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蛮勇皇后烈女伝 ~後宮はバトルコロシアム~  作者: kiyoaki
後宮黎明篇

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33/56

第33話 烈女、健全な後宮運営のため、バトルコロシアムを開設する③

 夜になると舜がやってきた。

 彼はここ数日で、さらにやつれてげっそりしていた。

 烈以上に、左右丞相とその配下にガン詰めされているからである。

 朝から晩までフルタイムで働いているので、官僚の執拗な奏上からは逃げられないのだった。

 舜を舐めプしている三毛猫の犬ちゃんが威嚇しても、

「やめよ……三毛猫犬までわしを責めるな。許せ。餌をやるから許せ……」

 と、弱弱しく呟くばかりだった。


 二人で夕食をとっていると、急にミシミシという音がして殿舎が揺れた。

 家具や調度品が跳ね、落ちた燭台の火が床に燃え移りそうになる。

 下僕たちは悲鳴をあげ、頭をかかえてその場に突っ伏した。

「なんだ、地震か?」

 舜は慌てふためき、素早く卓の下に隠れた。烈は動じず、椅子に腰かけたままじっとしていた。

 しばらくして揺れが収まると、烈は宦官たちに外の様子を見に行かせた。彼らはすぐに戻って来た。

 どうやら揺れたのは、霓龍殿の建物だけのようで他の殿舎や庭、厩舎等はなんともないという。人的被害もなかった。


 二人は食事を再開したが、舜は怯えたように辺りをきょろきょろと見回した。

 いつの間にか、床を這うようにして黒い霧のような瘴気が漂い始めている。

 霓龍殿は元から有名な心霊スポットであるが、今では夜になるとさらに妖気が増し、異界の入り口のようなおどろおどろしい雰囲気を醸し出していた。

 舜が声をひそめて言った。

「烈女よ、ここは最近とみに禍々しさが増してはおらぬか? 瘴気が濃くなっておるぞ」

「そう? 私は気にならないけどな」

 烈は呑気に答えた。

 ここは、これまでに少なくとも八回は爆発炎上している、戦場も顔負けの後宮である。

 ヤクザの事務所にカチコミに行くがごとく、霓龍殿も討ち入りだか焼き討ちだか籠城だかで何度も激戦地、死地になったに違いない。

 地面を掘り返せば死や不幸を呼ぶ呪物や、白骨死体やキョンシーが出てくるかもしれない。

 恨みつらみその他で成仏できない怨霊や死霊、地縛霊もうごめいているだろうが、烈は気にしなかった。

 心霊や人外であふれる魔窟であっても、自分たちに直接被害がなければ別にいいやと思っている。


 怖がりな舜は、寒くもないのにガタガタと震え始めた。

「わしは気になって仕方ないぞ……。ここの霊力だか妖気だかが異様に高まっておる。このままでは、どのような災いや呪いが降りかかるかわからぬ」

 うーんと烈は腕組みをして考えた。

「さっちゃんに何かあったのかな? さっちゃんが霓龍殿の裏ボスというかドンだから、並の怨霊じゃ敵わないはずだけど」

「さっちゃんとは誰なのだ」

「あんたのおっかさんだよ。陰皇后なのに、陽キャのさっちゃん」

 舜は両手で頬を包むようにして、ヒイイッと叫んだ。

「母上? 地震や瘴気の原因は母上なのか? ……ということは、怨霊と化した母上の暗黒パワーが増幅しておるのか? 邪神復活を果たしたあかつきには、わしやそなたを呪いの波動砲で瞬殺し、人類を滅ぼそうとしておるのか……」

「想像が飛躍しすぎだよ。他はともかく、さっちゃんは息子のあんたを潰して人肉バナナシェイクにはしないよ」

「人肉・バナナ・シェイク……!」

 舜は絶句した。

 顔からサアッと血の気が引き、蒼白を通り越して土気色になった。

「い、嫌だ……。こんな怪奇な家は嫌すぎる。烈女よ、頼む。なんとかして母上を鎮めてくれ。母上の荒御霊(あらみたま)を鎮めて地中深くの石棺に封印してくれ。キョンシーと化していたら、戦って燃やしてくれ」

