であった。
もちろん家事育児に優れているだけでは、生き馬の目を抜く後宮では生き残れない。
有事の際は、幼い我が子を守るべく背中に括りつけ、寿楽棍を武器として構えた。
「おんどりゃあ! 今日こそはワレを倒してクソガキも始末したるけえ。ワイこそが次の皇配になるんじゃ。主上のハートをゲットしてメロメロにするんじゃけえ!」
とカチコミにくる側室たちと戦って、ボコボコにしていたのである。
「寿楽棍にはどんな力があるの?」
烈はドキドキしながら尋ねた。
神仙武器というからには、とてつもない力を持った棍に違いない。鉄砲水を出したり、大爆炎や竜巻を起こしたりするような強力な必殺技が出せることを期待した。
寿楽は両腕を組むと、得意げに言った。
「これは素晴らしい棍であるぞ。物干し竿としても使えるのだ。洗濯物を干せば秒で乾く。家事が時短できる」
「天気が悪い日も安心!」
「中は空洞になっておるので物が入れられる。乾物などの食べものを入れておくと、戦闘が長引いても栄養補給できる」
「収納上手!」
「先端の鯉の滝登りの文様はスタンプになって、ホットケーキや饅頭に押せる」
「こ、子供が喜ぶ!」
「高速で激しく打ちつければ食材も切れるし、先端が平たいので餅もつけて便利なのだ」
はて、とそこで烈は首を傾げた。
「それは包丁や杵を使った方が早くない?」
「まだあるぞ。木の板の上で高速回転させれば、摩擦で火が起こせる」
「それも火打ち石使った方が楽でしょ」
「わしが憑いておるので、戦う際は有能なナビゲーターとなる」
「それはまあ……いいか。大公がサポートしてくれるのは心強いよ」
烈はつっこみつつ、密かに落胆した。
寿楽棍は真の力を解放しても、強力な必殺技は出そうにない。
家庭用としては便利そうだが、烈は元から家事が嫌いで一切やらない。家族に尽くし、丁寧な生活を実践するカリスマ主婦になる気もなかった。
もしかしなくても、寿楽棍は立派な宝の持ちぐされであった。




