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蛮勇皇后烈女伝 ~後宮はバトルコロシアム~  作者: kiyoaki
後宮黎明篇

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第25話 烈女、外戚の脅威が迫りくるなか、キモ官僚を粛清する①

 ――朝見の間。

 その日、朝議が終わったあと、舜は居残った十数人の官僚に囲まれた。

 彼らは、皇帝から距離を取りつつも、玉座の後ろに控えた楊源に目配せをした。

 楊源は心得たとばかりに頷き、舜に向かって拱手しながら言った。

「主上、本日は大事なお話がございます。ここにおりますのは甘左丞相(かんさじょうしょう)向右丞相(こううじょうしょう)を始めとして、後宮に娘御の入宮を希望する者たちばかり。どうかみなの忠義と愛国と、外戚宣誓の誠意あふれるお気持ちをお受けとりください」

 舜は何のことか理解できず、困惑気味に尋ねた。

「……外戚宣誓? なんだそれは」

「身内を後宮へ入宮させる際は、正々堂々と外戚宣誓、つまり宣戦布告を行うのがしきたりでございます。後宮もまた仁義なき戦いの場でございますので」

 揚源が厳かに告げると、官僚たちの間にバチバチと熱い火花が散った。

 彼らは、身内を後宮に入れて外戚に成り上がらんとする者の第一陣だった。


 外戚……この魅惑の単語に心躍らせない者はいない。

 なんといっても外戚は、「子供につかせたい職業ランキング」堂々第一位の超人気職である。

 その魅力は、滅茶苦茶すぎる人事と莫大な利権を濫用できることにある。

 親族の女が皇帝に寵愛されているというだけで、学歴なし職歴なしの無職ニートが突然大臣になれたりするのである。一族も全員引き上げられ、コネ就職し放題である。

 科挙? 昇進試験? 地方へ出向して田舎をドサ回り? 知らんわそんなもんオールシカトの無敵状態で出世街道を爆進できる。

 それも皇帝の好みの女をリサーチして後宮へ入れ、メロメロにたらし込めばいいのだから、宝くじを買うよりもよほど勝率が高い。

 皇帝の妃への愛情は、そのまま子供にも直結する。

 娘が産んだ子が皇太子になれば、麻雀でいうところの役満、国士無双か九蓮宝燈でアガリの勝ち確、皇帝に即位すれば皇太后の親戚としてやりたい放題、この世の春を謳歌できる。

 こんな非常識なミラクルがまかり通るのは、世の中広しといえども外戚だけ……まさに夢の職業であった。


 今どき、忠義心だの愛国心だのはクサすぎて流行らない。

 そんなものは、お涙頂戴の時代劇や任侠小説でも読んどけバカヤローである。

 安月給としょぼい福利厚生に耐え、ハードな地方出張をこなし、ムカつく上司やウザ絡みしてくる同僚の暗殺を思いとどまっているのは、すべて外戚にならんがためである。男たちは、野心をメラメラと燃え滾らせていた。

 現在の外戚の筆頭は、新皇后の実家である垂逸国の宗主・那侘弟鼓呼氏である。

 しかし、彼らの本拠地は遠く離れた北方であるし、新皇后は単身で暁に嫁いできたため、宮廷内に派閥は形成されていない。

 これから進出してくるにしても時間がかかる。まだまだチャンスはあると踏んでいた。


 楊源は大きく息を吸い、カッと目を見開いた。

「主上、一世一代をかけて奏上申し上げます。皇后さまのみならず、後宮に新たな妃をお迎えくださいませ。主上の後宮を盛り上げるのが爺の務め、卑小なる命を懸けた一大事業でございます。主上が軽率に結婚しまくってくださいませんと、爺は責任が果たせませぬ。果ては中間管理職の板挟みに懊悩し、苦しみのあまり吐血するほかないのです。爺は、自裁する前に過労と心労で死んでしまいます。爺は、爺はァ……!」

 舜の目は醒めきっている。

「お前はわしが妃を娶らねば死ぬ病気なのか。死ぬ死ぬ詐欺も大概にせよ」

「……御意」

 主に冷たくあしらわれつつも、楊源は官僚たちをホイホイと手招きした。

「とにかく外戚宣誓はお聞き届けくださいませ」

 官僚たちからは、口利き料としてたっぷり賄賂をもらっている。奏上しないわけにはいかないのである。


 官位の高い者から順番に、外戚宣誓が始まる。

 果林党の総裁で、左丞相の甘糖林(かんとうりん)が進み出る。

「主上、うちの娘は顔こそ十人並みですがそれはもう見事な巨乳でございますぞ。乳バーンでドカーンで最高オブ最高ですので必ずやお気に召します。ですが、ご安心めされよ。私は清廉潔白な政治家のイメージで売っていますので、外戚の利権に興味はありません。ホワイトすぎる健全な外戚を目指します」

