表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大英雄の大罪人  作者: 親の顔よりみた小指
第七幕 不良品のドールハウス
98/99

第九十八話 燃え尽きぬ灰と

「それで……一体何が起きたんだ? 乃亜」

 誰もが理解出来ていない状況の中、先生が漸く口を開く。その部屋には五人が小さな机を囲んで座っていた。先生は一人足を組みソファに座っており、俺達は床に直接座っていた。


「私だってよく分からないのよ。この家に近づいたらユリィさんの声がして……色々あってこうなっちゃった」

 段々と声が小さくなり縮こまっていく乃亜の前では、カチャカチャとお茶の用意をし始める老紳士がいた。

 

「ユリィとやら。アンタからで良い。一体何が起きたんだ? それに一瞬感じ取れた異常に強い気配は一体何なんだ?」

 先生は言葉の矛先をユリィと名乗る男に向ける。

「……強い気配? ああ、それは私ですよ。てっきり貴女ならば既にお気づきになっているものかと、神話種のお嬢さん?」

 それを聞いた先生は僅かに顔色を変える。


「……アンタ、一体何者なんだ? 私は神話種だなんて一言も言っちゃあないんだがな」

「年長者の勘という物でしょうか。長く生きていると大方予想がつくのです。神話種の方々から発せられる気配は他の能力者とは違う何かを感じるのですよ。ま、言語化は出来ませんが」

 ユリィはお茶を啜り顔を顰めながら話し始めた。


「ム、風味が劣化していますね。これでは美味とは言い難い。他の飲み物を用意致します。皆様、暫しお待ちを」

 そう言って席を立とうとしたユリィを先生が呼び止める。

 

「今は飲み物なんかよりアンタの話だ。今確信した。爺さんと増長の言ってた"何か"ってのはアンタのことだ」

 そして先生は自身の両目を指差しながら話を続ける。

「私のこの能力を通して見てもアンタは底が知れない。途轍もなく強い運命をアンタから感じるんだ。これまで見た誰よりもな」

「強い運命……その口ぶりからすると、貴女様は神話種の中でも『運命』の力の持ち主でしょうかね」

 ユリィは一人物思いに耽るかのように目を瞑り話していた。


「……初めてだよ。私を見ただけでそこまで気付くだなんてな、そんな奴初めてみる」

「これもまた長年生きてる故でしょうかね。さて、先程までの話を致しましょうか。私の身体を治す手伝いをしたお嬢さんの知り合いともなれば包み隠さずに全てをお話しすることを約束しましょう」

 そうしてユリィは本当に全てを話した。乃亜と出会ってから今までの出来事。そして自身は観測者であるということも。


「何だよその話。三千年前にも能力者がいた? 能力は三十年前に突然現れたんじゃなかったのか?」

 真っ先に龍が口を開く。

「その筈なんだがな……一体アンタは何を言ってるんだ?」

 先生は再びユリィに目を向ける。


「そうですね……お知りになりますか? となればどこから語るべきか。現代では能力と一括りにされているこの力ですが、人類史に於いて初めて登場したのは今より三千年前まで遡るのです」

 ユリィは淡々と言葉を連ねる。

 

「現代の呼び名では古代エジプト、でしょうか? 三千年前、私はそこで神官をしていました。ごく普通の神を敬う下級神官でしたよ。ただ、ある日そんな私……いや、私達人類に転換期が訪れたのです」

 静かにユリィが話しているこの場には、ユリィの声以外には聞き手が唾を呑む音だけが鳴り響く。


「その日は不思議な日でした。直前まで晴れ渡っていた空が突如一転。これまで見たこともない規模の大嵐でした。まるで今より三十年前の異常気象が続いた日と瓜二つでしたよ」

 三十年前の異常気象。俺には全くピンと来なかったのだが、それを聞いた先生は何かを思い出したかの様にハッと目を見開く。


「おや、覚えていますか? 神話種のお嬢さん。ならば分かるでしょう。その直後……」

「その直後……世界に能力が、力を持つ者が現れた。だろ?」

「素晴らしい、その通りです。とは言っても他の文明について私は把握しておりませんがね」

 ユリィはあっさりと肯定する。


「そうだ、そのお嬢さんっての辞めてもらえるか? この歳にもなってお嬢さんだなんて呼ばれてると気味が悪い」

 先生は震える仕草を見せながら言った。

 

