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蛮勇皇后烈女伝 ~後宮はバトルコロシアム~  作者: kiyoaki
後宮黎明篇

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第13話 烈女、新たな舎弟を増やしつつ、ゴージャスライフを満喫する①

 婚儀を終えた烈は、暁の皇后としての生活を始めた。

 他に妃はいないため、彼女一人が後宮におけるありとあらゆる権利と富を独占した。

 その生活は奢侈(しゃし)を尽くしたものだった。


 烈は単身で暁へやってきたものの、後宮での生活に不便や不満を感じることはなかった。

 皇后にあてがわれる従僕の数は、北にいたころとは比べものにならないくらい多い。

 お目見え以上の女官だけで百名以上、宦官も数十名が常に飛天霓龍殿に伺候する。官の下には、炊事や水仕事、針仕事などを担当する下男下女が数百人控えている。


 朝、目覚めると烈は日課として、朝もやがたち込める邸内を馬で駆けた。

 素振りや腕立て伏せなどの鍛錬をし、ほどよい汗をかくと寝所へ戻り、舜を叩き起こす。二人で簡単な朝餐をとる。

 舜を正宮に送り出すと、そのあとは好きに過ごすことができた。


 まずは華麗に身支度をする。

 後宮が開かれると同時に、各所から専門技術を持つ技官も集められた。

 美容関係だけでも専属の髪結い師、化粧師、調香師、高級服飾小物斡旋師などのプロフェッショナルがついていて、皇后にふさわしい豪奢な装いを提供した。


 化粧の間に入ると、侍女が烈の長くたっぷりとした髪を櫛で丁寧に梳く。

 髪が整うと、髪結い師がやってきて、にこやかに言った。

「皇后さま、本日はどのような御髪(おぐし)にいたしましょう」

 季節やその日の気分、流行によって髪型は変わるが、烈は大抵髪結い師が勧めるものにしていた。

 北にいたころは、当地風に髪を細かく三つ編みにして束ねたり、上部で団子状に結ったりしていたが、暁に来てからは暁国風の髪型にしている。

「郷に入りては郷に従う」というような、殊勝な考えがあるわけではない。

 烈の中には、母の血に眠っていた南の貴族趣味とでもいうのか、暁の洗練された文化風習への憧れがあった。

 田舎者の目には、華やかな都会の何もかもがきらきらしくオシャンティにうつる。

 最新の流行を押さえておけば間違いないという、単純な思いがあった。


 烈はカタログをめくりながら尋ねた。

「今、流行っているのはどんなの?」

「最近ですと、新婚の妻が夫の浮気を知って激怒と絶望の末に闇墜ちする『新妻惑乱鬼女変化旦那絶許必滅怒髪天スタイル』や、追い詰められたネズミが起死回生して猫鬼(びょうき)を倒し乱世を制する『窮鼠猫鬼噛み下剋上建国邪神転生スタイル』が人気でございます」

