第20話 烈女、朝議デビューを果たし、皇帝をセクハラでたらしこむ②
居間の高座に腰を降ろすと、三毛猫の犬ちゃんがとてとてとやってきて膝の上に乗る。デブ猫の重さをものともせず、烈はくつろぐことにした。
栄春が涼鴛に命じて烈の肩を揉ませた。
涼鴛は烈の肩に絹の布をかけ、その上から的確にツボを押してゆく。
男ならではの力強い揉みほぐしがなんとも心地よい。烈はひと仕事を終えたあとの解放感に包まれた。
お茶くみやお菓子係の侍女もすり寄ってきて、そつなく給仕をする。
お気に入りのイケメンを侍らせてチヤホヤされる。
マッサージを受け、さらにお茶、お菓子も供されて口さみしくなる暇もない。
いたせり尽くせりの、まったりとした極上の時間が流れた。
烈は悦に入りながら、目を閉じた。
「あ~やっぱフルタイム皇帝はきついな。パートタイム皇后くらいでいいや」
少しして「……フルタイム皇帝とは?」と栄春が控えめに尋ねてくる。
「ん~気にしないで。こっちの話」
呑気な振りをして、烈はさりげなく話題を変えた。
夜になると、舜がやってきた。
烈は皇帝光臨の先触れが来た時点で、栄春と涼鴛を下がらせた。
舜が入ってくると、三毛猫の犬ちゃんがシャーと毛を逆立て、しきりに威嚇した。舜が手を伸ばすと飛びすさり、爪で引っ掻こうとする。
毎日会っているのに一向に懐く気配のない猫に、舜はしょんぼりした。
「なぜに三毛猫犬は、わしを目の敵にするのだ」
烈があっさりと答えた。
「そりゃ舐められてんのよ、あんた。こういう手合いは出会いの一撃で黙らせなきゃ」
「……」
思えばこの女もそうだった……。
出会いの一撃で完敗して結婚する羽目になった舜は、なんともいえない微妙な気持ちになった。
夕食のあとはデザートに雪花氷が出た。
乳と砂糖を煮詰めたものを冷やして固め、細かく削った氷の上に、小豆や緑豆や菊の形に切り抜いた大根などを蜜で煮たもの、薄切りの果物などが乗っている。
烈は雪花氷のふわっとした食感に、感嘆の声をあげた。
「わっ、オシャンティだしおいしい~」
舜が匙ですくう手を止めた。
「オシャンティとはなんなのだ。北の方言か?」
「うん、とてもオシャレという意味。主に南の暁のものを褒めるときに使うね」
「南以外のものを褒めるときはなんというのだ」
「オシャオシャ」
「オシャオシャ……」
「オシャレの最上級はモノゴッツーオシャ。オシャレ・オシャンティ・モノゴッツーオシャの三段階で活用する」
「モノゴッツーオシャ……」
絶対に使うことはないだろうなと思いつつ、会話の糸口を掴めたことに舜はホッとした。
ここ数日、彼は気になっていることがあった。悩みといってもいい。
舜は探るような目つきになった。
「ところで烈女よ。爺が申しておったが、そなたは傍に美的宦官なる者を置き、日々寵愛しておるそうではないか」
旦那からの突然の追及に、烈はあやうく口に含んだ氷を吹きそうになった。
咳き込んだあと、舜の背後に控えた楊源をきっと睨みつけた。
「ちょっと、楊爺。早すぎ。なんで舜にチクってんのよ」
楊源は背筋を伸ばし、当然のように言った。
「皇后さま、後宮のことであっても爺に隠しごとはできませぬぞ。すでにここの宦官も幾人か買収しておりますゆえ、いかなる些細なことも爺の耳に入ってまいります。主上の御為を思えば、霓龍殿の男出入りの仔細をご報告申しあげるのは当然のこと」
「今更、男出入りも何もないでしょ。男ならそれこそ毎日出入っているよ」
と、烈は呆れながら反論した。
申請が必要とはいえ、霓龍殿にはアルパカ詣でのために官僚や一般の男性客も入ってくるし、後宮に暮らす女官の父兄も訪ねてくる。
宦官でまかなえない職種は、男性の職人が入ってきて働いている。
彼らは宵までには必ず後宮の外に出されてしまうが、昼間は仕事がてら観光がてら自由に闊歩している。男子禁制の規則など、あってなきがごとしだった。




