第17話 烈女、恋愛強者の美的宦官に惑いつつ、デートを楽しむ②
烈は再び栄春を見つめ、惜しむように言った。
「暁ではあんたたちみたいな美形も宦官にしちゃうんだ。勿体ないね……」
暁の文化風習は好きだけど、ちょっとこれは理解できないなと思った。
栄春は平然と言った。
「私たちはついていますよ」
「えっ、そうなの?」
「はい、去勢されてはおりません。生殖機能も残されていますので、お上のお許しがあれば子も持てます」
部屋の隅に控えた女官たちが、きゃああと黄色い歓声をあげる。
超絶美形な上に、身体的にも完全に男である。女たちに魅力的に映るのは当然だった。
烈は少し混乱した。
「ついているなら宦官じゃないでしょ。男の官僚と何が違うのよ」
とつっこむと、栄春は少し恥ずかしそうに目を伏せ、口もとに優雅に袖を当てた。
「そこはまあ……なんといっても後宮に入れる男は皇帝陛下と宦官のみというのが建前ですから。后妃のお傍に侍る男は名目上、全員が宦官になるのです。私どもは特別な宦官、美的宦官なのです」
「美的……宦官」
「選ばれし美貌の男は、美的宦官として仕えることが許されます。イケメン以下や罪人はチョン切られますけどね。フツメンもアウトです」
「厳しい」
「なんといっても人は見た目が十割ですから」
顔面偏差値がカンストしている栄春は、美的宦官の証に衣の袖を指し示した。
彼は紺青色の絹地に二重格子の柄を織り込んだ官服を着ている。涼鴛はそれよりも薄い藍色のものを着ていた。
楊源などの上級宦官は黒の官服を着、その下は濃い灰色、さらにその下は鼠色と、官位が下がるにつれて衣類の色は薄くなっていく。
美的宦官の衣服は華やかな青系で統一され、素材も上等である。普通の宦官とは違うスペシャルな待遇であることを示していた。
烈は、少々呆れながら言った。
「服以前に顔を見りゃ一発でわかるよ。あんたの美しさは段違いだから」
「恐れ入ります」
「正直、あんたみたいなのが後宮に配置されるのはどうなのかとも思うけどね」
この美貌ゆえに問題が起きるのではないか……と烈は危惧した。何をしなくても、血の気が多い女たちが彼を取り合って刃傷沙汰になりそうだ。
栄春は眉をひそめ、困ったような顔をした。悩める様まで匂いたつように美しい。
「と言いましても、美的宦官は後宮のための福利厚生要員ですから。ここに置いていただくより他はなく」
「福利厚生? 後宮の?」
「はい、男ばかりの職場にわざと若い女官を入れるのと同じです。男たちは女の子にいいところを見せたくて仕事を頑張るでしょう? 女性ばかりのところにも、モチベーションを上げる男を投入するのです」
そこで栄春は声をひそめ、囁くように言った。
「というのは表向きの話。美貌や芸事で楽しませるのは勿論のこと、寵愛を失った后妃や未亡人のお相手をするのが本来の務めです。今の時代、待っているだけでは才色兼備の女性は集まりません。後宮を魅力的な職場とするべく、上も色々と試行錯誤しているのです」
「あっ、そーいう……」
烈は察した。
後宮へ入っても皇帝の寵愛を得られなければ、得られても夜離れしてしまえば、妃たちは孤閨を囲うばかりである。
皇帝は来ねえ、イケメンもいねえ……のないない尽くしでは「じゃあ何を楽しみに生きていくんだ、ふざけんなバカヤロー」となってしまうし、ヒステリーを起こして暴れられてはたまらない。
そういうやさぐれた女たちを慰撫するためにも、美的宦官は配置されるのだった。
烈はすっくと立ちあがった。
栄春はあまりにもタイプすぎる。外廷に戻せないなら、雇うのはやぶさかではない。
しかし、ここでは人目があるし、女たちを無駄に刺激してしまう。
どこか静かな場所で二人きりで話したいと思った。
「散歩に出る。栄春は供をして」
栄春に続いて涼鴛も立ち上がろうとしたが、烈は鋭く目で制した。
「あんたはここに残って。適当にチャラついてて」
「は、はい……」
暗に邪魔すんなと言われた涼鴛は、残念そうに俯いた。
これは浮ついた見た目に反して、おとなしそうな男だった。




