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蛮勇皇后烈女伝 ~後宮はバトルコロシアム~  作者: kiyoaki
後宮黎明篇

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第23話 烈女、バナナの怪でキョンハラしつつ、家憑きの義母と同居を始める②

 ――夜。

 いつものように房事が終わると、烈は舜に尋ねた。

「ねえ、あんたのおっかさんのことだけど……バナナが好きだった?」

 舜はぐったりとして口からエクトプラズムが出かけているが、毎夜の蛮行にも慣れたのか気絶はしなかった。かろうじて意識がある。

「あんたの、バナナが好き……?」

 烈の問いに、舜は困惑した。少しして気恥ずかしそうに言った。

「烈女よ、いくらわしのことが愛しいからといって……終わった途端にまた求めるとははしたないぞ」

「なんで照れてんのよ。あんたのバナナはどうでもいいよ。聞いてるのは前の皇后のこと。前皇后はバナナが好物だったの?」

「……さあ、知らぬ」

「知らないんだ。親なのに」

 舜はぼんやりと天井を見つめた。

「わしは三歳で成山王に封ぜられて以来、領地の成山と都を往復する生活でな。いつも後宮にいたわけではないし、母上と会うのも年に数回であった。そのせいで、母上の死に目に会えなかったのは親不孝であったが」

 烈は、デートの際に栄春が話していたことを思い出した。

「前皇后は先帝と無理心中をはかって手討ちになったって聞いたけど」

「父上と無理心中? そんなことはありえぬ」

 舜は横を向き、怪訝そうな顔をした。

「流言飛語もいいところである。父上が手打ちされるならともかく……。皇帝とはいえ、ただの人類があの母上を倒せるはずがない」

 母親の不名誉な死の噂をきっぱりと否定した。

 なんか思っていたのと話が違うなと烈は思った。

「人類がかなわない相手だったんだ」

「生前の母上は、後宮どころか暁で一番の猛者であった。怒らせると手がつけられなくなって、父上も兄たちも問答無用でブッ飛ばされておった。わしがここに近づかなかったのは、ひとえに母上が恐ろしかったからだ」

「舎弟の話じゃ、今では怨霊になって棲んでるらしいけど」

「やめよ、やめよ。そのことは考えないようにしておるのに。声にしたら来るぞ」

 舜は怯えたように布団を頭からかぶってしまった。

 そのままエビのように身体を丸めて、ぶるぶると震えている。


 ――翌日の深夜。

 舜が寝てしまった後、烈は新たに入手したバナナや武器、呪札、清めの塩などを持って居間へ行った。

 バナナは昼間も手もとに置いておいたが、盗まれることはなかった。

 狙われるのは、やはり夜から朝方にかけてのようである。


 烈は居間の中央に腰を降ろした。

 目の前に釣り餌となるバナナを、右側には桃の木から作った桃木剣、左側に呪札や塩を置いた。

 悪霊退治にあたり、準備したのはキョンシー用の武器だった。

 中華の魔物といえば、毎度おなじみのキョンシーである。

 怨霊や悪霊のたぐいも、たぶんキョンシーかキョンシーの親戚だろう。キョンシー対策さえしておけばなんとかなるという、キョンシーが聞いたら名誉毀損で訴えてきそうないい加減な作戦だった。

