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蛮勇皇后烈女伝 ~後宮はバトルコロシアム~  作者: kiyoaki
後宮黎明篇

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第22話 烈女、バナナの怪でキョンハラしつつ、家憑きの義母と同居を始める①

 朝、舜を正宮へ送り出すと烈は早速にも美的宦官を召し出した。

 鬼の居ぬ間に洗濯……ではないが、目の保養は日課にしたい。

 栄春はすぐにやってきた。いつも影のようにつき従っている涼鴛の姿は見えなかった。

「涼鴛はどうしたの?」

 と尋ねると、栄春はしばし逡巡した。

 風流な言葉を選んで言った。

「涼鴛でしたら出張に。昨夜、秋霜宮(しゅうそうきゅう)からご指名があり、尋花(じんか)の宴席に侍っております」

「尋花の宴席……?」

「花を尋ねて柳に問う、春の遊びですね」

 栄春はちらりと意味深な流し目をくれた。

「まあ、時間制ではありませんから。後朝(きぬぎぬ)の別れに手間取っているのやもしれませんが……」

「あっ……」

 烈は察した。涼鴛は、本来の役目で後宮の外へ出張しているのだった。


 秋霜宮は宮城の西の一角にあり、今は亡き先帝の妃たちが暮らしている。女たちの園であるが、後宮からは独立している。

 皇帝が崩御して喪が明けると、後宮は人員整理が行われ、皇后以外の妃嬪は秋霜宮に移る。彼女たちは寡婦手当てという名の年金をもらいながら、のんびりと余生を送る。

 美的宦官はその役目上、後宮よりも秋霜宮の方に多く棲息していた。

 烈は秋霜宮に行ったことはなく、行く予定もなかった。

 皇后が仕えなくてはいけないのは皇帝の母である皇太后のみで、先帝の妃嬪に(おもね)ることはない。舅の側室たちとの交流はなかった。


 涼鴛はチャラついた派手な顔立ちながら、寡黙でおとなしい性格の男だった。話しかければ答えるが、自分から口を開くことはない。

 烈は、涼鴛の声を数えるほどしか聞いたことがなかった。

 舜より口下手なのに意外だ……と思いながら言った。

「涼鴛はこういう出張多いの?」

「ええ、後宮へ異動しても指名は引きも切らずでして。宴席に侍れば、お小遣いも沢山いただけますし。私よりも稼いでいると思いますよ」

「へ~。売れっ子なんだ」

「美的宦官も色んなタイプを揃えていますが、涼鴛みたいなギャップ萌え系が一番モテますね。チャラい見た目に反して寡黙で真面目……この落差をかわいらしく思われてハマるお妃さま方が多いようで。口も堅いですし、遊ぶにはもってこいの男です」

「確かに。熟女に受けがよさそう。栄春は高嶺の花すぎて、指名するのも気が引けちゃうもんなあ。きれいすぎると、もう見てるだけでいいや~てなっちゃう」

「そんなきれいすぎる私ですが、皇后さまのご指名でしたらいつでも大歓迎ですよ」

「うーん、それはできないな。舜が泣いちゃうもん」

 と適当にイチャついていると、侍女が数名そばにやってきた。

 その顔は一様に青ざめている。


 侍女たちは、霓龍殿に届けられる進物の管理係だった。

 烈の前に平伏すると言った。

「皇后さま、申し訳ありません。実は南の太守が贈ってきた進物のバナナが……目を離した隙になくなってしまいまして」

「バナナが?」

「はい。規則通りに、献上品は厳重に管理しておりました。高価なお品物ですので、鉄篭(てつかご)に入れて鍵もかけました。バナナは昨夜までは確かにあったのですが、朝見たら消え失せており……。先ほどから総出で探しておりますが、見つからないのです」

