第12話 烈女、婚儀を挙げ、恋愛浪漫を夢見る皇帝をいてこます②
しばしの時が過ぎた――。
残虐描写になってしまうので詳細は割愛するが、烈は舜をいてこました。
広い寝台の上には、白目を剥いた素っ裸の男が転がっている。烈の蛮勇がワイルドに荒ぶったため、舜は最後の方で気を失ってしまったのだった。
烈は舜の気絶を知ると、さすがに諦め、ぐったりとした彼から離れた。
「他愛なさすぎ」
と髪をかきあげながら、つまらなそうにぼやくと、放りだしてあった寝巻きを羽織った。
服を着ると、手を叩いて人を呼んだ。
「誰かいる? 誰か」
少しして、楊源がするりと寝所に入ってきた。
薄暗い室内に目を凝らし、拱手しながら言った。
「爺がおりまするぞ。いかがなされました」
「楊爺、いたんだ」
「主上と皇后さまの初めての夜でございますゆえ、いてもたってもいられず……伺候しておりました」
皇帝が後宮で過ごす夜は、必ず宿直の宦官がつき、寝所のすぐ近くで寝ずの番をしている。
皇帝と妃の会話やプレイ内容は当然彼らに筒抜けで、プライバシーもへったくれもない。
楊源は老齢のため宿直番からは外されているが、初夜とあっては責任重大と感じ、近くに控えていた。
一応にも気をきかせたのか、回廊に出ていたようである。
烈は、完全にのびて微動だにしない舜を指し示した。
「舜がこんなんになっちゃったんだけど」
楊源は寝台の傍までくると、「おおおお~」と驚愕の声を絞り出した。
両手で顔を覆い、その場に泣き崩れた。
「なんということ……! 主上が、おめでたき脱童貞の喜びのさなか、このような儚いご最期を遂げられるとは。まさか新婚初夜に皇后さまの蛮勇に抗しきれず、腹上死あそばされるとは……。あんまりだ。あんまりでございます。この世にはおよそ神も仏もない。爺の慟哭は天にとどろき、涙は地をうがつばかりにございます」
「死んでないし、勝手に殺さないでよ」
烈は冷静につっこんだが、楊源の自裁ムーブは続く。
「爺は卑しくも浄身し、ゆえに子を持つことかなわず……。おそれながら、主上こそを唯一の我が子のように思って奉り、長らくお尽くししてきました。主上が崩御された今、爺がこの世にとどまる理由は何一つございません。かくなる上は一日も早く殉死して後を追いかける覚悟……爺はァ、爺はァ――! ううう……。ところで、主上はいまわの際に遺言などは残されませんでしたか? もしもの時あらば、主上はこの爺めに宝物庫の中身をすべて下賜するとおっしゃっていたのですが」
けろりとして無心する老爺に、烈は呆れた。
「え~殉死するんだから、舜の遺産はいらないでしょ。妻の私が全部もらってあげるから心配いらないよ」
「そ、そうはまいりません。主上の真心はこの爺が、しかと受け取りたく……。自裁は主上の恩寵を味わいきってからでも遅くはございませんので」
烈は疲れたのか、大きく息を吐くとごろりと横になった。天井を見上げながら言った。
「とにかくさ~なんでもいいから舜を世話してあげて。私にはお茶を淹れて。喉乾いちゃった」
「……御意」
楊源は舜に寝巻きを着せると、枕を積んで身体をもたれかけさせ、気付け薬のカラシを嗅がせた。
しばらくすると舜は息を吹き返した。傍らの楊源をぼんやりと見上げた。
「……おお、爺か」
「主上、お気づきになりましたか。主上がお倒れになって、爺がどれほど心配したことか……。老骨の寿命をこれ以上縮めないでくださいませ」
舜はどこか遠い目をしたまま言った。
「わしは……一体? ここは……地球なのか? まなこの裏には、永久不滅の大宇宙鏖殺諸法無我共栄圏が広がっておったのだ。あまたの星が明滅し、狂暴なメロンパンがわしを食らおうとして……」
楊源が舜の肩を揺さぶった。
ついでにパンパンと頬を平手打ちした。
「しっかりなされませ、主上。傷は浅うございますぞ。皇后さまの激しすぎるご寵愛に、心身が追いついてないだけでございます」
舜は寒気に襲われたように、全身を震わせた。
「ああ、爺よ。あれは世にも恐ろしい蛮勇の嵐であった……。あやうく別の意味で昇天するところであった」
そこに、隣りに寝そべった蛮勇の張本人が声をかけた。
「あっ、起きたんだ。大丈夫~?」
「……!」
舜は、恐る恐る声がした方を見た。
そして、のんびりと茶を飲みながらくつろぐ女を見た瞬間、ギャーと叫んで再び卒倒した。
こうして皇帝の高貴な、しかし特に価値があるわけでもない貞操は、恋愛プランかなわず、あたら無残に散らされたのだった――。




