キアラの一人勝ち
会場内にいる貴族達は一旦城で休ませて、邸宅の無事が確認でき次第、順番に帰宅を促すこととなった。
各大使達もそれぞれ別室にて、休憩してもらっている。
自国への連絡は、状況を把握した後ということで少し待っていてもらっている状態だ。
正直、国王陛下自身、心も体もへとへとですぐにでも休みたかったのだが、会場にいた王族は自分一人。
オセアンは妻の国にいるし、先程オリバーは辺境伯の元にいると判明した。
王女二人は、自分の知らないところで何かやらかしていたようで、宰相にまた問題を起こされては困ると言われたので、それぞれの私室に閉じ込めてある。
一体、何をやらかしたのか気になるところではあるが、自分の心臓の為にも聞かないことにした。
唯一オーランが主催者として会場にいたはずなのだが、レピュテイシャンと出かけた後、帰ってこない。
あの揺れに巻き込まれて怪我でもしたのではないかと、心配である。
色々詳しい話を聞く為にも、自分が最後まで頑張らねばと国王は己に言い聞かせる。
だがその決意も、目の前で繰り広げられている光景に脱力してしまう。
目の前の光景、それは……メアリールとレピュテイシャンと突然現れた謎の美女がじゃれている姿だ。
近衛隊隊長の指揮の元、人々の無事や建物の安全を確認し、その都度報告を聞いていた宰相がある程度落ち着くと、メアリールを振り返った。
「いつもなら剣一振りで片付くのに今日の群れは多かったから、、何度も振り払って流石の私も疲れたぞ。メアリール、労わってくれ」
「はい、キアラ様。ご苦労様でした」
「だ~か~ら~、やめろ! これは俺の」
「メアリール様って意外と場に溶け込むのが早いですよね」
謎の美女に膝枕して、いい子いい子と頭を撫でるメアリールに思わず突っ込むパズ。
二人の美女にキャンキャンと吠える異国の王子の姿を見ていると、先程の緊迫した状況は嘘のようだ。
宰相は頭痛をこらえて、レピュテイシャンに声をかけた。
「レピュテイシャン殿下、説明をお願いしたいのですが、まず彼女の身元をお訊きしてもよろしいでしょうか?」
「ん? ああ、こいつはキアラ。俺の叔母だ」
「叔母? では王族のお方ですか。これは大変失礼をいたしました」
さっと膝をつく宰相に、キアラは「お前は?」とたずねる。
「この国の宰相殿だ。メルの父君だぞ」
宰相の代わりに応えたレピュテイシャンの言葉に、キアラは喜色を浮かべる。
「おお、そうか。メアリールの父親か。私はメアリールを大層気に入っている。レピュではなく私にくれないか? 大事にするぞ」
「は?」
そこでレピュテイシャンがキアラを殴ろうとして、さっとかわされた。
レピュテイシャンは悔しそうにしながらも、ひとまずメアリールからキアラを引き離せたことに安堵したようだ。
すぐに自分の後ろにメアリールを隠すと、宰相には「馬鹿なんだ、気にしないでくれ」と微笑んだ。
改めてレピュテイシャンの説明を聞くべく、皆が居ずまいを正す。
「今回の騒動は、カッタス国が俺を拉致して魔道具を我が物にしようと企んだのがきっかけだな。魔道具を手に入れれば、どんな戦争にでも勝てると思ったんだろう。すでに俺が手に入ったと決めつけ、辺境伯の病により守備が手薄になった所を狙って行動に移してきた」
「ではその動きに、魔物が触発されたということですか?」
宰相がたずねると、レピュテイシャンはコクリと頷いた。
「先程の揺れは魔物が一斉に興奮し、暴れ出したことによりおきたものだろう」
「レピュテイシャン殿下は、それら全てを事前に察知されていたのですか?」
上層部の一人が口を挟む。
「分かってはいたが、魔物の動きは想像していたより少し時期が早まってしまった。カッタス国を落ち着かせた後、一気に片付けるつもりでいたのだが……」
そこでメアリールの横に座っているキアラに、胡乱な目を向けた。
キアラが「ん?」と首を傾げるので、ハア~っと大きな溜息を吐いたレピュテイシャンは、次にパズへと視線を送る。
二人の当初の計画ではカッタス国を片付けた後、辺境伯と口裏を合わせて一気に魔物を消滅させるつもりでいた。
そうすれば、複数の魔物を退治している姿を他者に目撃される心配がないと思ったからだ。
あれほどの数では流石に爆音は隠せないし、今回のような揺れも起こるだろう。
後々、詮索されても面倒くさいと考えていたのだ。
「で、では、殿下はすでに拉致されそうになったのですか? それはどこで? まさかこの国にカッタス国の間諜が……」