 バナナは南方からの輸入品で、早馬をついで都へ運ばれてくる。暁では富裕層に人気の贅沢品で、バナナひと房が銀一粒と交換されていた。

「なんでだろ。誰かが盗ったのかな?」

 烈は特に何も考えずに言ったが、侍女は別の意味にとらえたようだった。

「ち、違います、皇后さま。私どもにやましい心はありません。けして盗んだわけでは……。お上のものに手をつけるなんて、そんな大それたことはできません」


 侍女たちはガタガタと震えだした。

 宮城内での盗みは大罪である。窃盗を疑われるだけで不名誉であるし、犯人と決めつけられたら厳罰は免れない。

 後宮の場合、盗みを犯した者は杖罪で百叩きの刑……ではなく「塩対応の刑」に処されることになっていた。

 特定の期間、食べるもの飲むものすべてに塩を入れられて、しょっぱい思いをしなくてはいけないという陰湿かつ恐ろしい刑罰だった。

 同僚からも完全無視され、総スカンをくらってしまう。塩分過多で高血圧になってしまうリスクもあった。


 盗んでいなくとも、バナナ紛失の責任をとらされる可能性もある。

 侍女はがばりと身を伏せた。

「皇后さま、どうかお許しを。家には病気の父と幼い弟妹が……。私が塩対応の刑に処されたら、家族は後ろ指を指され、村八分にされ……到底生きてはおれませぬ。バナナは皇后さまのおやつであり、麒麟さまにも奉納するものでございましたが、弁済いたしますゆえなにとぞお許しを」

 と泣きだしかねない勢いで土下座した。

 烈はどうしたものかと迷った。

 正直、バナナがなくなったくらいで罰するのは狭量な気もするが、後宮の綱紀の緩みにつながるのも避けたい。


 そこに控えていたお局がさっと寄ってきた。

 彼女は宮城に長く勤めているため、後宮内の噂もよく耳にしていた。

「皇后さま、バナナがなくなるのは今回が初めてはありません。霓龍殿やその他の殿舎でもバナナが搬入されると、なくなってしまうことが多く。どんなに厳重に仕舞っても夜のうちに消え失せてしまうのです」

「バナナが消え始めたのはいつから?」

 烈が尋ねると、お局は気まずそうに口ごもった。促されると声をひそめた。

「その、前の皇后さまが身罷られてからです」

「前の皇后……舜のおっかさんね」

「バナナを守るために、兵士を呼んで不寝番を立てたこともあったとか。しかし夜が更けると、何者かにどつかれて意識を失ってしまい……。運悪く意識を戻すと、そこにはバナナを食らう血まみれの前皇后のお姿が……。目が合うとニタリと笑われて……地獄の底から響くような声で『バナナはおやつに入らへんねん……』と」

 ヒイイイイッと侍女たちは悲鳴をあげた。

 朝からまさかの怪談、想像するだけでも身の毛がよだつ後宮バナナの怪である。


 烈は怯える女たちの中にあって一人冷静だった。

「前皇后がバナナを盗ってる……?」とひとりごちた。

 お局が拾って答えた。

「幻覚を見たか、出まかせの可能性もありますが。それでも、前皇后さまの怨霊が出るのは有名な話です。霊感がある者は、みな一度はお姿を見ていると聞きます」

「やっぱここに棲んでるんだ……」

 ただの盗人なら捕まえてボコればいいが、バナナ紛失に前皇后が関わっているかもしれないなら厄介だ。

 向かうところ敵なしの烈であっても、嫁姑問題となると話は別である。

 後宮の頂点に君臨する皇后も、義理の母親には頭があがらない。姑にはかしずく、それが嫁としての務めであった。


「バナナ泥棒はなんとかしたいけど、姑なら面倒だな。どうしたもんかな」

 と悩んでいるとそれまで黙っていた栄春が口を開いた。

「バナナ泥棒が前皇后さまと決まったわけでもないでしょう。無関係の悪霊の仕業かもしれませんよ。皇后さまに仇なすようであれば、退治もやむをえないかと。念のため退魔用の武器を準備された方がよろしいのでは」

「それもそうだね」

 烈は栄春の提案に乗ることにした。

 後宮の治安を守るのも皇后の仕事。

 霓龍殿での窃盗が悪霊の仕業なら、この機会に成敗してしまえばいい。

 烈はバナナ紛失の罪や責任に関しては、いったん不問にすることにした。

 栄春のアドバイス通りに、従僕たちに街へ行って新たなバナナや桃木剣(とうきけん)、呪札などを仕入れてくるように命じた。


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