第21話 烈女、朝議デビューを果たし、皇帝をセクハラでたらしこむ③
烈は楊源から視線を外し、舜に向かって言った。
「誤解だってば。寵愛なんてしてないし。美的宦官は後宮の福利厚生だから。間違いがあっちゃいけないから、傍に置いているだけ」
と強気で説明するものの、舜の目は暗い疑心に満ちている。
「確かに、後宮は皇后の管轄である。母上が存命の頃も、一切口出し無用であった。ここの伝統や規則に目くじらを立てるつもりはないが……。しかし、美的宦官は陽物がついたままというではないか。下働きならともかく、そのような者を早々に側仕えにするなど……」
と不満そうに言った。
「近習として雑用に使っているだけで、何もないよ」
「毎日のように侍らせて談笑していると聞いたが……」
自分との会話は、雑に扱われているような気がして舜は面白くない。
「もしかして、あんた妬いてんの?」
「ち、違う。わしはただ後宮の風紀が乱れるのを心配してだな……」
「乱れさせはしないよ。ここは私が仕切る私の後宮だもの」
「……」
舜は烈に押しきられて黙った。
烈は舜の目を見ながら、きっぱりと言った。
「顔がいい男を傍に置くけど、これは目の保養であって浮気はしない。私が抱く男はあんただけだよ」
「……へ?」
舜は思わず、間の抜けた声を発してしまった。
烈の言ったことを理解すると俯き、頬を赤らめた。
一体これは何を言い出したのか。……これではまるで、口説かれているようではないか。
「や、やめよ……。いきなり何を言うか。恥ずかしいではないか」
「ここで暮らしていて恥ずかしいも何もないでしょ。あんたも私も衆人監視されて、一人にはなれないんだから。昼間に浮気なんてできないし、毎晩のギシアンだって全部筒抜けだし」
「やめよ……やめよ……」
「あんたと寝るために、毎晩正宮まで迎えに行かせているわけだしさ」
「や、やめ……」
とうとう舜は両手で顔を覆い、ふるふるとかぶりを振った。
わかってはいるが、声にするなと言いたかった。
「抱くだの、寝るだの直球すぎであろう。こ、これは皇帝に対するセクハラであるぞ」
「セクハラじゃないよ。大事な会話」
「……会話。そ、そうなのか」
「うん、夫婦だから」
「夫婦……」
「私の嫁はあんただけ」
「……? つまり、わしの旦那はそなただけ……?」
どういうこっちゃと思いながらも、突然の愛の告白めいたものに舜の心はときめかないこともなかった。
「お前は骨の髄まで俺のもの」「いいから俺のものになれ」……恋愛小説にありがちなオラオラ系イケメンの決め台詞が、脳内でリフレインする。
そんなことを烈は言っていないのだが、舜の中の熱い恋愛妄想が勝手に置き換えてしまっていた。
まさか……?
これまでそんな気配はしなかったが、これはもしや……とんでもないツンデレなのでは?
もしかして自分はどちゃくそに愛されている……?
本当は大好きなのに、不器用な感情が即物的な愛欲に走らせて、蛮勇をもって激しくいてこましてしまう……?
これは溺愛される予感なのか?
マイライフは、恋に生きて愛に死んじゃう……?
舜の胸は、淡い期待にうずいた。勝手に感動すら覚えていた。
彼はもはや涙声になりながら言った。
「わ、わしは皇帝でそなたの夫なのだ。わしを裏切ったら許さぬからな」
烈は自信たっぷりに言いきった。
「裏切らないってば。だから安心しなよ」
「ううっ……安心できぬが、そなたの愛を信じたい……」
舜は低く呻いた。
なんだかもうよくわからないが、ここまで烈に愛されていては仕方ない。
愛は信じて突き進むもの、信じられなくなったらそれはもう愛ではない。あとは破滅のみが大口を開けて待っている……。
舜は深くため息をついて観念した。
美的宦官との、浮気だか浮気未遂だかの追及は諦めざるを得なかった。
楊源や侍女たちは、神妙な顔をして後ろに控えながら「これが恋愛未経験の皇帝をたらしこんだ結婚詐欺師の手口か……」と感心しきりだった。