上層部の一人が、顔色を変えてたずねてくる。
それもそのはず。レピュテイシャンがこの国で拉致されたのであれば、責任はチェルリア国にかっかてくる。
そしてそれ以前に敵とされているカッタス国の人間が、存在を知られることなくこの国に出入りしているのであれば、それだけで大問題だ。
「この国に来た当初にも狙われたが、つい先程もだな」
「え? まさか宴の途中にですか?」
まさか、と驚く貴族達に本当のことだと頷くレピュテイシャン。
「この地震で勝手に自滅していたがな。今もまだ、西の城壁辺りで倒れているんじゃないか?」
その言葉を聞いて、一人の貴族が声を荒げる。
「待ってください。確か殿下はオーラン様と我が国の騎士数名と一緒に出られたのではなかったのですか? オーラン様や我が国の騎士は……」
「それに関しては、本人達の口から聞いてくれ。俺からは言わない」
キッパリと突き放されて、これ以上は聞けないと判断した宰相が、騎士に命じてすぐに城壁へと確認に行かせた。
「では、辺境伯に関しましては?」
「辺境伯が病で倒れて、緊迫していた睨み合いが今にも崩れそうだという噂は、かなり前から広まっていただろう。だから辺境伯の元に行き病を調べたら、このパズが病名を当てたので、国に知らせて薬を作らせた。それを飲ませたらある程度元気になったという報告を受けたが、全回復するにはもう少し薬が足りないということだったので、オリバーに持って行かせたんだ」
皆が一斉に息を呑む。
辺境伯の病は、宮廷からも医師を派遣したが誰もそれを解明できる者はいなかった。
全ての医師が匙を投げた病を、ブリック国の側近はいとも簡単に探り当て、ブリック国内で薬を作り出したのだという。それもこの短期間で。
「ブリック国は、医学にも精通しているのか……」
上層部が震える声で呟くのを聞いたレピュテイシャンは、振り返りパズをニヤリと見つめる。
「お前の脳みそが、おかしいんだよなぁ」
「それを生かせるように医師や機関を揃えたのは貴方でしょう。貴方の方が変です」
主従二人の会話は、恐ろしいものであった。
謎の病を解明し、薬を作り出す。そしてそれらを遠く離れた土地で。やり取りできる手段。
知れば知るほど謎が深まる国に対して怯えはあるものの、今は状況を知ることの方が大事だと判断した宰相は、次の説明を求めた。
「このようなことが頼めるほどオリバー殿下とはいつ、ご友人関係に?」
「友人関係などではありません。オリバー殿下がレピュテイシャン様に失礼なお願いをされたので、代償として少しは祖国の役に立てるように彼にも役割を与えてあげたのです」
「え、失礼なお願いとは?」
「おい」
パズが憤った様子で話すのを上層部は『第三王子また何かやらかしたのか?』と内心ハラハラした。
国王陛下も、たかが他国の側近が王族に対して無礼な。と憤ってもおかしくないのだが、今までの会話からして『オリバー、今度は何をしでかした?』と第三王子の愚行を察知して、白目をむきそうになっている。
「いや、オリバーは可愛いぞ。先程も悲鳴をあげていたじゃないか。辺境伯も可愛がってくれているようだ」
その可愛がっているというのは、多分意味が違うと思います!
全員が心の中で叫んだか、レピュテイシャンが気にしていないようなので、これ以上ブリック国の人間を怒らせないようにと、オリバーの話しはこれで終わりにしよと考えた。
「あの、では最後に。確かに魔物の襲来は、かなりの数であったようです。あちらこちらで魔物の荒らした残骸が確認されています。ただ、死傷者並びに建物などの大きな被害はありません。レピュテイシャン殿下が結界を張ってくれていたお蔭もありますが、それに及ぶ前に消滅したものと思われます。それを、その……キアラ様お一人で?」
宰相が上がってきた報告をまとめて話すと、最後にキアラに確認を求めた。
「部下は連れて来ているが、前回パズに怒られたからな。国境で待機させている」
キアラ曰く、メアリールに会いたくなって遊びに来たら、自分の行く手を阻むように魔物の群れが目の前にいたので、邪魔だから消滅させたのだそうだ。
「駄目だったのか?」
コテンと首を傾げるレピュテイシャン似の美女に、上層部は「はぅん」と魂を飛ばした。
一斉にキアラに跪く上層部。
「キアラ様は女神です!」
「いや、魔族……うぐっ」
上層部の面々をその美貌一つで落とした美女は、己の正体を明かしかけてパズの手により、その口を塞がれた。
メアリールは思う。
うん、やっぱりキアラ様って可愛い♡




