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蛮勇皇后烈女伝 ~後宮はバトルコロシアム~  作者: kiyoaki
後宮黎明篇

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第28話 烈女、官僚のボスたちの圧力に屈して、新たな妃の入宮を許しそうになる①

 旗茂泯の粛清から数日後――。

 烈は霓龍殿の接見の間にて、旗茂泯の十七人の妻の面接を行っていた。

 先日の粛清事件は正宮で起きた……のだが、セクハラ被害者のプライバシー保護の観点から、旗茂泯が皇后に懸想し、トチ狂って白昼堂々霓龍殿に押し入ったところを駆けつけた猫に成敗されたことになっていた。

 猫のしでかしたことならニャンともできない……という苦しい言い訳と皇后の権力をもってして、真実はもみ消されたのである。朝廷の……いや後宮の恐ろしすぎる闇であった。


 皇后へのセクハラ(?)は、皇帝や暁の宗室への反逆でもある。

 反逆の罪は、当然のことながら本人以外にも及ぶ。

 家族も社会的制裁を受け、世間から白い目で見られてしまうのが常だった。外を出歩くだけで後ろ指を指され、口さがない主婦たちにヒソヒソされて辛い思いをしなくてはならない。

 旗茂泯の家族も、事件を受けて一家離散の大ピンチに陥ってしまった。

 烈は、彼の十七人の妻や使用人に関しては、いったん後宮で雇うことにした。


 彼女は平伏した旗茂家の女たちに、鷹揚に呼びかけた。

「ごめんね、旗茂泯をしばいちゃって。あんたたちにとっては、大事な旦那で金ヅルだったんだよね」

 古参らしき年かさの妻が顔をあげ、ため息をつきながら言った。

「いいえ、主人はキモい上にとんでもないケチでして……。さらには職場の若い子を狙ってセクハラやストーキングを繰り返していたなんて、恥さらしもいいところ……。私どももほとほと愛想がつき、全財産を持って夜逃げしようと思っておりました」

「夜逃げを考えるほどだったんだ。金ヅルにもならない旦那なんて、可燃ゴミでポイするのが一番だね。とにかくここで雇ってあげるからさ、生活は心配いらないよ。仕事もそんなにないし、気楽に暮らせばいいから」

「こ、皇后さま……。なんとありがたき幸せ。地獄に仏とはまさにこのこと。ここならば世間さまの冷たい仕打ちを受けることもなく、安心して暮らせます」

「あ、でも舜は私のものだから。いてこまさないでね」

 冗談なのか牽制なのかわからない申し渡しに、女たちはさっと青ざめた。消え入りそうな声で言った。

「主上にそんなことができるのは、皇后さまだけでございます……」

 そういうわけで、旗茂泯の妻や使用人たちは、花瓶の水を取りかえる係、シロツメクサで花輪を作ってアルパカに飾る係、空に虹が出たらみんなに報告する係など、実働十分くらいのどうでもいい仕事を与えられ、後宮でのんびりと暮らすことになった。


 旗茂泯の妻たちが下がると、今度は官僚たちがわらわらと押しかけて来た。

 用事は他でもない、娘の入宮の許可を取るためである。

 彼らは慇懃に平伏しながらも、密かな圧を込めて烈に奏上した。

「皇后さま、このたびはわが一族の娘が晴れがましくも入宮の運びとなり……主上の妃となるお許しを経て参上つかまつった次第。近々に娘を連れて参りますので、何卒ご面接とご裁可のほどを……」