「うーん。よくわかんないから、いいカンジに盛っちゃって~」

「かしこまりました」

 髪結い師が烈の髪を結ったり、暗黒邪神風にデコったりする傍らで、化粧師が髪型にあった化粧をほどこす。

 ひざまずいた侍女二人が爪を磨き、手にバラの香油を擦りこむ。

 やがて、室内に優雅でフルーティな香りが漂い始めた。調香師が調合した龍涎香(りゅうぜんこう)が焚かれている。白檀と並ぶ最高級の香である。

 烈はうっとりと目を閉じ、従僕たちの奉仕に身をゆだねた。


 髪結いと化粧が終わると更衣、着替えである。

 烈は暁の皇后としての威厳を示すため、昼間は暁の伝統衣装を着るようにしていた。

 重ね着の衣類や帯、装身具、靴までセットになった乱れ箱が幾つも運ばれてくる。

 どれも一流のスタイリストが揃えたもので、烈は好きなものを箱ごと選ぶだけでよかった。あとは全部侍女たちが着せてくれる。


 烈は目移りしながらも、ひときわ派手な色合いのひと箱を指差した。

「これがいい。春だしね」

 箱を用意した高級服飾小物斡旋師が、喜びの声をあげた。

「さすが皇后さま。お目が高うございます。こちらは、今シーズンの一押し『春爛漫毒蝶乱舞いばら尽くし蠍座の女スタイル』でございます」

 早速にも着付けに入る。

 白絹の下着の上に、いばら模様の刺繍を施した薄物を重ね、美しくも毒々しい襟を作る。

 藻のようにゆらゆらと広がる濃緑のスカートを履き、金糸を織り込んだけばけばしい金紗御召(きんしゃおめし)の衣を着て、血で染めたような真紅の太い帯を締めた。

 裾が広がらないよう腰には鉄の細い鎖を巻き、ナイフをかたどった帯飾りを下げた。

 さらに濃い紫の絹地に巨大な毒蛾とサソリが刺繍された上衣を羽織り、レインボーカラーの襟巻を首にかけて垂らした。

 烈は鏡に映った姿を満足げに眺めた。

 高貴な皇后というよりは、パリピ風味の魔界の女だったが、威風堂々とした烈にはよく似合っていた。


 豪華に着飾った烈は、意気揚々と居間へ行った。

 主のためにしつらえられた高座に腰を下ろすと、早速にも若い侍女たちがすり寄ってくる。

 彼女たちは後宮が開かれるにあたって、新たに採用された女官だった。話が合うよう歳の近い者が選ばれている。

 彼女たちは主人を取り囲み、奇抜な髪形やギラギラとした衣装を褒めたたえた。阿諛追従しつつ、長い柄がついた扇をあおぎ、爽やかな風を送ってくる。

 烈は女たちを侍らせながら、鼻高々だった。

 北でも舎弟に囲まれて、毎日にぎやかに過ごしてきたのである。自分に仕える女たちも、今やかわいい子分、舎弟であった。


 しばらくして、お茶くみのためだけに雇われている侍女が遠慮がちに言った。

「皇后さま、お化粧やお着替えでお疲れでしょう。お茶など召し上がりませんか」

 お茶くみはそれしか仕事がないので、ことあるごとに飲茶を勧めてくる。

 舎弟に仕事を与えるのも兄貴分の務め……と思い、烈は鷹揚に命じた。

「ん~じゃあ酪茶を淹れて」

「はーい」

 お茶くみは喜び、早速にも茶の支度をした。

 焼いた炭を入れた炭台と水を入れた釜を持ってきて、湯をわかす。

 湯がわくと、専属の茶師が選んだ最高級の茶葉を取り出し、炭火で軽くあぶる。

 炒った茶の香ばしい匂いが漂い始めると、これでもかという量の茶葉を釜に入れ、ゆっくりとかき回した。

 濃く煮出した茶を白磁の茶碗に注ぎ、牛乳を煮詰めたものにバターを溶かしたクリームをたっぷりのせる。

 さらに蜂蜜を糸のように細く垂らして、ふわふわなクリームの上にアルパカの模様を描いた。

 仕上げに粉砂糖を散らし、目の部分にはスミレの砂糖漬けをちょこんとのせた。緑茶ラテアートである。


 茶は菓子とともに、漆に金の螺鈿(らでん)をほどこした盆に乗せられて運ばれてくる。

 ラテアートの茶を見た烈は目を細めた。

 あまりにもオシャレすぎる……!

 溶けゆくラテアートを目で楽しみ、心ときめかせながら茶を喫した。

 甘味およびクリームと混ざり合った茶は、甘く濃厚でありながら、後味はすっきりして美味だった。

 北でも酪茶は飲みなれたものだった。しかし茶葉が少ないため味は薄く、ラクダや馬の乳、塩を入れて飲んでいた。

 素朴な故郷の味といえば聞こえがいいが、この贅沢な飲み方を知ってしまった今は大雑把なものに思える。

 都会の暁では、茶一つとってもこの凝りようである。

 烈は目を閉じ、しばし悦に入った。


 これぞ夢見たオシャンティなシティライフ……!

 暁に嫁に来てよかった!


 ヤンキーがヤンチャしていられるのは、せいぜい十代まで。

 引退するタイミングを間違えれば、ただの嫁き遅れの痛い女総長になってしまう。

 ほどよいところできっぱりと身を引き、誰も過去を知らない都会で金持ちの妻となり、ゴージャスライフを送る。

 これぞ究極の勝ち組……!

 烈は、勝利の美酒ならぬ美茶に酔いしれた。


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