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蛮勇皇后烈女伝 ~後宮はバトルコロシアム~  作者: kiyoaki
後宮黎明篇

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第11話 烈女、婚儀を挙げ、恋愛浪漫を夢見る皇帝をいてこます①

 皇后に冊立された烈は、舜と披露目の婚儀を挙げることになった。

 婚儀の遂行をもって、烈は暁の官民たちに皇后と周知される。

 婚儀は暁のしきたりにのっとり、皇帝一族である夏候家の人々、太守などの地方の高官、宮廷に伺候する文武百官が参列することになっていた。

 すでに式典の手はずは整っていた。

 連日のように、祝いの進物を携えた高官とその一行が入朝し、都は大いににぎわった。


 烈は用意された豪華な婚礼衣装や、貢がれた数々の祝いの品に不満はなかったが、参列者が少ないのには物言いをつけた。

 万時派手好みの北で育ったので、ジミ婚はありえなかった。

「参列者は、最低二千人は欲しい」

 と要求した。担当官たちは困り果てたが、他ならぬ皇后の所望である。

「そんなん無理っす」と断れるはずもなく、大急ぎで人をかき集める羽目になった。


 婚儀当日、正宮の大広間には皇帝一族と地方の高官、文武百官が立ち並んだ。

 宮の外には、急遽動員された高官らの家族や従者、盛り上げ役のサクラや間者、通りすがりの通行人、たまたま都にいて拉致された観光客、ホワイト案件&高額報酬の嘘広告に騙された有象無象のモブなどが参列した。

 婚儀がつつがなく終わると、烈は広間の参列者には、引き出物として北から持ってきた羊を一頭ずつ与えた。

 人々はメエメエと鳴く羊を連れて宮城内を歩くことになり、人と羊が戯れる牧歌的な光景が広がった。

 烈は客たちに懇願されて、アルパカもお披露目した。みなは新郎新婦そっちのけで、愛らしいアルパカに夢中になった。

 わくわく動物ランドみたいなほのぼのとした雰囲気の中、いつの間にか披露宴が始まった。


 夜になった。

 いよいよ、うれしはずかしの初夜である。

 烈は、周囲の者に促されて早めに披露宴を抜け、後宮へ戻った。霓龍殿で女官たちに婚礼衣装を脱がされ、身支度をした。

 寝所には、二人のために新床がしつらえてある。

 烈は白の寝巻き一枚になると、寝所手前の控えの間に入った。

 椅子に座るとしばし瞑想した。静かに気合を入れた。

 ……閨房においても、獲物はただ狩るのみ。

 確実にしとめる、という剛の者の剽悍無比(ひょうかんむひ)な心意気だけがある。


 やがて、殿舎の表が騒がしくなった。

「皇帝陛下のお成り~」という先触れの声が聞こえる。

 舜が通ってきたのだ。

 烈はゆっくりと目を開けた。


 舜は別室で更衣を済ませると、烈と同じく白の寝巻き姿になって部屋に入ってきた。

 二人は、一応にも卓の前に腰かけて向きあった。

 舜はなまめかしい空気に当てられたのか、頬を赤く染めつつも、懐からおもむろに紙を取り出して卓上に広げた。

 少し恥ずかしそうに言った。

「烈女よ、実は初夜を迎えるにあたり、そなたとの距離詰めプランを考えてきた。作成に夢中になるあまり、昨夜は徹夜してしまった……」

「距離詰めプラン? 何それ」

「政略結婚とはいえ、こうして縁があったのだ。そなたとは時間をかけてわかりあい、いずれは深く結びつかねばならぬ。そうなるためには、波瀾万丈の恋愛設定が必要と思ってな。謹んで拝受せよ」