 キョンシーは火攻めで燃やすか、桃木剣で刺せば倒せるという。火攻めにすると殿舎も燃えてしまうので、桃木剣で倒そうと烈は決めていた。

 怖くはないものの、北にキョンシーはいなかったし、戦ったこともない。

 おそらくは初めての敵との対峙。

 静まり返った居間には、ピンと張りつめた緊張感があった。


 燭台の灯がかすかに揺れている。

 不意にふっと冷たい風が流れた。烈の背後に不穏な気配が立った。

 ――何かが、来る。

「……っ!」

 空を斬って突き出されるもの。

 烈は寸でのところで身体を捻り、繰り出された一撃をかわした。

 床に手をつき、這うようにして飛びすさる。野猿のような俊敏な動きだった。

 闇に得体の知れないものがひそんでいる。

 狙いをつけてさっと足払いをかける。しかし、足は何にも掠らず、床をすべっただけだった。


「ウチの突きをかわすとはやるやん」

 上空から若い女の声がした。揶揄するような響きがある。

「誰? 隠れてないで出てきな」

 烈の鋭い声に、女はくくっとしのび笑いをもらし、ゆっくりと姿を現した。

 女の姿が燭台の灯によって浮かび上がる。

 それはふわふわと宙に浮かぶ半透明の少女だった。

 息を呑むほどの美貌であり、豪華な絹の衣をまとっている。

 高く結い上げた髪に、バナナの皮を模した小さな帽子をかぶっていた。


 烈はすばやく桃木剣を拾い上げた。

「出たね、キョンシー」

「キョンシーちゃうわ」

 烈は構わず、剣をまっすぐ繰り出した。

 確かに突いたと思ったが、手ごたえがない。剣は幽霊の身体を通り抜けただけだった。

 幽霊は口に手をあて、アハハハと高らかに笑った。

「アホかいな。効くわけないやん」

「なんで?」

 烈は何度も剣で幽霊を突いた。縦横無尽に薙ぎ払った。

 どれも半透明な身体を空振りするだけで、攻撃が効いている様子はない。

 烈は剣を握りしめながら思わず吠えた。

「これキョンシー用の武器じゃないの? 偽物を掴まされた?」

「だからウチはキョンシーちゃうて」

 幽霊のつっこみも聞かず、烈は呪札を拾った。

 この呪札をキョンシーの頭に貼れば、呪縛パワーでビリビリな電撃が起き、おとなしくさせることができるらしい。

 呪札を幽霊に貼ろうとしたが、これも透きとおった顔をすり抜けるだけだった。

「はあ? これもだめなの?」


 悔しそうに歯噛みする烈に向かって、幽霊は両手で印を組んだ。

 美しい唇を上向きに反らせて、にやりと笑った。

「もう終わりなん? ならウチからいくで」

 おどけるように宙で一回転すると、呪文らしきものを唱えた。

「否異世界召喚也也、否地産地消也也、特急爆速通販生活来来也也……妖術・婚姻贈物大量初鰹瀬戸内海峡春景色!」

 呪文が終わると、ブウウン……とにぶい音がして、烈の頭上に大きな穴が開いた。異空間につながる通販ゲートだった。

 そのゲートから、何かが落ちてくる。

「うわっ」

 烈は慌てて逃げた。

 次の瞬間、ゲートからボタボタと大量のカツオが落ちてきた。

 カツオは冷凍ではなく生きていて、床の上をバタバタと跳ねまわる。鮮度抜群の海産物直輸入であった。

「あ、危なかった……」

 間一髪のところでカツオ乱舞攻撃から逃れた烈は、心胆寒からしめぬものを感じた。

 重く巨大なカツオの直撃を食らっていたら、無傷ではいられなかった。


「つ、強い……」

 たおやかな見た目にそぐわない幽霊の実力、ピチピチとした初カツオを前に、烈はカルチャーショックを受けた。

 烈は物理専門の戦士である。

 格闘技と武器を用いた武術を駆使して戦う。

 北の蛮勇の地は力がすべて。こぶしで殴り合えば、大抵のことは解決する。

 しかし、暁は中華の地。

 中華といえば、道術に幻術、妖術の本場である。

 ここでは、武術の他にも幽玄道士と呼ばれる修験者やあやしげな術者が繰り出す摩訶不思議な技が幅をきかせているのだった。

 キョンシーが高速通販妖術を使って、大量のカツオ攻撃を繰り出した……その事実は烈を打ちのめした。

 彼女は茫然と呟いた。

「嘘でしょ。キョンシーが妖術を使うなんて……」

「キョンシーちゃうゆうてるやろ。キョンシーハラスメントはやめえや。いい加減にせんとどつくで」

 つっこむ幽霊の声は、もはやキレ気味である。


 桃木剣も呪札も効かない。相手は専門外の妖術を使う。

 烈は最後の手段とばかりに、ヤケクソ気味に塩を掴んだ。

「えーい、これでもくらえ!」

 と叫びながら、幽霊に塩を投げつけた。

「あ、あいた! いた! 痛いやん!」

 初めて悲鳴らしきものがあがった。

 塩を浴びた幽霊は恐怖に顔を引きつらせ、烈が撒くそれから逃れようとする。

「あれ、塩対応は効くんだ。じゃ、これで成敗しよう」

「やめえや、痛い! 痛いから! しょっぱい!」

 幽霊はふらふらと居間を逃げ回り、烈は追いかけて塩を投げ続ける。

 しばらく塩攻撃が続いたあと、幽霊はとうとう怒鳴った。

「何さらすんや、このアホ嫁が。姑に向かって塩撒くなんてなんちゅう態度や」

「……えっ、姑?」

 烈は塩を投げるのをやめた。

 二人の間には重い沈黙が流れた。

 烈は嫌すぎる想像に顔をしかめながら、恐る恐る尋ねた。

「もしかしてさ……あんたが舜のおっかさん?」

 幽霊は怒りに震えながらも、真顔で答えた。

「そうや。四番目のボンはウチの子や」

「……マジ?」

「まじやで」

 少し間を置いて、烈はギャアアアアと野太い悲鳴をあげた。


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