表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蛮勇皇后烈女伝 ~後宮はバトルコロシアム~  作者: kiyoaki
後宮激闘篇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/56

第38話 没落貴族の王氏、お家再興とセレブ生活のため後宮に殴りこむ④

「……とうっ!」

 威勢のいい声と共に、左丞相が雇った女武者が大きく宙を舞う。


 正宮内の大広間に開設された入宮選抜婚活闘技場は、異様な熱気に包まれていた。

 床を壊されると修理が大変なので、羽毛を詰めた分厚いマットが敷かれ、一応にもリングらしきものが作られている。

 烈はバトルコロシアムで、入宮を志願する挑戦者と対戦していた。

 女将軍であることをアピールするため、膝まである詰襟の上着に銀の胸当てをつけ、ズボンと革の長靴を履き、鉄の手甲をはめた垂逸の軍装で出場している。

 北の戦闘民族を代表するかのような、雄々しく隙のないいで立ちだった。

 バトルコロシアムには、大勢の観衆が詰めかけていた。

 福利厚生の一環として、宮城に勤める官なら誰でも観戦することができる。

 技が決まるたびに歓声があがる。

 血肉湧き躍る見世物に、みなは大興奮した。野次や罵声が飛び交い、客席では乱闘も起きている。


 烈は投げ飛ばした相手に駆け寄ると、抱え上げた両足の間に右足を入れ、膝でクロスさせた。右足を軸にすると、なんなくひっくり返した。すかさず腰を落として圧し掛かり、必殺サソリ固め(スコーピオン・デスロック)を完璧にキメた。

 膝や腰をギリギリと締め上げられた女武者はギエエエッと叫び、降参とばかりにバンバンとマットを叩いた。

 審判(レフェリー)がさっと寄ってきて、降参の意志を確認する。

 間違いないとなると、烈の腕を取り、高らかに宣言した。

「皇后さまの勝利! 決闘代理人に圧倒的七連勝! 本日は三人の猛者を撃破し、新たな妃の入宮を阻止!」

 烈はこぶしを突き上げながら吠えた。

素人(トーシロ)がいくらかかってきても無駄だからァ! まとめておととい来な!」

 賑やかしの女官たちが黄色い歓声を送り、花を投げ入れる。

「キャー! 皇后さま素敵ィ~! 抱いてェ~!」

 烈は笑顔で手を振り、ギャラリーの声援に応えた。


 リングサイドの左丞相は頭を抱え、地団駄を踏んで悔しがっている。

「おのれ、おのれェ! 強すぎではないか」

 大金を払って雇った女武者は、試合が開始してわずか三分で敗れてしまい、娘の入宮の夢は潰えた。

 右丞相や他の官僚も、泡を吹いて倒れている。

 外戚にならんとする野望は、蛮勇皇后によってことごとく阻止され、粉砕されてしまった。


 バトルコロシアムは、人事局内廷部に新設された入宮婚活課が管理・運営している。

 烈がリングを降りると、担当の係官が飛んできた。

「皇后さま、お疲れさまでした。本日は以上となります」

「あれ、今日は四人挑戦者がいるって聞いたけど。棄権したの?」

 烈は腕を伸ばし、ポキポキと指を鳴らした。

 すでに三人と対戦したが、弱すぎて肩慣らしにもならなかった。もう少し暴れたい気分である。

「いいえ、四人目の対戦者はどうも挙動が不審でして……。念のため調べたところ、偽名で下着泥棒前科三犯の女装した変態男でした。緊急逮捕して刑吏がシメたところ、『皇后さまの巨乳圧迫悶絶絞め(ボイン・バイン・ハードクラッシュ)を食らいたかった。入宮したら、女官たちの下着を盗んでかぶって食べてハアハアしたかった』などと供述しており……」

「そういうキモいのはチョン切って宦官にしちゃって~! 外廷でこき使っていいから」

「かしこまりました。早速にも宦官製造課に回します」

「審査も厳重にしてよ。変なのは入れないで」

「申し訳ございません。冷やかしや虚偽申請はフルボッコにする旨、周知徹底しておきます」


 とりあえず本日のノルマは終わったらしい。

 挑戦者全員に圧勝した烈は、意気揚々と後宮に戻ることにした。

「皇后さまのご退場~! 一斉拍手!」

 係官が声を張りあげると、割れるような拍手が起こる。

 楽士たちが太鼓や銅鑼を叩き、行進曲のように勇ましい「蛮勇皇后武闘曲~爆裂闘魂のテーマ~」を奏でる。

 烈は勝利のガッツポーズをしながら、バトルコロシアムをあとにした。


 午後はひとしきり雨が降った。

 室内は湿気がこもったが、外はやがて乾いて涼しくなり、さわやかな風が吹いた。

 夜になると舜がやってきた。

 烈は舜と、庭園を眺めながらくつろぐことにした。

 灯篭の明かりで浮かび上がる、春の花々が(あで)やかに美しい。

 露台に出ると、食卓に早速酒や料理の皿を並べさせた。


 舜が腰を降ろすと、待っていたように三毛猫の犬ちゃんがやってきた。

 舜を見上げると、催促するようにニャアニャアと鳴いた。

 ――この激よわモブ皇帝め、我にメシを寄こせ。

 と言っている。

 幸子にしばかれたため、毛を逆立てて威嚇することはないが、舜のことはオラつけば餌をくれる下僕としか思っていない。

 舜は機嫌をよくし、世話係が持ってきた高級干し肉や魚を気前よく与えた。

 すっかりおとなしくなった猫の頭を撫でながら、満足そうに言った。

「荒ぶっておったこれも落ち着いたか。ようやくわしの情けと威光が通じたのだな。よしよし」

 犬ちゃんは不満そうな顔をしたが、特に逆らうことはなくムシャムシャと肉を貪り食らっている。


 ひとしきり猫を愛でると、舜は軍装姿の烈をどこか眩しそうに見つめた。

「そなたは今日も挑戦者を圧倒したそうだな。左右丞相が発狂しておったぞ。強すぎてどうにもならぬとな」

「まーね。正直タイマンなんてヌルすぎてヌルヌルだし。楽勝すぎて準備運動にもならないよ」

 烈はちびちびと酒を舐めながら、なんでもないことのように言った。

 実際、彼女にとって一騎打ちは非常に楽なルールだった。

 真正面から挑んでくる一人だけを相手すればいいのだから、その分力を集中させることができる。

 北にいた頃は、抗争が起きるたびに釘バットや角材を持ってイキるチンピラに取り囲まれ、四方八方から襲ってくる敵と戦っていたのである。

 野戦、乱戦が基本であって、敵の首領と一対一で勝負するようなことは一度もなかった。そんなお上品すぎる戦い方は、蛮族ひしめく北ではありえないのだった。

「左丞相は、皇后にはもっとハンデを与えるべきだといきまいておった」

「これ以上の譲歩には応じないよ。一度許したら最後、不利な条件をどんどん押しつけてくるだろうし」

 烈は顔をしかめながら釘を刺した。

「とにかく私は正々堂々と戦って勝っているんだから、誰にも文句は言わせな――……ん?」

 そこで烈は顔をあげ、耳を澄ませた。霓龍殿の門の辺りが騒がしい。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