第二王子の行方
「キアラ殿、この度は本当に我が国の為によくやってくれた。礼を言う。しかしそなたはこのように若く美しいのに、魔物を退治できるほどの強さまで秘めているとは……いやはや、なんとも素晴らしいことだ」
国王陛下が鼻の下を伸ばして絶賛し、キアラに近寄る。
「この国など、どうでもいい。私はメアリールと一緒にいたいだけだ」
ツンっとそっぽを向くキアラに、国王陛下は唖然とする。
自国をどうでもいいと面と向かって言われたことにも驚いたが、いつの間にメアリール嬢は魔物の大群を退けてもらえるほど、ブリック国の者と懇意になったのか?
脂汗を掻きながら壊れた玩具のような鈍い動きで、メアリールを振り返る。
「そ、そうなのか。メアリール嬢?」
「キアラ様は可愛いです」
ニッコリ笑うメアリールに、キアラは顔中に喜色を浮かべる。
「本当か? では、このまま攫ってもいいのだな、メアリール」
「ほらぁ、私が最初に言ったのに。さっさと攫っておけば、こんな面倒くさいことしなくてすんだんですよ」
すぐにメアリールに飛びつきそうになっているキアラを背後から止めて、ふくれっ面のパズがレピュテイシャンに抗議する。
「、はあぁぁぁ~、お前らな~、人の苦労をなんだと思って……」
ガックリと項垂れるレピュテイシャンに、メアリールはそっと寄り添う。
「そうね。レピュがその気になれば、こんな根回しなんて必要なく私を連れて行けたのよね。それを私の為に色々と骨を折ってくれて、ありがとう。その気持ちが、本当に嬉しいわ」
頬を染めながら、そっと手を握るメアリールに「メル~」と手を握り返すレピュテイシャン。
「ああ~、ずるいぞ。功労者は私のはずだ」
「功労者は7レピュテイシャン様ですよ。貴方はただ単に暴れただけです」
宰相はやれやれと首を振る。
これから城壁に倒れているであろうカッタス国の間諜を調べ上げ、我が国だけではなく諸外国にも戦争を持ち込もうとしていた動きを、各国に通達しなければならない。
その上で各国の協力の元、制裁を与え、今後のカッタス国の動きを封じる必要がある。
そして魔物の襲撃で壊された場所の確認をして、それに応じた修繕も必要となってくる。
それらのことを考えると頭の痛い思いだが、長年カッタス国を放置していた自業自得だともいえる。
巻き添えをくったブリック国の方々には、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
だが、正直ブリック国が今回助けてくれたのは、メアリールがいたからだ。
あの子がいなければ、カッタス国や魔物の動きを知っていても、捨て置かれていたことだろう。
改めて、レピュテイシャンとイチャイチャし始めた我が娘を見る。
本当にあの子には言い表せないほどの感謝しかない。
目を細め、幸せそうな娘を見る宰相に、隣で国王陛下が「惜しいなぁ~、本当に惜しいなぁ~。メアリール嬢さえいてくれたら、キアラ殿も必然と手に入るのに……。私の側室、は失礼かもしれんが、息子達の側室にはもったいないしな~」とブツブツ言っている。
「おい」
思わず低い声が出る。
「いい加減にしろよ」
ニッコリ笑う私の額に青筋が浮かんでいるのを見逃さなかった国王陛下は、コクコクと頷きながら「い、いやだなぁ~、冗談だよ、冗談」と引き攣った笑顔をこちらに向ける。
宰相は深くて重い溜息を吐く。
メアリールをこの国から出してあげられて本当に良かったと、改めて思う宰相であった。
「メアリール、本日はキアラ様もこちらに泊られるだろう。本館に用意させるから一緒に帰るといい」
メアリールに帰宅を促す宰相に「レピュは?」と心配そうに小首を傾げる。
「俺も帰るぞ。あらかた話したが、これ以上訊きたいことがあるのなら、屋敷で話す。城はもういいだろう。これ以上、メアリールを疲れさせたくない」
そう言って優しくメアリールの肩を抱くレピュテイシャンに、二人の騎士がオズオズと近付いてくる。
「あ、あの、レピュテイシャン殿下。お話しの途中、申し訳ありませんが、先程伺った城壁にオーラン様の姿が見当たらなかったのですが……」
レピュテイシャンはもちろんのこと、メアリールも宰相もその場にいた全員がハッと息を呑む。
「カッタス国の間諜はどうした?」
宰相が慌てて声を上げる。
まさか、その場にいた者、全員が消えたのだろうか?
そう懸念したものの、二人の騎士はすぐに首を振った。
「いえ、殿下の仰るようにカッタス国の間諜三十名と、並びに我が国の騎士五名の確認はとれました。皆気を失っていたようで、我が国の騎士はすぐに目を覚ましましたが、オーラン様がいないことに驚いておりました」
「そこで話しを聞いたのですが、確かにオーラン様はあの場にいらっしゃったそうです。気を失う最後まで、その身を抱えていたという証言があります。ただ、あの場で見たオーラン様は、カッタス国と手を組んでいるように見えたとのことでした。詳しいことは一切分からないそうですが、会話の流れでレピュテイシャン殿下はそれを承知のうえで、行動をとっていたのではないかと申しておりました。本当でしょうか、レピュテイシャン殿下?」
二人の騎士は困惑した表情で、レピュテイシャンと宰相を見る。
「捕まりたくなくて、逃げたのでしょうか?」
「あいつが? それはないだろう。覚悟はしていたはずだ。それが嫌なら、騎士など最初から連れて行かなかったはずだ」
パズが呆れたように言うが、レピュテイシャンは一笑する。
「理由があってその場を離れたか、もしくは本人の意思ではないか、だな」
レピュテイシャンの言葉にその場に静寂が走る。
グッと力を入れた宰相が「とにかくもう一度、近辺を探せ」と命じる。
「申し訳ない、レピュテイシャン殿下。お疲れのところ、もう少し待っていただいてもよろしいですか?」
「構わないが、メルは戻らせてもいいな。キアラ、護衛も兼ねてメルと一緒に屋敷で待機していろ」
「何? メアリールと一緒にいてもいいのか? やったぁ~、メアリール帰ろ、今すぐ帰ろ」
上層部にかしずかれていたキアラは、レピュテイシャンにメアリールと一緒にいる許可を得て、嬉しそうに走ってきて彼女を抱きしめる。
「ま、待って、待ってください、キアラ様。レピュ、私も残るわ。一緒にいたいの」
そんなことを言われてキューンとするレピュテイシャンは「でも、疲れているだろう?」と言いながらも、嬉しそうに相好を崩している。
「離れている方が不安で休めないわ。ねえ、お願い。邪魔はしないようにするから」
「邪魔なんかに、なるはずないだろう。う~ん、分かった。じゃあ、俺かパズかキアラかと一緒にいろよ。他の奴とは駄目だ」
そう言って甘やかすように髪を撫でるレピュテイシャンに、メアリールはありがとうと笑う。
そしてそばに寄って来た宰相が「レピュテイシャン殿下、オーラン様と何があったのか教えていただけますか?」と訊いてくるので、レピュテイシャンは諦めたように話し始めた。
それはその場にいる全ての者に、衝撃の内容だった。