「おや、そうでしたか。それならば……そうか。言われてみればまだ私は皆様の名前を知り得ていない。失礼、今更ながらですが皆様のお名前を聞いても?」

「そういやまだだったか。私は如月美蘭。そんでもってこのガキ共が左から龍、明、乃亜、暗だ」

「ム……? 聞き覚えのある名ですね。もしや貴方達四人は世間では四大罪人と呼ばれている存在でしょうか?」

 ユリィは客人に提供するための飲料を探しながら質問をした。


「………正解だ。それで何だ? 俺達は随分なお尋ね者だし、敵対する気にでもなるか?」

 俺はそう言いながら僅かに身構える。場には突然張り詰める様な空気が流れた。

「これはこれは、失礼しました。貴方達と敵対だなんてするつもりは無いですよ。つい最近聞いた言葉を使うならば、私にメリットが無い。それに……私はあの災害の真相を知っていますので」

「……真相?」

 ユリィは苦笑しながらも一人話を続ける。


「話が少し脱線しすぎましたかね。私についての話に戻りましょうか」

「…………だな、続けてくれ」

 先程の"真相"という言葉を聞き俺を含めて多少の異論があったが、この場ではユリィの話を聞くことを優先した。


「能力の出現によって文明は混沌の時代に包まれました。能力を使った暴動、反乱、果てには殺人。再び元の社会が形成されるまでには長い時が流れていました。その頃になって私は漸く自身の能力に気付きました。『不死』の真髄に」

 この時、ユリィの目からは光が全く感じ取れなかった。


「どんな怪我をしても四肢が千切れようとも、更には心の臓を貫いても再生する存在。私の力は民の目線の的でしたよ。古代エジプトは永遠の命のために尽くしていましたから。私の力を見た民はアメン=ラーの化身だの、現世に現れたアクの象徴だのと、彼らからは好き勝手に言われましたよ」

 ユリィはどこか渇いた笑いを見せながらも話を続いた。


「それから七十と余年が過ぎた頃になります。幼少からの私の友、知人は遂に私を置いて誰一人残らずに逝ってしまわれました。悲しみに暮れ自身の能力を恨みましたとも。永遠の命を望む文明の民が死ねない苦しみに悩まされるとは、どんな皮肉でしょう。非常に愉快だとも」

 渇いた笑いは益々大きくなり、その顔はどこか狂気を孕んでいた。


「その後、そうですね……二百年が過ぎた頃でしょうか。突然新たな能力者が生まれなくなりました。まるで神が飽きたかのようにある日を境に唐突に。新たな能力者は全く出現せず、既存の能力者も時が経つにつれ逝き消えて行く。最後まで残された能力者は私一人でした」

 ユリィは平然と、淡々と話す。

 

「そんな……事が過去に本当にあったのか? それに……もしそれが本当だとしたらユリィ、アンタは大丈夫なのか? 古代エジプトだなんて滅んでからでも数千年は経ってんだろ。それだけの長さを人が意識を保つだなんて異常だ」

 

 俺達が世界から罪人扱いをされて十年が経つが、俺は最初の数年だけでも耐え難い苦痛を味わった。そのため三千年以上の時を生き、自身を観測者だと言えるほどにまで達観しているユリィの心身を気遣わずにはいられなかった。


「明君、お気になさらず。私にとってはただ人よりも長い老後の延長線を生きている感覚に過ぎませんので」

「老後……か。凄いな、アンタ」

 ユリィがこう言ってしまっては俺からはこれ以上何も言えなかった。


「………さて、能力者が現れなくなり、世界から少しずつ能力は忘れられていきました。あの時代に能力が実在したことを証明する文献など殆ど無く、地方の国や村の神話に僅かに登場するのみになりました。……と、私が知っている過去はこの様な物です」

ユリィは漸く長い長い物語を読み終えたかの様に疲労と達成感を見せていた。


「それからの私は歴史に名を残す事無く数々の国を渡り歩き発展をこの目に収めてきました。今この国のこの場所にいるのも偶然であり、貴方達と出会っているのもまた偶然なのです」

 ユリィは遂に棚の奥深くから紅茶を発見し、用意をしながら語る。


「……それでは、他に何か質問はございますか? 答えれる限りの問いになら答えましょう」

 そんなユリィに対して先生は、即答で答えた。

 

「神ってのはいるのか?」

 

「…………神、ですか。それはあくまでその様な存在が実在すると仮定しなければ能力などの力が証明出来なかった科学者の妄言なのではないですか?」

「……そうか、答えないか。なら質問を変える。βの目的は何だ?」

 そう述べた瞬間、ユリィの顔色が変化した。

 

「そうですか……もう………彼等と接触していたのですか。ならば隠す必要も無いですかね。神は、実在しますとも。それも、飛び切り迷惑な存在がね」



 ユリィの瞳には部屋の扉がくっきりと写っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