 烈は彼らに最後まで言わせなかった。憮然として言った。

「えっ、無理」

「む、無理とは……?」

「入宮の運び? 何それ。なんで他の女が舜の嫁になって私の後宮(シマ)へ入ってくんのよ」

「ですから、まずは後宮を統べる皇后さまのお許しを得るために我々はやってきたわけで……」

「舜には私がいるんだから。他に嫁はいらない。却下!」

「は?」

 官僚たちはぽかんとし、互いの顔を見合わせた。

 入宮前の面接など、通過儀礼の一つにすぎない。

 皇后が他の妃の入宮を拒否するなど聞いたことがない。


 烈は、用事は済んだとばかりに席を立とうとした。

 彼らは行く手を阻むように立ち上がって烈を囲み、必死に食い下がった。

「お待ちください。無理とかいらないとかそういう問題ではなく……。一体どのような正統な理由があって、他の女人の入宮を拒否なさいますのか」

「私が嫌だからに決まってるでしょ。それ以外に何の理由が必要? 嫌だから却下すんの、それだけ」

 烈は不機嫌極まりない声で入宮を拒否した。

 言いながらも胸がムカムカしてくる。まったくもって冗談ではないと思った。

 舜と結婚してまだひと月も経っていない。

 後宮の運営を始めとして、家庭はうまく回っている。

 特に問題はないのに、もう新しい妃、側室が入ってくるなんてふざけるなと言いたい。

 新婚早々に皇帝が他の妃のところへ通えば、自分は孤閨を囲う羽目になる。そんなことになったら、烈の皇后としてのプライドはズタズタである。


 烈は男たちを射殺すように睨みつけ、メンチを切った。

「舜の嫁は私だけでいい。あんたたちも冗談は寝て言いなよ。寝てからもお口チャックで黙ってな」

「ですが……」

「ですがもデスマもないよ。それともやんの? 旗茂泯みたいになりたいなら、別に止めないけどさ」

 ヤンキー節が炸裂しそうな烈の剣幕に、官僚たちは怯んだ。

 先日の旗茂泯の粛清、プロレス官僚たちへの熱いお仕置き……内廷門前で職務を果たそうとしただけでブッ飛ばされた宦官たち……。

 正宮を騒がせた一連の事件は、彼らを震えあがらせた。

 暴れ馬どころじゃない皇后を怒らせたら、自分たちもボコボコにしばかれてしまうかもしれない。

 外戚にはなりたいが、命は惜しい……。

 惜しいが……ここで引き下がるわけにはいかない。

 男たちは奮い立った。なにせ家族の食い扶持と一族の存亡がかかっている。

 外戚にあらずば宮人にあらず。

 官僚になって外戚を目指さない者は、男でないどころか、人とも見なされない。

 外戚への熱い夢とかロマンとか私利私欲とか、乱世の奸雄(かんゆう)とか悪の華とか黒幕の相父(しょうほ)とかそんないいかんじの二つ名を持って歴史に名を残したいような衝動に突き動かされて、彼らは懸命に言い募った。

「旗茂中書官の二の舞にはなりたくなりませんが、娘の入宮は諦めきれません。外戚になるために、これまで必死に頑張ってきたのです。皇后さまといえども、官のあくなき夢を粉砕するなど許されません」

「入宮を阻むは横暴なり! 悪道なり!」

 数を頼んで「入宮ガー」「外戚ガー」と喚きたてる官僚たちに、烈もどうしたものかと思案した。

 ここで暴れて家が壊れるのも嫌だし、一方的にしばいてまた舜と喧嘩になるのも面倒である。

 官僚ごときをあしらえないようでは、姑の幸子にお小言を食らう可能性もあった。


「も~仕方ないなあ」

 烈は大仰にため息をついた。

 とりあえず、官僚たちは北の流儀で穏便に追い返すことにした。

 手を叩いて、部屋の隅に控えていた侍女たちを呼んだ。

「アルパカを何頭か連れて来て。アルパカのごはんも持ってきて」

 しばらくして、猫ちゃんを始めとして庭にいたアルパカが数頭連れてこられた。差し出された桶には、新鮮な野菜や果物が山盛りになっている。

 烈は官僚たちに、餌の入った桶を手渡した。

「ほら、あんたたちもごはんあげて。特別に撫でてもいいから。猫ちゃんにはリンゴをあげすぎないでね」

「あ、はい……」

 官僚たちは突然始まったアルパカとのふれあいに戸惑いつつも、律儀に餌を与え始めた。

 アルパカに手ずから野菜を食べさせていると、否応なくつぶらで愛くるしい瞳と目が合ってしまう。

 か、かわいい……。

 彼らはいい歳こいた中年男の分別も忘れ、まるで初恋を覚えたばかりの少年のようにドギマギした。

 ポポポポポポポポ……とアルパカの癒しの波動が展開される。辺りは穏やかで優しい空気が満ちてゆく。


 国家の下僕、すなわち官僚たちは思った。

 宮廷、それは広大な砂漠にぽっかりと空いた蟻地獄のようなもの……。

 家と宮城を往復するだけのせわしない日々……単調な仕事に面倒な人間関係、口を開けば阿諛追従か罵詈雑言、蹴落とし蹴落とされのあくなき権力闘争……これらのなんと虚しいことだろう。

 もうそんなものは、全部断捨離してしまいたい。

 目の前の麒麟をかっぱらって高額転売して、その金で田舎に引っ込んでしまいたい。

 朝夕に美しい田園を散策し、友と酒を酌み交わしながら詩作に励み、たまにえげつないエロ同人誌でも作ってのんびり暮らしたい……。ああ、もうどうにでもな~れ……。

 官僚たちの荒ぶっていた心は、アルパカ戦略ですっかり癒されてしまい、何をしにきたのかも忘れて帰っていった。


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