「なんでそんな面倒なことを私に押しつけんのよ。あんたのおっかさんでしょうが。あんたが直接会って鎮めなよ」

「無理だ、母上は怖すぎて無理だ……。目が合っただけで死んでしまう」

 舜はふらふらと立ち上がった。

 烈の後ろに隠れるようにしてうずくまると、縮こまってしまった。

「も~あんたは私がいないと本当にダメなんだから」

 烈は呆れつつも、舜の肩を安心させるように叩いた。

 嫁姑問題……というほどではないが、旦那が頼りにならないというのは本当だなと思った。


 ――深夜。

 烈は仕入れておいたバナナと侍女たちにあらかじめ支度させた酒肴を持って、居間へと入った。

 昼間は自分が座っている高座の前まで行くと、神妙に正座した。

 バナナを召喚媒体にして幸子を呼び出す。

「さっちゃん、バナナ持ってきたよ~」

 少しすると高座に一陣の風が吹き、派手すぎる虹彩演出とレインボー確変の激アツな効果音と共に幸子が顕現した。純白と漆黒の羽根がひらひらと舞い降りる。

 幸子は輝くばかりの銀髪をなびかせ、瞳は青緑と金のオッドアイだった。全身から謎の白光を放ち、背中には焼け焦げた片翼のみの羽根を背負っていた。

 幸子は得意げに言った。

「どや? 今夜は射幸心を煽る『片翼の(ワンナイト)邪眼(・カーニバル)堕天使(・ルシフェル))~千歳に(ミレニアム・)幽閉されし(クローズドヘヴン)煉獄の(・アンダーヘルズ)光咎人(・ルミナス)~ときめき虹彩スタイル』で攻めてみたんやけど」

「うん、独創的な痛々しさと意味不明さを吹き飛ばすパチンカスのヤングな勢いがあっていいカンジだよ~」

 適当なことを言って持ち上げつつ、烈は貢ぎ物であるバナナを差し出した。

 酒と干物をあぶったもの、漬物といった(さかな)も出して、幸子のための(さかずき)に酒をついだ。

「酒も持ってくるなんて気が利いてるやん」

「私はシゴデキ(仕事ができる)な嫁だからね」


 バナナと酒肴で姑をもてなしながら、烈は尋ねた。

「今夜地震が起きたけど、あれはさっちゃんのしわざ?」

 バナナを肴に酒をあおりながら、幸子は言った。

「そや。自重しよ思たんやけど、ボンが来ると嬉しくてな……つい荒ぶってしもたんや。ボンはほんま幾つになってもかわいいな」

 と、若作りの十代の顔は急に母親のそれになる。

「も~舜がビビって大変だったんだから。さっちゃんを恐れてここに来なくなったら本末転倒でしょ」

「そないゆうたって、ウチは最強の悪の怨霊やから。力の制御がうまくできへんねん。愛する者を抱きしめるための腕を、温かな返り血と悔恨の涙で濡らしてしまうねん」

「そんな中二仕様の設定は貫徹しなくていいからさ」

 舜のやたらに細かい恋愛妄想や設定は母親譲りなのか? と思いつつも、烈も手酌で酒を飲み始めた。

 しんと静まり返った深夜だからか、周囲に下僕の目がないからか、姑が幽霊だからか、不思議な解放感がある。


 二人の密かな酒盛りは続いた。

 幸子はバナナを楽しみながらも、ふっと意地の悪い笑みを浮かべた。

「あんたは最近よく外廷へ行っとるな」

 烈は悩ましげに嘆息した。

「行きたくないけど、政治上の問題について揉めてんだよね……」

「政治? 糖尿病みたいな名前の大臣コンビがおるやろ。それに任せておけばええやん」

「左右丞相のこと?」

「そ。実務は問題ないで。腹黒いけど、あの二人もアホやないしな」

「その左右丞相にガン詰めされてんだよね」

 烈は新たな妃の入宮を拒否していること、そのことで官僚たちと大揉めしていることを話した。


 

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