 と堂々と宣誓した。

 左丞相ともなると、事前のリサーチに抜かりはない。

 あらかじめ楊源に金を掴ませ、皇帝の個人情報を入手していた。

 皇帝の女の好みは、とにかく巨乳第一であるという。

 これは舜の恋愛小説コレクションにおいて「ヒロインの巨乳率が高いから」というしょうもない理由からだったが、新皇后も巨乳である。

 皇帝は皇后のもとへ毎晩通っているというし、巨乳の娘を入れておけば間違いないだろうと考えていた。


 次に喝根党の総裁で、右丞相の向病絶(こうへいぜつ)が鼻息荒く出てきた。

「主上、うちの娘は巨乳ではありませぬが、しとやかで従順ですし、黒魔術も極めていて呪殺も得意です。放置しても文句は言いませぬし、血なまぐさい後宮でも生き残れるポテンシャルを持っています。ここは、ぜひともお傍に置いていただきたく。わしは泥くさい根回し戦術でここまでのし上がってきた政治屋ですので、時々税金をチョロまかすくらいのちょいワル外戚を目指します」

 その他の官僚も、ピカレスクロマンを地でいくダーティな外戚、征夷大将軍になってヒャッハーしたい外戚、娘の嫁ぎ先が見つからず皇帝に押しつけたいだけの外戚、娘がいないので自分が入宮したい外戚、歌って踊れるアイドル系外戚など思い思いの心意気を述べ、外戚宣誓を行った。


「……」

 舜は黙って娘の押し売りと意味不明な外戚宣誓を受けたが、新たな結婚にはまったく気乗りしなかった。

 女は普通に好きだが、妃が何人も欲しいわけではなかった。

 揚源の推測どおり、乳はでかい方がいいが、巨乳でなければ受け付けられないという巨乳原理主義者でもない。

 彼の望みはただ一つ、恋愛がしたいのである。

 それも目が合った瞬間に異世界にふっ飛ばされるような衝撃的な出会いを果たし、戦争や災害に起因する過酷な別離と再会、唐突すぎる交通事故、特に必要のない記憶喪失、難病からの奇跡の復活などのエモすぎる展開を経て双方の愛を深め合い、結ばれたいと願っていた。

 結婚とは、あくまでも波乱万丈な交際、相思相愛の先にあるゴールであって欲しい。

 現状、政略結婚した烈の相手だけでもヒイヒイ言っているのに、さらに妃を娶るのは精神的肉体的にも厳しいものがあった。

 これでは、中華の皇帝あるあるな腹上死コースまっしぐらな気もする。


 皇帝の心中を慮ることもなく、さらに揚源は言った。

「主上、斜陽宮ならぬ秋霜宮からも女官が再入宮を希望しております。現在わが国では人生再チャレンジキャンペーンを開催中でございます。これらの女人も審査を経て、後宮に受け入れなければなりますまい」

 舜は驚き、はあ? と素っ頓狂な声をあげた。

「秋霜宮……? あそこは父帝の側室が住まうところではないか。父の妃が息子とつがうなど……ありえぬ。禽獣にも劣る野蛮な婚姻である」

「とは申しましても後宮華麗三千人。先帝のお手がつかなかった女官も多くおりますので。その者たちは、位階はあれども妃の扱いにはならないのでございます。主上と歳の近い女人も多く、ワンチャンで敗者復活戦に賭けようとするのも当然かと」

「そういうものなのか……」

「そういうものでございます。これ、姫君たちの肖像画を持ってまいれ」

 楊源が命じると、部下の宦官が長卓と肖像画の紙の束を運んできた。

 楊源は見合い用の肖像画を卓の上に慎重に並べた。

「とくとご覧ください。どれも美人ぞろいでございますぞ。お好みの女人を幾人でもお選びあそばせ」


 舜は仕方なく卓上の肖像画を眺めた。

 肖像画といってもこの時代、写実的な画法などは確立していない。

 どの女も、のっぺりとしたしもぶくれの顔に糸目、細長い鼻、おちょぼ口で澄ましかえっている。違うのは眉の形や髪型くらいだった。

 差別化のためか役者のように見栄を切り、目の周りに黒の隈取りをしている女もいるが、人間に化けて女装したパンダにしか見えない。

「どれも同じ顔かパンダにしか見えぬが……」

 舜が正直に言うと、甘糖林がガッと身を乗り出した。

「なんと! わが娘は絵師に金を積んで、原型をとどめぬほど盛りに盛ったのですぞ。十人並みとはいえ、ここは絵面の美しさを堪能していただきませんと。そのままうっかり騙されてくださいませんと」

「本人の原型をとどめてない肖像画に、何の意味があるのだ……。これでは出会い系詐欺ではないか」

 舜は不服だったが、糖林たちは引き下がらない。

 なんとしても娘を入宮させる、それが許されないならストライキも辞さない覚悟だった。


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