「恋愛設定……」

 烈は嫌な予感がした。これはあれだ……意味不明すぎるアレだ。

 舜は構わず続けた。

「突然だが、そなたは北の亡国の王女ということにしてしばらく夫婦生活を送りたい。故郷を滅ぼされ、親兄弟を殺され、さらわれて後宮に納められた悲劇の姫……。当然ながら皇帝を親の仇と憎み、復讐を企む。夜伽を命じられた日、懐に短剣を忍ばせて皇帝の命を狙うが、なんなく取り押さえられる。娘が流す滂沱(ぼうだ)の涙……皇帝はふと憐れみを覚え、彼女を月下の花園に解き放つ。別れ際に見つめ合う二人……」

 うわぁ……また来たよと、烈は虚無顔になった。

 身分差恋愛、義弟不倫ものと来て、今度は亡国の姫の復讐譚らしい。

「故郷も親も健在だし、むしろあんたの方が亡国の皇子っぽいのに」

 と言うと、舜はムッとした。

「わしは主人公が可哀想な設定は好まぬ」

「知らないよ、そんなの」

「まあ、聞け。ところが、ある日娘は知ってしまうのだ。残虐無比な冷血漢と思われた皇帝もまた、孤独な魂を持つ一人の人間であったことに……。本当の彼はとても優しく憐みふかい心を持っていたのだ。ここは泣きどころである」

「だったら故郷を滅ぼすなよってかんじだよ」

「距離を縮めるには、ハードな環境も必要なのだ。アルパカの出番もあるぞ。唯一生き残った乳兄弟の猫麒麟は半身たる娘を案じ、ばあやに変化(へんげ)して皇帝との仲を取り持つようになる」

「猫ちゃんは人間に変身するんだ……」

「娘は秘密の逢瀬を重ねるにつれ、徐々に絆され、皇帝に心を開いてゆく。罪悪感や復讐心に懊悩しつつも、二人はどうしようもなく惹かれ合い……」

 そこで烈は、設定が書かれた紙をちらりと見た。

 細かい字でびっしりと書き連ねてあるが、結末らしきものは読み取れなかった。

 烈は、永遠に続きそうな設定語りを遮った。

「で、惹かれ合った私とあんたはいつ結ばれるの?」

「う、うむ。このプランでは、密会の三回目で手を繋ぎ、魅惑の告白タイムとなる。すれ違いからの喧嘩は二回ほど、十回目の公園デート帰りでハグ、日帰り旅行や温泉発掘、雪山遭難などのドキドキなイベントを経て……付き合って半年ほどで初めての口吸いにいたる」

「半年で初めての口吸い……。そんなことしていたら、人生の日が暮れちゃうよ」

 烈は低く呟くと、のっそりと立ち上がった。

 こんなたわ言に付き合っていては夜が明けてしまう。


 烈は、舜の背後に回り込むと無言で襟首を引っ掴んだ。

 そのままあっけなく床に引き倒すと、問答無用でずるずると引きずってゆく。行き先は当然寝所である。

 舜は動転し、叫んだ。

「な、何をするのだ。わしのプランでは今宵は酒を飲みながら、朝までとめどなく語り明かし……」

「も~馬鹿言ってないで寝るよ。寝るから。さっさとヤって寝る!」

「寝る? ヤる?」

 舜はバタバタと暴れ、ヒイイッとか細い悲鳴をあげた。

「ま、待て。烈女よ。わしは心の準備が……。まだ、そなたを女人としては好いておらぬのだ。こ、こんな中途半端な気持ちで合体しとうない」

「私だって、あんたを男として好きなわけじゃないよ。けど、こっちにはこっちの事情があるんだから。生理的に無理なわけじゃないし、どうせヤるなら一秒でも若い方がいいし」

「や、やめよ。やめ……」

 烈は舜の懇願を気にとめず、寝所に引っ張り込んだ。

 彼を軽々と担ぐと寝台に放り込んだ。

 万事休す。もはや施す手なし。

 しばらくして、「あああ~」という悲鳴とも困惑ともつかない声が響き、夜のしじまに溶けた。


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