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蛮勇皇后烈女伝 ~後宮はバトルコロシアム~  作者: kiyoaki
後宮黎明篇

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第16話 烈女、恋愛強者の美的宦官に惑いつつ、デートを楽しむ①

 舜は、結婚後も毎日律儀に後宮へやって来た。

 彼としては、宮城にいる限りは、夜は正宮の居室で過ごすか、後宮に泊まるかのどちらかしかない。

 一応にも新婚であり、烈からの圧力も怖く、彼女に仕える宦官たちが毎晩迎えに来ることもあって、霓龍殿へ行かざるをえないような雰囲気になっていた。

 烈のところへ行くと、当然ながら夜のお勤めが待っている。

 寝所へ入るというか、連れ込まれるというか、とにかく閨房では有無を言わせぬ蛮勇の嵐にもみくちゃにされる。

 恋愛小説などでよくある、甘くこまやかな情愛に満ちたハネムーンとはほど遠い生活だった。


 恋愛がしたいのに、かなわない日々……。

 舜はせめて、房事の前は甘い会話をして気分を高めたいと思った。

 といっても、女性が喜ぶような話題を振ったり、気の利いたことや面白いことを言ったりはできない。

 暁国の皇子、おんば日傘で育った最上貴族の令息なので、他者に対する歓待の気持ち、サービス精神みたいなものは端から持ち合わせていないのである。

 よい雰囲気になり、ごく自然にラブラブチュッチュに至るような話がしたくても、何を話せばいいのかわからなかった。


 それでも、舜は懸命に話題を探して言った。

「烈女よ、そなたの氏族名でもあるナタデココはどう読むのだ。ナ・タデココなのか」

 それくらいしか思い浮かばない貧相すぎる雑談力が、彼を皇帝という名の恋愛弱者たらしめていた。

 そんなの知ってどうするんだと思いながら、烈は答えた。

「区切らないよ。一気呵成にナタデココだよ」

「ナタ・デココではないのか」

「あえていうならナタ・デ・ココ」

「ナ・タデ・ココの方が響きがよくないか?」

「響き重視じゃなくてさ。も~そんなことはどうでもいいから、さっさと脱ぎなよ」

「う、うむ」

 と草が生えそうで生えない不毛な会話をしながら、寝台へあがっていくのだった。


 寝巻きを脱いで寝台に横になり、まな板の上の鯉と化した舜は残念そうに呟いた。

「合体するならするで、わしは気分が盛り上がってからにしたいのだが……」

 舜の不平とも希望ともつかぬ要求に烈は言った。

「え~私はちゃっちゃっと終わらせたいんだけど。早く寝たいしさ。明日は木に登らないといけないし」

「なぜ木に登るのだ?」

「そこに木があるから」

「……」

 だめだこりゃ……と舜は思った。

 どこか哲学的な答えのようで、たぶん何も考えていない。

 烈は大きな木があれば、登らずにはいられない明朗で快傑で野猿のような女なのだった。

 会話にならない脳筋すぎる嫁に、舜は諦めて目を閉じた。

 彼女とは、ロマンティックな夜は過ごせそうにない……。


 ――翌日。

 烈は有言実行で高い木のてっぺんによじ登り、宮城を上から眺めて楽しんだ。

 満足して地上へ降りると、侍女たちがさっと寄って来た。

 先ほど、新しい宦官が霓龍殿に異動してきたという。

 彼らは主人である皇后へ挨拶するため、居間でお出ましを待っているとも。

 女たちの声は興奮で上擦り、しきりに髪型や化粧くずれを気にしている。


 烈が居間に入ると、そこには華やいだ空気が漂っていた。

 高座の前には二人の男が平伏している。

 何気なく(おもて)を上げさせたところで、烈は息を呑んだ。

 思わず身を乗り出して、男の顔に見入ってしまった。

 その宦官はあまりにも美しかった。

 月が雲をまとって隠れる、花も恥じらって逃げ出すレベルの白皙の美貌であった。

 美しいといっても、いわゆる中性的な、女性的な面差しではない。

 整いすぎて怖いくらいだが、眉はきりりとし、目元はすっきりとして涼しげである。

 上背もあって堂々としている。実に男らしい美丈夫である。それでいて、身にまとう空気はとろけるような(なま)めかしさがあった。

 烈は思った。

 ヤバい、ヤバがヤバヤバの極みだ。これは……どストライクすぎる。

「あんた、すごいね……」

 烈の声は、興奮と感動で掠れた。侍女たちが騒ぐのも無理はない。

「あんたみたいなきれいな男は見たことない。舜が中の上なら、あんたは上の上で突き抜けた特上だよ」

 突然例えが蓬莱式になってしまうが、舜がおにぎりにメザシ、漬物などを包んだ素朴な駅弁なら、目の前の男は高級料亭が作る六角重三段重ねの豪奢で美々しい花見弁当であった。

 目で美しさを楽しみ、さらに味わって楽しむことを想定した芸術品である。軽率にイケメンと言うことすら憚られる。


 男は見惚れる烈に向かって、ふっと唇の端をゆるめた。

 どうすれば相手の心を掴めるかを知り尽くした、凄艶な笑みだった。

「私ごときを主上とお比べになるとは、まことに恐れ多いことです。私は栄春(えいしゅん)、この者は弟分の涼鴛(りょうえん)と申します。このたび、皇后さまにお仕えすべく外廷から異動してまいりました。どうかお傍に置いていただき、寵幸を賜らんことを願うばかりです」

 と言って頭を下げた。

 そこでようやく、烈は紹介されたもう一人の方を見た。

 栄春のすぐ後ろにいる茶髪の男も、顔立ちはとびぬけて整っている。

 パッと見は派手で、たれた目と薄い唇に軽薄な雰囲気が漂っていた。

 烈のタイプでガチすぎる美形が栄春、後ろのチャラ男が涼鴛だった。


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