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大英雄の大罪人  作者: 親の顔よりみた小指
第七幕 不良品のドールハウス
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第九十七話 巡り廻る躰

「何者……ですか。何者なのでしょうか。もう遥か昔に自分は見失ってしまったのでね。強いて言うならば……歴史の観測者、とでも言っておきましょう」

 自分のことをユリィと名乗る男は感傷に浸るように下を向き、歴史の観測者だと自称をした。


「………観測者ね、随分と曖昧な答えね。でも良いわ。納得してあげる。私の名前は白雪乃亜、能力者よ」

「まさか……お嬢さん! そうでしたか。貴女も能力者だったとは……残念でしたね」

 堂々とした乃亜の名乗りに対してユリィは驚きながらも同情とも取れる顔を見せる。


「残念って……どう言う意味? 能力は数少ない人のみが扱える超常の力でしょ? それのどこを残念がる必要があるのよ」

「…………お嬢さん、能力とはね……呪いですよ。恒久の呪い。とはいえ、今のお嬢さんにはこの先の言葉を告げても理解できないでしょうが」

 乃亜にはユリィの発言が何一つ理解できなかった。


「アンタだって能力者なら能力の恩恵を受けてるんじゃないの? それなのに……呪いだなんて」

「恩恵ですか。私はもう既に恩恵と呼べるものは一通り受け終わっていますよ」

 ユリィの言葉にはどこか聞くだけで遠い地に来たかの様な深さが含まれていた。


「ユリィ、アンタは何なの? 能力……いや、世界について何を知っているの?」

「何でも……と言えば傲慢でしょうか。勿論、現在の科学技術で観測できないものまでは知り得ませんよ。そればかりは神のみなせる御業ですので」

 ユリィは笑みを浮かべながらも淡々と言葉を発する。


「ああそうだ。お嬢さん、一つ頼みがあるのですが宜しいでしょうか。この家のどこかに私の体がある筈です。ここまで持ってきてはくださいませんか?」

「……急ね。というかアンタって首から下もちゃんとあったのね。………それで? 頼みって言うけどそれを受けるメリットはあるのかしら?」

 乃亜がそう告げるとユリィは悩んだ様に目を瞑り、暫くの時間が経った時、再び瞼を開き言葉を紡ぐ。


「メリット……フフ、まさかそう返されるとは思っていませんでした。こんな変人からの頼み、てっきり断るかと」

「変な自覚はあったのね………それで、何か考えたの?」

「貴女にお渡し出来るものなど私は持ち合わせてはおりません故、金品の代わりと言ってはなんですが、私の知る能力の最大の真髄を見せて差し上げましょう」

 ユリィは最大限の譲歩をしたのだろう。とても渋りに渋って出した言葉だった。


 ユリィに対して乃亜は何を感じ取ったのか、たった一言強気に返事をするのだった。

「乗ったわ!」


________________________


「これかしら……先に喋る生首を見ていなければここで腰を抜かしていたでしょうね。ただの事故現場じゃない」

 乃亜が見ていたのはグレーのベストに真っ白のシャツを着た気品のある男性の体であった。勿論、その身体には首から上が無く、しかも背後から刺されたのであろう刃が背中には突き刺さっていた。


「うげ、これ足とか腐ってるんじゃないの? ってベストの中虫だらけじゃない! キモイ! 爺さんったら何年前から首だけなのよ!」

 乃亜は愚痴を言い続けながらも決死の覚悟で腕を掴み持ち上げる。


「あ! 足が崩れた! んもうやっぱり腐ってるじゃない! ユリィさんは自分の体なんだから自分でちゃんと手入れしなさいよ全く」

 段々とこの状況に慣れてきた乃亜はユリィの身体に文句を垂れながら彼のいる部屋にまで運ぶのだった。


________________________


「ふむ、完璧ですね。何一つ欠けずに私の体が揃ってらっしゃる。この程度の羽虫ならば……受け入れ難いですが、そのままでも問題無く進行できるでしょう」

 不満を押し殺した様な笑顔でユリィは笑う。


「それで、次は何をすれば良いのかしら?」

「そうですね。私のこの顔を身体の元へと降ろして頂きたい」

「ああ、そう言えばまだ吊るされたままだったわね。色々あり過ぎて忘れていたわ」

 そう言いながら乃亜はユリィを首元にまで近づける。


「では、始めましょうか。これから魅せるのは能力の活性化……一部の老人の間ではエピファニーとも呼ばれる技術になります。効果は……まあ、見た方が早いでしょう」

「………エピファニー、ね。どうすれば良いの?」

「私の心臓に当たる部分を強く叩いてください。骨折などの心配はせずに、出し得る全ての力を私の胸に当ててください」

「………え……本当にそれで合ってるの?」

 乃亜は困惑でしか無かった。ユリィは女子に殴られたい被虐趣味の変態なのではないかという疑惑が何度も心を巡った。


「方法は数パターンありますが、他者を巻き込む形であらばこれが最も手っ取り早く簡単なのでね。ご不満でしょうか、お嬢さん?」

「わ、分かったわよ。でも……叩くのはあまり慣れてないから後で文句言ってこないでよ?」

「無論です。さあ、一思いにどうぞ?」

 乃亜は拳を強く固め、ユリィの胸に狙いを定める。次の瞬間、部屋にはドスンと低い音が鳴り響いた。



 暫くの静寂の後、ピシリと何かにヒビが入った音が小さく聞こえた。

「おお、素晴らしい。成功ですね、お嬢さん」

 冷たく腐って蛆が湧いていたユリィの身体には、熱が籠り、肌にはハリが戻っていた。そして、完全に分離していた顔に首元から触手の様なものが伸び出して結合を始めた。


「ひっ! ど、どうなってんの? アンタの身体……いや能力って……一体」

 乃亜は驚きが隠せずに言葉が漏れる。

「フー、まあこんなものでしょうか。顔も足も中々に綺麗に戻りましたね。虫も熱で飛ばせたようだ。服は……仕方がないか、一から仕立てると致しましょう」

 程なくして、ユリィは完全に一人の人間と呼べる外見に変化していた。


「ああ、私の能力? そうですね……貴女達らしく言うならば『不死』と、言ったところでしょうかね」

「………何度も聞いて悪いけど、アンタ一体何者なの?」

 乃亜は再び最初と同じ問いを展開する。

「何者……フフ、どうやら貴女の目にはまだ私がヒトとして写っている様だ。お優しいのですね。言ったでしょう? 私は歴史の観測者であると。この三千年間『不死』により生き世界を視てきた最初の能力者。それが私ですよ」


 乃亜にはユリィの現実離れした言葉に納得が出来ずにいた。又は脳内で整理が出来ていなかったといった表現の方が正しいだろう。そんな時、この家屋の扉が勢いよく開き衝撃が伝わる。

「おや……今日という日は客人が多い。困りましたね………客人は想定していない故あまり家具などは備えていないのですが」

 ユリィが憂わし気に呟いた直後、猛々しく一つの声が響いた。


「乃亜! 無事か!」

「明!? どうしたのよ? そんなに息切らして」

「先生がとんでもない反応が突然現れたって………そこの執事みたいな奴のことか?」

 明が鬼気迫った表情でユリィと相対した時、ユリィは笑みを浮かべてリラックスした顔になる。


「お茶をお淹れしましょうか? ……まあ、四年程前のものなので体調の保証は致しませんが」

「は……はあ? 誰がそんなモン飲むかよ」

 ユリィの一言で場は僅かに和むのだった。

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